第17話 奴隷姫サラーナ

 プチのここ掘れわんわんが発動したため、思わず三人の奴隷を買ってしまった。

とりあえず、彼女たちには自己紹介をしてもらい、名前を知ることにした。

この世界では、買った奴隷の名前は主人となった者が付けるのだそうだが、俺はそんなことをするつもりもなかったので、元の名前を使ってもらうことにしたのだ。

放牧民キルト族の姫サラーナ、その側付きで護衛役のターニャ、側付きメイドのアリマが三人の名と元の身分だ。

隷属魔法によって俺の命令には逆らえないことになっているが、強い精神力があれば抗うことが出来るようだ。

特に姫のサラーナは奴隷商のダンキンに逆らうことが多々あったらしい。

そのようなことが続くと困るので、俺は奴隷商の店舗から出ると三人に言い含めるところから始めた。


『俺の農園に来れば生活は保障できる。

仕事は家畜の世話と畑仕事になる。

少なくとも不幸になるような扱いをするつもりはないから安心して欲しい。

ここで逃げれば王国の法によって厳しい扱いを受けることになるそうだ。

逃げた場合は、逃亡奴隷となり厳しい立場になってしまうぞ。

俺でも庇うことはできないからな』


『『はい』』『……』


 サラーナは首に嵌められた新しい首輪を気にしている。

今までの首輪があまりにも武骨だったので、ファッション性の高いものに変えたのだ。

奴隷の証であり隷属魔法の作用魔道具なので、必ず嵌める義務がある。

これは奴隷としての身分を守るためでもある。

所有者を明らかにし、所有者からの庇護を受ける証明になるのだ。

この首輪の嵌った所有奴隷に他人が手を出すと王国法により罰せられることになる。


『サラーナ、返事は?』


『わかったのじゃ』


『その”のじゃ語”ももうやめるんだ。お前はもう姫じゃないんだからな。

従業員としては身の安全も生活の保障も与えられるが、今後は姫としては扱えない。

俺はクランド、こいつはプチ。俺の農場ではプチが二番目に偉いからな』


『くっ』『『わかりました』』


 サラーナは犬より下だと言われて屈辱感に苛まれているようだ。

ターニャとアリマは状況が理解できているらしい。

側付きだったとはいえ、もう国は無いんだ。

いつまでも姫のお守り役というわけにはいかないと理解しているのだろう。

いやプチは賢いし、聖獣だし、農場のナンバー2は当たり前なんだけどな。


『よし、わかったなら服と靴を買いに行くぞ。

いつまでもそんな服で裸足では困るだろ』


『良いのですか?』


 急にサラーナの機嫌が良くなる。

わからん娘だ。扱いに困るな。

買ったのは失敗したか?


「王国公用語も少しは出来るのだろう?」


「「はい」」


「サラーナは?」


「できる。でも使いたくない」


「使え! 命令だ」


「くっ。わかった」


 俺は首を竦めてやれやれというポーズを思わずとってしまった。


『農園の暮らしは奴隷ではなく従業員として扱うつもりだ。

だが不必要な反抗をすれば奴隷として命令せざるを得ない。そこは肝に銘じておくように』


「「「はい」」」


 長い文章は伝わらないので、放牧民語を使って伝える。

だが今後は彼女達には王国公用語で返事をさせようと思う。

王国に住むのだからそれは徹底する。


 ちなみに三人の身体情報はこんな感じ。

サラーナ:人 18歳 金色の背中までのストレートヘア 茶眼 薄い褐色肌 163cm Cカップ

ターニャ:人 20歳 茶色のベリーショート 茶眼 褐色肌 168cm Bカップ

アリマ:人 17歳 金色の肩までのボブ 茶眼 褐色肌 154cm Dカップ


 俺達は路地裏の洋品店に向かった。

なんでだ? 俺の服より一人あたりの額がかなり高かったぞ。

服はワンピースや作業用の長袖長ズボンだけなのに?

別にドレスを買ったわけじゃないというのに不思議だ。

下着か。下着が高いのか!

