ジャパンウォーズ
@kikuzirou
第一章 神武東征編
エピソード1 見えざる脅威
今は昔の物語。
地上世界を治めるため、高天原(たかまのはら)から天孫が降り立った。神の名は、天津彦彦火瓊瓊杵尊(あまつひこひこほのににぎ・のみこと。以下、ニニギ尊)。
降り立った地は、吾田(あた)の長屋の笠狭崎(かささのみさき)という。
今の宮崎県の高千穂峰といわれている。
ニニギ尊は、この地を治めることから始めた。
そしてそれは、
子の彦火日出見尊(ひこほほでみ・のみこと。山幸彦とも。)
孫の彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊(ひこなぎさたけうがやふきあえず・のみこと)
曾孫の狭野尊(さの・のみこと)と代々受け継がれていった。
そして、狭野尊が治める時代。すなわち紀元前667年。高千穂の地を震撼させる出来事が起きようとしていた・・・。
一人の髭もじゃ男がいた。
男の名は狭野尊(さの・のみこと。以下、サノ)。
小高い丘に立ち、黄金色に輝く田を眺めながら、今年の豊作を心から喜んでいた。そこへ、塩土老翁(しおつちのおじ。以下、ジイ)という、名前からも爺さんと分かるじいさんがやって来た。
ジイ「殿、いい話を持ってきましたぞ。」
サノ「何や?」
ジイ「東方に良き地有り。青い山に取り巻かれ、そこに天(あま)の磐舟(いわふね)に乗って、降り立った者がいるそうですぞ。その地に行かれませ。」
サノ「てげ、よだきいが(すごく面倒くさいよ)。ジイが行けばええっちゃ。」
ジイ「わしが行っても、意味ないでしょうが!って言うか、ちゃんと台本通りに言ってくだされ。」
サノ「ああ、あの『古事記』とか『日本書紀』とか・・・。」
ジイ「台本の説明はいいですから、ちゃんと台詞を言ってくだされ。兄や家来たちとも相談せねば・・・ですよ。」
サノ「よだきいから、略して『記紀』と呼ぼうと思うんやが、どうやろう?」
ジイ「話聞いてます?」
サノ「キキって響きも、かわいい感じでええやろ?」
ジイ「いや、ですから・・・。」
こうしてサノは、兄や家来を集めて会議をおこなった。集まった場所は、サノの宮である。
現在の宮崎市にある、皇宮神社(こうぐうじんじゃ)であるといわれている。宮崎神宮から東南に約600メートル離れた、小高い丘にある、神宮の摂社で、地元の人たちは「皇宮屋(こぐや)」と呼んでいる。晴れた日には、高千穂峰を望むことができる。
また、「皇軍発祥の地」という石碑が立っており、言われてみれば、確かにそうだなと思う。今日この頃である。
さて、サノの東方に移住したいという提案を聞き、兄たちや家来たちは、てげ驚いた(とても驚いた)。
まずは、一番上の兄、いつも冷静沈着な髭もじゃ、彦五瀬命(ひこいつせ・のみこと。以下、イツセ)が意見を述べた。
イツセ「サノよ。曾祖父、ニニギ尊が降臨されてから、百七十九万二千四百七十余年(1792470余年)になるっちゃ。ついに、この日が来たんやな。」
そこに家来の剣根(つるぎね)という、小柄な髭もじゃが、食いついてきた。
剣根(つるぎね)「我らが長きに渡って治めてきた、先祖伝来の地を捨てろと申されますか?」
サノ「捨てるんじゃなか。広げるんや。」
未だ納得がいかない表情の剣根の傍らで、サノの次兄の稲飯命(いなひ・のみこと)が賛成を表明するとともに、サノに訓戒を述べた。
