第3話 ごはん

 小型犬に戻ったプチの顎下の毛をモフモフしつつ、現状を確認する。

とりあえず使い道のない財宝とオーク肉を確保した。どうやら、俺とプチは強いらしい。

原状確認終了。


 俺は現実逃避しつつ、プチをモフる。

いや、いつまでも現実逃避はしていられない。

次にやるべきことを決めて行動しないと、直ぐ夜になってしまう。


「とりあえず、死なない程度に強くなって、食料としてオーク肉を手に入れた。

足りないのは、火の確保と水と調味料と安全な寝床かな?」


 俺はプチをモフりつつ独り言を言う。


「ご主人。魔法使う」


 それにプチが三歳児ほどのたどたどしさでアドバイスをくれた。


「ありがとう。プチ。よーし、よしよし」


 俺はお礼にプチの顎下から胸にかけての毛をモフモフする。

そこがお互いに気持ち良いのだ。


 プチの名前はフランス語のPetit―小さい―から来ている。

ブチシューやプチトマトのプチだ。

元々は両親がポチと付けそうになったのを、チワワにその名は無いと俺が頑なに拒否して落ち着いた名なのだ。

ポチはフランス人が飼っていた犬の名がプチだったのを、日本人が聞き間違えて広まった名だと言われている。(諸説あり)

花坂爺さんの童謡の歌詞に出て来るポチも間違った名なのだ。

あれは江戸時代の話だからフランス語はないだろうと思うかもしれないが、実はあのポチという名前は後世になっての創作なのだ。

古い文献には花咲爺さんの犬の名はシロという記述があるらしい。(諸説あり)


「ああ、それでここ掘れわんわんなのか」


 俺はプチの【ここ掘れわんわん】が神様がプチに与えた特別なスキルなのではないかと思った。

偶然にしては、幸運なことが続き過ぎだからだ。


「そういや、プチのステータスって見れないのかな?

プチ、ステータスって出せるか?」


「出せるよ? 出す?」


 プチが首を傾げるカワイイポーズで答える。

当然モフる。


「頼む」


 だが、俺の目にはプチのステータス画面は見えない。


「俺に見せることは出来るか?」


 プチは真剣な顔をしてうんうん唸っていたが、何かを決意した顔で俺の顔を見つめて言う。


「わかんない」


 そう言うと俺の手から離れて草原を走り回りはじめてしまった。

犬は3歳児程度の知力だと言われていので、真剣な思考は長続きしないのだろうか。

そうなると、今後プチに何が出来るのか一つ一つやってみてもらうしかないだろう。

今後の課題だな。


「ご主人、ご主人。お腹すいた」


 走り回るのに飽きたプチが俺の前に走り寄るとお座りをして頂戴のポーズをする。

滅茶苦茶カワイイ。

プチをモフりながら、俺はプチの倒したオーク肉をインベントリから取り出そうとリストを表示する。

ラノベに出て来るファンタジー世界では、オークといえば解体して食肉にするのが定番だ。

プチが倒したオークは自動拾得のスキルで解体され、既に肉となっている。

自動拾得の機能で自動解体を行い、そのままインベントリに収納されるのだ。

これはダンジョンでレベルアップした時にログで表示されたので把握済みだった機能だ。

自動拾得されたオークは皮などの素材と食材としての肉に解体分別されてインベントリに収納される。

ログにそれぞれ分別された部位の量が数値でAR表示される。

そこには肉(ポーク)という表示が出ていた。

たぶん異世界語の表現では別なんだろうけど、俺にはそう見えていた。


「うん。食えるってことは間違いないな」


 俺はポークを1kgほどインベントリから出す。

1kgぐらいと頭にイメージするだけで切り分けられて出て来るとは便利だ。

もしかしてスライスしてとか、ロースをとか部位指定や切り方も指定出来るかもしれない。

やってみる……。簡単にできた。

1kgの塊を収納しロースの薄切りスライスを出す。

プチは体重2kgぐらいの小さな体なので薄切りの方が食べやすいはずだ。

さて調理をと思って気付いた。


「あ、包丁いらずで忘れていたけど、調理器具が無いわ」


 とりあえず俺は周囲を見回して石を探す。

表面が平らな石を見つけると生活魔法の【クリーン】で綺麗にする。

その石の上に薄切りロースを乗せると魔法を放つ。


「【ファイア】」


 俺はちょっと炙るつもりで火魔法を使った。そう、ちょっとのつもりだったんだ。

だが、目の前には炎の柱が天高く立ち上っていた。

その炎が消えた後には、消し炭になった薄切りロース肉が黒く炭化しこびりついた石があるだけだった。

自動で展開された【シールド】魔法で俺とプチが火傷をすることがなかったのが救いだった。


「魔導の極で何でもできるはずが、力の制御が出来なくて何にも使えないいっ!」


 俺は自らの魔法能力に驚愕したが、制御が出来ないことに絶望した。

今後は攻撃魔法系は自重しよう。何が起きるかわからん。

気を取り直して俺はかまどを作ることにした。

土魔法で土を盛り上げ三方向の壁を形成し、上に薄い板状に加工した石板を置いた。

自重なしの土魔法だったが、火魔法よりは普通に使えた。

広範囲魔法でなければ土魔法は余計なことが起きないのが良い。

有り余る魔力も、細かい部分の再現に使用すれば何の問題も起こさなかった。

後は薪を拾い、生活魔法の【乾燥】をかけ生活魔法の【火種】で着火した。

生活魔法と意識するのことで、地球の着火ライターのような使い心地で簡単に火をつけることが出来た。


「生活魔法は威力が制限されていて使いやすいな。(自虐)」


 熱くなった石板に薄切りロース肉を菜箸・・で並べていく。

そう作ったさ。生産の極で木を加工して菜箸を。俺用の皿もプチ用の食器も。

生産の極は便利だ。好きなものが思った通りに作れる。

材料の木もいくらでもある。

自重しなくてもクオリティが上がるだけで変なものにはならない。


 焼きあがった薄切りロース肉をプチの食器に入れてあげて調理ハサミ・・・・・で一口大に切る。

土魔法は自重しなければ調理ハサミだろうがイメージさえしっかりしていれば作れるようだ。

ただし土から作ったセラミック製の間に合わせなので、今後は鉄などの金属を見つけて作り直そうと思う。

(作者注:主人公はセラミックが金属より高性能なことに気付いていません)

宝物庫の剣から作ろうかと思ったけど、オリハルコンやらミスリルやらの希少金属製だったので自重した。

生活魔法の【ウォーター】で水を出し、もう一つの食器に入れてプチの前に置く。

プチはお座りをすると俺の顔を見つめてハフハフしている。

待ての姿勢だ。


「よし」


 物凄い勢いで食べ始めた。プチは『待て』が出来る良い子なのだ。

俺もロース肉を箸でつまむ。

調味料がないので何ともいえない味だ。

素材の味がダイレクトに来るのできつい。


「ああ、塩を探さないとならないな。

野菜などでビタミンも取る必要があるな。

いや町に出て買うか。一応金貨を手に入れたからな」


 今後の目標、鉄の探索、岩塩の探索、食える植物の探索、町の探索かな。


「ご主人、ご主人。雨が降りそうだよ?」


 天を仰ぐと、どんよりとした黒い雨雲が頭上に出来ていた。


「しまった。食事より雨風を凌ぐ住居が先だったか。

まだ日が暮れるのは先だと思って油断した」


 俺たちには安全なねぐらがなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る