下着だけは俺の見ていないところで選ばせたからな。

それが祟ったのかもしれない。


『次は市場で買い出しをする。

タオルや生活用品も買うから、気付いたことは言うように。

それから牛乳やバター、チーズを探している。目は効くだろ? 選んでくれ』


「はい」


 アリマが率先して答える。

これはメイドだったアリマに任せるのが妥当だな。

市場では食器やタオル、桶のような生活必需品と乳製品を手に入れた。

だがバターは牛乳から使う都度作るらしい。

なので牛乳を大量仕入れした。

俺のインベントリが時間停止なことに皆驚いていた。

牛乳を保存するにはヨーグルトにするしかないと思っていたらしい。

インベントリのことは秘密にするように。



『ターニャは護衛だったそうだが、武器は何を使う?』


「弓と剣だ」


『なら買ってやる。武器屋へ行くぞ』


 俺がそう言うとターニャは嬉しそうにしている。

武器屋ではターニャが嬉々として武器を選んでいた。

少し馴れたのか、表情が豊かになって来た。


「これを頼む」


 ターニャが遠慮がちに選んだ武器はそこそこ安い品だった。

だがじっくりと吟味した選りすぐりだ。

そこら辺にターニャの堅実さが出ていて面白い。

俺は何も言わずにそれらを購入しターニャに渡した。


 これでこの四人のパーティは武器持ちが二人になった。

女が多いからって早々襲ってくることも無いだろう。


「じゃあ帰るぞ」


 三人と一匹を連れて西側の街道を進む。


「歩き?」


 サラーナが不平を漏らす。我儘な姫だ。


「ちょっと待ってろ」


 俺は街道を外れた空き地にインベントリから装甲車を出した。

ポカンと口を開けて見ているだろうと三人の方を見ると、ターニャが剣を構えサラーナを守る体制をとっていた。


「なんの真似だ」


 俺は怒りを抑えて問いただす。


「それ、帝国の兵器。やっぱりクランドは帝国人なのか!」


 ターニャが詰問する。

どうやら彼女たちの国を滅ぼしたガイアベザル帝国は遺跡の車両を使っているらしい。

なので黒髪黒目に見え同じ車両を使っている俺を敵と誤認したのだろう。


『誤解だ。たまたま遺跡で拾って使っているだけだ。

この車に武器はないからな?

ほら、俺の髪と目も濃い茶色で黒じゃないだろ?

俺は帝国とは関係がない。安心しろ』


『良く見ると違う。こんなの見たことない』


 アリマが細かい違いに気付く。

どうやら、ガイアベザル帝国は遺跡から出土した車両を使っているが、修理や改造などは出来ないらしい。

なので、使っている車両の外観は限定されるのだ。

アリマのもつ知識によりやっと誤解が解けたようだ。


「すまない」


 ターニャが地に伏して謝罪して来た。

主人に武器を向けたのだ。どんな罰があるのかと恐れている。


『誤解がとけたならいい。切りつけて来なくてよかったよ』


 俺は冗談めかして言う。


「ごめんなさい。私が一生の忠誠を誓います。ターニャを罰しないでください」


 意外なことにサラーナが身を盾にしてターニャを守ろうとしてくる。

そこらへんはやっぱり姫なんだな。臣下を庇う器量を持っている。


「罰する気はないよ。わかればいいんだ。

さっさと車に乗ろう」


 俺は三人に乗車を促した。

プチはさっさと助手席に駆け上がっている。

三人は後ろのベンチシートに座る。


「中がぜんぜん違う」


「これは戦う車じゃない」


 どうやら三人は帝国の車両の中を知っているらしい。

完全に別物と理解して安心したようだ。

それにしても北の帝国は侵略国家みたいだな。

ガイアベザルという名前から、この車両を残したガイア帝国と繋がっているのだろうか?

旧文明の兵器を使っているとなると、この剣と魔法の世界ではいろいろ面倒そうだな。


「よし農園に帰るぞ」


 俺達は装甲車を農園に向けた。

あ、森の中の移動はどうしようか。

プチに四人乗るわけにはいかないよな。


「勝手に動いてる!」「いやー」「きゃー」


 三人がパニックになっていた。

あれ? 北の帝国の車両は自動運転出来ないのか?

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