第14話 冒険者ギルド
「プチ、どうやら冒険者ギルドがあるらしい。そこへ向かうよ」
「わかった」
あれ? プチの言葉って他の人には何て聞こえてるんだろう?
しゃべる犬だと思われたら、こんなに可愛いし誘拐されかねない。
俺は周囲の様子を伺うが、どうやらプチの言葉は「わんわん」としか聞こえていないようだ。
逆に俺の言葉が「わんわん」でもドン引きされそうだが、プチには俺の言葉――いやこの世界の人の言葉もか――がわかっているらしい。
つまりプチも異世界言語のスキルを持っているのだろう。
でも、人語を話す珍しい犬以前に、プチは可愛すぎるから誘拐の危険があるな。
ずっと抱き続けることにしよう。
ギルドは大通りの一番良い一番目立つ場所にあった。
スイングドアを開けて中に入ると、そこに居た冒険者の視線が一斉に俺へと集まった。
ラノベお約束の展開すぎて顔がニヤける。
それを侮りと取ったのか一部の冒険者の顔色が変わる。
拙い拙い。気を付けないとフラグが立ってしまう!
冒険者ギルドはラノベに良くあるように銀行の窓口に似ていた。
空いている窓口に向かうと要件を伝える。
「こんにちは、冒険者登録と魔物の素材の買取をお願いしたいのですが?」
俺がそう告げると受付のお姉さんが良い笑顔で応対してくれる。
「こんにちは、初登録ですか?」
ああ、異世界初の女性との会話だ! テンションが上がる。
「はい」
「素材は亜空間倉庫に?」
お姉さんが登録用紙を出しつつ尋ねる。
おお、亜空間倉庫のスキルはそんなに珍しくないのか。
これ幸いと俺は答える。
「ええ、亜空間倉庫に入っています」
「買取は登録が終わってからになります。代筆はいりますか?」
「いえ、大丈夫です(たぶん)」
登録用紙にさっさと書く。
異世界言語のスキルがあるので、意識しなくてもこの世界の文字で書けてしまう。
名前はクランドでいいか。出身地は記録に残したくないので空欄にする。
俺が記入している間に受付のお姉さんがタブレット状の装置を机の上に出した。
「それでは、そこに手を置いてください」
衛兵の時と同じだろうと軽い気持ちで手を置く。
また俺の髪と目の色をチラチラと見られる。
「はい、終わりです」
また犯罪履歴のチェックかと思ったら個人認証の登録だったらしい。
装置からカードが出て来た。
「これがクランド様の冒険者カードになります。
あ、申し訳ありません。銀貨1枚です」
拙い。また金がない。
「すみません。財布を落として素材ぐらいしか持ってなくて、魔物素材を売ってからでもいいですか?」
「かまいませんよ。
あ、先に代金を伝えずに申し訳ありませんでした」
受付のお姉さんはてへぺろっとしていた。
あざとい。人気受付嬢だと確信する。
魔物の素材を買取専用窓口に出しに行く。
ここも美人の受付嬢さんが担当だ。
冒険者がむさ苦しいから、受付嬢さんだけでも花があるようにしているのだろうか?
「買取をお願いします」
「いらっしゃいませ。こちらに出してください」
とりあえず
あまり高額になってもいけないし。
今出した素材はインベントリに収納されている素材としては中の下ぐらいの物だから問題ないだろう。
俺が毛皮と鱗を1枚ずつ出して行くとギルド内が騒然とした。
え? 何かまずかった? これインベントリにいっぱいあるんだけど?
「サーベルタイガーに
「名前は知らないけど、そうなの?」
「どれも貴重な素材です。ジェノサイドベア以外はオークションに出すような素材ですよ?」
そうなのか。魔物の名前も強さもわからないから、そこまで貴重だとは思わなかったよ。
オークションなんて日数もかかるだろうし面倒だな。
そうだ、お宝で手に入れた金塊は両替できないのかな?
「金塊もあるんだけど、両替できない?」
もう騒がれるような素材を持っていることは衛兵にも受付のお姉さんにもバレちゃっているんだから、金塊ぐらい出してもいいよね。
「金塊! 大きい!
それは金の含有量の検査と計量がありますので直ぐに現金化は無理です」
「なら他はオークションでいいから、ジェノサイドベアだけ買取にして欲しい。
身ぐるみ失ってるから早急にお金がいるんだよ」
俺のその言葉に受付のお姉さんの目の色が変わる。
「全て買取らせていただきます!
あ、私はクレアと申します。
ギルドマスターを呼びますのでしばらくお待ちください」
どうやら買取金額の総額で受付嬢の成績が決まり、ボーナスが出るのだそうだ。
金塊の値段はどうやらギルドマスターの【鑑定】に委ねるらしい。
この後クレアはオークションを通さない買取でとんでもない成績を収めることになる。
「なんじゃこれは!」
ギルドマスターも口をあんぐりと開けている。
やっちゃったか。悪目立ちしないようにと思っていたのに、思った以上に貴重だったらしい。
まさかあんな魔物の素材やこんな魔物の素材までインベントリに入っているとはもう言いだせないな。
「どれも極上の状態じゃな。本当に買取で良いのかの?
オークションなら5割はアップすること間違いなしじゃぞ?」
「魔物に襲われて馬車を失っているので、直ぐに現金が必要なんですよ」
俺の言い訳にギルドマスターは何か思うところがあったのか、しばらく思案するとため息をついて話し始めた。
「まあ詮索はしないでおこう。
じゃが、全て買取となると現金が足らん。
ギルドカードへのチャージなら直ぐなんだがどうする?」
「この街で買い物が出来るならそれで良いですよ。
あ、西門の衛兵詰め所に銅貨1枚を払わなければいけないので僅かばかりの現金はいただきたいです」
俺は冷や冷やしながら、ギルドマスターの申し出を受け入れた。
ギルドマスターが驚くような高ランクの魔物素材を持っているのに、街道で魔物に襲われたなんて明らかに嘘だとバレたのだろう。
そこを呑み込んでくれたギルドマスターに感謝だな。
「それぐらいは配慮しよう。金貨100枚と小銭ぐらいで良いかの?」
取引成立だ。
俺は現金110万Gとギルドチャージで2億7321万Gを得た。
俺はギルドを出ると直ぐに西門へと向かい、身分証明書のギルドカードと預かり証を見せ、入街料銅貨1枚――100G――を払って保証として預けたツインホーンライノの魔石を取り戻した。
さて買い物をするかと思って街中に引き返すとプチが話かけて来た。
「ご主人、ご主人。つけられてるよ?」
うん。俺も気付いていた。
大金を手に入れたところを見られたのはまずかったな。
成人――この世界では15歳で成人――したばかりの小僧が丸腰で大金を持っている。
カモだと思われても仕方ない。
ギルドの中では出来ないことも、路地裏や街の外なら構わないという連中はいるだろう。
犯罪歴の検査なんてすり抜ける手段があるのかもしれないし、実行犯として犯罪組織に襲わせれば本人の経歴には傷がつかないのかもしれない。
蛇の道は蛇。犯罪組織と繋がって私腹を肥やしているような不良冒険者が俺の情報を売ったのかもしれないな。
困ったな。俺はこの世界の法律を知らない。
強盗にあって反撃したら相手が死んでしまったという場合に、日本のように俺が罰せられるような駄目な法律なのかな?
俺はどうやってフラグを折ろうかと悩むのだった。
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