第38話 港町へ行こう

 農園から東に飛び、東の大河まで辿り着くと、そのまま大河沿いに南下した。

しばらくすると東の大河の街が見えて来た。

ここはミンストル城塞都市から街道を東に進んだ位置にある港町だ。

ミンストル城塞都市から150kmといったところだ。

城壁を迂回し俺達は西門前にワイバーンと共に降り立った。


「結構遠かったな。いっそひとっ飛びで来られればいいのに」


 俺が不満を漏らすと魔導の極が俺の脳裏に囁いた。

転移魔法を使えばいいと頭に浮かんだのだ。

ああ、そうだよね。あれだけ時空魔法が使えるのなら、当然転移魔法が使えるよね。

転移は俺が行ったことがある場所限定か……。

人数は――制限なしですか……。正に極。正にチート。


「帰りは夜中になりそうですね」


「滞在時間はどのぐらい取れるのでしょうか?」


 アイリーンやアリマが不安そうにしている。


「ああ、心配しなくていい。転移魔法を覚えた。帰りは転移で一瞬だ」


 俺がそう言うと皆が呆れた顔をした。

今覚えたというのは不自然だったかもしれない。

しかし、今まで使えることを知らなかったのは本当なんだぞ。


「ワイバーンは今帰してしまおう。白、農園まで先導出来るな?」


「クワァ!(できる)」


 アホだったワイバーンも簡単な命令を聞けるまでにニルが調教した。

もし迷子になったらニルがピン子で探すだろう。

小型なのに何故か群れのリーダーとみなされてるピン子になら皆付いていくのだ。


 それより問題は装甲車に続いてワイバーンの使用頻度も今後落ちるだろうということだ。

ワイバーンで移動するようになって以来、装甲車の出番は皆無だった。

その立場がワイバーンにもやって来たのだ。

あ、偽装工作でワイバーンごと転移すれば良かったのか。

どうやってここまで来たんだと不審がられてしまうからな。

そこで転移魔法が使えるなんて公表できるわけがない。

ならワイバーンは帰さなくても良かったな。


「ちょっと白、待って」


 俺が気付くのが遅かったのがいけなかった。

ワイバーン達は空荷だったこともあり猛スピードで農園に向かってしまっていた。

ワイバーンはアホだが命令に忠実なのだ。

次の命令が聞こえなければ、最初の命令を忠実に守る。

俺は挙げた右手を所在無げに降ろした。


「仕方ない。街に入るぞ」


 俺たちは西の門から東の大河の街、ロージアボンに入ることにした。

街は俗称として港町と呼ばれていた。

入り口でギルドカードを見せる。

胸に抱いたプチの可愛さに視線が集まるが、それ以上に注目を集めたのは俺の後ろだった。

後ろの七人の美女が俺の所有奴隷であることに衛兵が驚きの顔をするが、直ぐに仕事の顔に戻った。


「入街税八人分で銅貨16枚です」


 ここは入街税が一人銅貨2枚らしい。ペットは無料だ。


「これで」


 俺はギルドカードのチャージで入街税を支払った。

銅貨8枚ぐらいなら数えて出すが、16枚となると面倒だからな。

なんの問題テンプレもなく街に入る。

街の西側と南側は城壁に守られているが。東側は港となっていてオープンだった。

その代わりに要塞と思われる城塞が別途街の北側にあった。

大河沿いの北側を守っているということか?

つまり仮想敵国は北にあると……。


「よし、予定通りアリマ班は買い出しを頼む」


 俺はアリマに金貨50枚の入った革袋を渡す。

アリマはギルドカード決済が出来ないから、現金を渡す必要があるのだ。


「これぐらいあれば大丈夫だな?」


 だが、アリマは革袋の中を見て困惑し、金貨を返してくる。


「こんなにあっても困ります。

だいいちこの金貨で買うようなものは持ち運べません」


 アリマ班のシャーロ、リーゼ、ティアも苦笑いをしている。

このままだったら、彼女達が荷物持ちをしなければならなかったからだ。


 そうだった。今までは俺が買い物に付き合っていたから、片っ端からインベントリに入れていたんだった。

これが初めての別行動だったから、そんなことにも気づけていなかった。

俺はあのラノベで良く出て来る収納魔法を付与した魔法鞄というものを思い出し、イメージを込めて錬金術を使った。

鞄の材料は魔物の皮がいっぱいあるのでそれでいいな。


「はい、これ。魔法鞄。

収納空間増大と重量無効、あと時間停止もついてる。

これを二つ持たせるから使って」


 俺はアリマとシャーロに肩掛けのついた魔法鞄を渡した。

アリマには金貨袋も。


「クランド様、その機能の魔法鞄なら一つで十分です……」


 シャーロが渡したばかりの魔法鞄を返して来た。


「そうか。じゃあ、こっちは……」


 サラーナの目がキラリと光る。

獲物を捕らえた肉食獣のようだ。

欲しいんだな? 欲しいと目が言っているよ……。


「サラーナが使え」


あるじ様、いいの?」


 サラーナがめちゃくちゃ喜ぶ。

するとリーゼロッテが畏まって小声で囁いてきた。


「主君、その魔法鞄はURウルトラレアアイテムです。

あまり人目に触れさせない方が良いでしょう」


 そうか。それは拙いな。それでシャーロも遠慮したのか。

だが、それならダミーで大きな背嚢リュックを持っていた方が良さそうだ。


「アリマ、そうらしい。気を付けて使え。

リーゼ、ティア、ダミーの背嚢リュックだ。

これに入れているふりをしろ。アリマの護衛をくれぐれも頼む」


「はい」

「「承知」」


「これ返すー……」


 サラーナがビビって魔法鞄を返してきた。


「いや、魔法鞄として使わなければ誰も気づかないだろ?」


「そうかも。でもー……」


 国宝級のアイテムなら殺してでも奪おうという輩に狙われかねない。

やはり怖いのだろう。仕方ないな。


「よし付与なしの肩掛けポシェットを作ってやる。それを持て」


「やったーーー♡」


 小さくて可愛いポシェットにサラーナが破顔した。いい笑顔だ。


「アイリーンもいるか?」


「はい♡」


「アリマとシャーロにもやろう。アリマは財布にでもしろ」


「クランド様、ありがとうございます♡」


「旦那様、私は腰のベルトに付けていただきたいです」


「そうかこれでいいか?」


 俺はベルトと一体になった小物入れを作ってアリマに渡した。


「はい♡」


 これなら護衛にも良いな。


「護衛には剣帯のベルトに小物入れを付けよう」


「「ありがとうございます」」「うれしいにゃ」


 皆に革製のポシェットや小物入れが行きわたった。

実は容量や機能を下げた魔法鞄だということは内緒だ。


「え?」


 金貨袋を小物入れに入れたアリマが早速気付いた。

ニヤリと笑う俺。

ため息をつくも何も言わないアリマ。

アリマの様子に、浮かれているサラーナとミーナ以外はたぶん全員が小物入れの正体に気付いただろう。

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