第18話 鈍感系主人公として抵抗する

 平原を装甲車で走破し森の入り口に到着した。

そこで放牧民三人娘が予期せぬ反応を示す。


『ここは魔の森!』『いやよ、助けて!』『あうあう……』


 放牧民三人娘がパニックになっていた。

どうやら俺が住んでいる森は魔の森と呼ばれ、この世界の住人にとって不可侵な領域らしい。

踏み入れば死が待っている。そんな恐怖の森が中央山脈の南北に渡って広がっているんだとか。


 そこへタイミング悪くジェノサイドベアが現れた。

俺にとっては、この森で普通・・によく出くわす熊なんだが……。

プチとの散歩で良く倒しているので、俺のインベントリにも沢山収納されている。

雑魚の熊だと思っていたのだが、冒険者ギルドの反応を見る限り、どうやら危険な魔物らしい。

名前も殲滅ジェノサイド熊だしね。


『『『いやーーーーー!』』』


 衣を引き裂くような悲鳴が三つ上がる。

放牧民三人娘の悲鳴だ。


「わおーん! (【ういんどかったー】)」


 プチが小型犬のまま右前足を振り、風魔法の【風刃ウインドカッター】を飛ばしてサクッと熊を狩る。

首を落とされドーンと倒れる体長5mの熊。

それを目に収め、唖然とした顔でプチの方を見る三人。

次の瞬間、三人はプチに抱き着いていた。


「わんちゃん、強~い」


 プチが褒められて得意顔になる。

しっぽがブンブン振られている。

彼女達もプチがナンバー2であることが理解できただろう。

みんなにモフモフされてお腹を出している。

何か違う気がする……。


 さてここからの移動はどうするか。

プチがいくら3mに巨大化できるとはいえ、プチの背中には四人も乗ることは出来ない。

せめて二人づつ乗るにしても、森の中の住処までは片道で一時間かかるので、全員が移動するには行って戻ってまた行ってで三時間かかる。

今後また街へ出かけるのに、催行人数が俺含めて二人と制限されるのもいただけない。


「よし道を造ってしまおう」


 森を切り開き、装甲車が通れるようにすればいい。

俺ならまだしも、三人の防御力では生身でプチに乗るのは安全面でも問題がある。

なんのための装甲・・車なのか。

魔物に襲われても耐えられるためではなかったのか。

懸念材料は第三者の農園への侵入だったはず。

魔導の極が森の入り口に【隠蔽】や【結界】の魔法をかければ良いと囁いている。

もし侵入されても農場には堅牢な塀に空堀がある。

敵対的な人間とは関りたくないが、人との接触はここで暮らしていくには避けては通れない必要なしがらみだろう。

ずっと一人で生きていくわけにはいかないのだ。



 俺は【風刃ウインドカッター】で森の木を伐採した。

切り倒した木は【自動拾得】でインベントリ内に収納する。

切り株ごと【整地】の魔法をかけ、土魔法の【造成】で道路として中央を盛り上げたり側溝を設けて【強化】をかける。

この一連の魔法を道路造成の基本形とし、作業を一纏めにして【道路造成】の複合魔法とする。

森の入り口部分には別途【結界】と【隠蔽】の魔法を二重かけした。

これでここに道があるとは認識できないし第三者は侵入もできないはず。

俺達は装甲車に乗るとそのまま森の道へと入り、移動しつつ前方に【道路造成】をかけていく。


 道が出来、そこを装甲車が通過しまた前方に道が出来る。

方角は自動運転が勝手に合わせてくれている。

障害物の岩もそのまま道になっていく。

その様子を見た三人娘の目に俺に対する畏敬の念が現れ始める。


「ご主人様は大魔法使い様だったのですね」


「いや大賢者だけど?」


「プチ様も聖獣様だったのですね」


「「一生お仕えいたします」」


 ターニャとアリマが完全に服従の態度になってしまった。

そしてサラーナは……。


『我らキルトの民は、強者に嫁ぐのが習わし。

わらわはあるじを強者と認め、主の妻となろうぞ』


 性奴隷の魔法の影響か余計な宣言をする始末だった。

俺は鈍感系主人公の常としてそれを聞かなかったことにする。



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



 【道路造成】しつつの移動だったにも関わらず、農園の南門前にきちんと辿り着いた。

モバイル端末のナビゲーションシステムは完璧で、造成された道路は寸分の狂いもなく南門前に繋がった。

装甲車の速度がプチより遅いのと、【道路造成】をかけながらの道のりだったため、森の道中は2時間ほどかかってしまった。

帰ると農場は夕闇に暮れる時間となっていた。


「人が三人も増えるのに、寝る場所も作ってなかったな」


 まあ、奴隷購入は予定外だったので、今までのねぐらしか用意されていないのは当然である。

だが、三人の女性との共同生活ともなると、家を建てきちんとプライバシーを守れる個室を与える必要があるだろう。

俺は従業員の福利厚生をきちんと考える雇用主なのだ。


「俺のねぐらは狭いから、ちゃちゃっと個室を造ってしまおう」


「|主《あるじ》どの、わらわは一緒でかまわんぞ」


 サラーナは俺に嫁ぐ気満々で同衾する気でいる。

それを華麗にスルーする。


「「私どもも雑魚寝でかまいません。お手付きになられても……」」


 ターニャとアリマも顔を赤らめて不穏なことを口走る。

放牧民は一夫多妻制度で、嫁が複数いるのが当たり前らしい。


「それは駄目。雇用主と従業員は一緒に寝てはいけないの!」


 俺は雰囲気に流されることなく、別々に寝ることを指示した。

美人三人に迫られるなんて俺には未知の経験だったが、よく我慢したもんだ。

綺麗ごとだが、そんな目的で奴隷を買ったんじゃない。

ハーレムは男のロマンだが、俺は鈍感系主人公なのだ。(断言)


 俺は土魔法で丘に穴を掘ると、そこに彼女達の部屋を作った。

俺のねぐらとの間にリビングとキッチンを設置し、洞窟通路で繋がるようにした。

間に一部屋置いたのは、そこが男女の境界線だと示すためだ。

夜はそこを越えてはいけないと自らを律するつもりだ。


 リビングの横にキッチンも作ったので、そこで夕食を調理することにした。

半地下になるので、吸排気を確保するために、吸気口と排気用の煙突を設置するのが少々面倒だった。

水回りは魔法水で勘弁してもらおう。ここではまだ排水が完備していないので流せない。

今日はもう遅いので、夕食は街で仕入れたパンと有り余っているオーク肉(ロース)のソテーにする。

カセットコンロほどの大きさの魔導具に火を入れ、フライパンで焼く。

サラダは葉物野菜を適当に出すので、勝手にちぎってもらいたい。

飲み物は果物の絞り汁でいいか。今日はリンゴとモモのミックスで。

俺にとっては手抜き料理だったのだが、彼女達にとってはそうではなかったようだ。


『こんな美味しい食事が頂ける幸せが私達に戻ってくるなんて……』


『いつぶりだろう……』


『奴隷商に残った同族の娘達が不憫です』


『あの達にも美味しい料理を食べさせてあげたい……』


 食べながら三人がむせび泣いて話しているのが聞こえてしまった。

あそこに残った二人も買ってあげた方が良かったのかな?

俺は美人に好意を寄せられて有頂天になっていたのかもしれない。


 翌日、奴隷が二人増えました。

こんなことをしていたら、いつか一国分の奴隷を救わないとならなくなるぞ。

サラーナの国の国民は全員不当な扱いを受けているんだしな。

嫌な予感がするが気のせいだろう。

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