稲飯(いなひ)「良いか、サノ。ニニギ尊はな、まだ明るさも充分でなかった時代に、その暗い中にありながら、正しい道を押し開いていかれた。汝(いまし)がおこなおうとしているのは、それくらい困難な道なんや。一族や家来たちを茨の道に進ませることになろう。その覚悟はできておるか?」
サノ「覚悟はできてるっちゃ!」
決意に満ちた表情のサノに対し、目のまわりに入れ墨をした家来、大久米命(おおくめ・のみこと)が苦言を呈してきた。
大久米(おおくめ)「豊かな土地を離れて、辺境の土地に行くんですか?見えざる脅威にさらされて、移動することになるんですよ。変な生き物とか、怖い輩とかおったら、どうするんですか?悪いことは言いません。やめましょう!殿!」
サノ「大久米の申す通り、この高千穂の地は、平和で豊かな地や。じゃっどん、それ以外の地は、村々で境を設けて、争ってばかり・・・。彼らをまとめ、世を平らかにしたい!それには、八洲(やしま)の国の、ほぼ真ん中に位置する、中つ国こそ、大業を成すべき土地やと思うんやじ。」
三兄の三毛入野命(みけいりの・のみこと。以下、ミケ)は満面の笑みで、サノの意見に同調した。
ミケ「汝(いまし)の思うままにせよ。父上は、汝に託したんや。家来たちが、みな反対したとしても、我ら兄弟だけで行けばよいだけのこと。」
そこに、マロ眉の家来、天種子命(あまのたね・のみこと)が意見を述べてきた。
天種子(あまのたね)「殿も、ミケ様も分かっておられますんか?東方にあるという、中つ国には、既に天孫が降り立っておられるんや。饒速日命(にぎはやひ・のみこと)という天孫にあらしゃいます。」
サノ「知っておる。ジイから聞いた。」
天種子(あまのたね)「饒速日(ひぎはやひ)が譲ってくれるとでも?」
サノ「やってみにゃ分からんちゃ。」
最後に意見を言ったのは、筋肉モリモリの家来、日臣命(ひのおみ・のみこと)だった。
日臣(ひのおみ)「おいは、殿に従うっちゃ。おいは、遠い地に行ってみたか。」
そこへサノの妃、吾平津媛(あひらつひめ)を筆頭に、息子の手研耳命(たぎしみみ・のみこと。以下、タギシ)と娘の岐須美美命(きすみみ・のみこと)、そして側室の興世姫(おきよひめ)がやって来た。
開口一番、吾平津媛は反対した。
吾平津(あひらつ)「私はいや!こんな豊かな地を離れるのはいや!」
サノ「いきなり何や!汝(いまし)が何と言おうと、わしは行くぞ!」
岐須美美(きすみみ)「父上、母上の想いも分かってくださりませ。父上と一緒に赴きたい気持ちを抑え、足手まといにならぬよう、わざと悪態をついて、離縁されようとまで思い詰められておられるのです。」
吾平津(あひらつ)「岐須美美!言ってしまったら、意味ないじゃない!」
サノ「そうやったか。されど、確かに、オナゴを連れていくのは危ない。吾平津、汝(いまし)は、岐須美美や興世と共に残れ。汝の兄、吾田小橋(あたの・こばし)にも残ってもらい、高千穂の地を治めてもらうつもりや。」
吾平津(あひらつ)「あなた・・・寂しいですが、こうなることは台詞合わせの時から、分かっておりました。武運長久を祈っておりまする。」
話の流れで、兄の吾田小橋も意気込みを述べた。
小橋(こばし)「御安心くだされ。この地は、守り切ってみせましょうぞ。ちなみに、この宮の跡地とされている、皇宮神社では、1月14日に皇宮屋破魔矢祭(こぐやはまやまつり)をやってますんで、よろしく!気になるアクセス方法ですが、電車なら、JR宮崎神宮駅下車、徒歩10分。バスなら、宮崎駅からデパート前経由で、宮崎神宮下車、徒歩5分。それか、宮交シティ経由で宮崎神宮下車という行き方もありますぞ。」
一同「じぇいあある?」×10
サノ「ぶっこんできたなあ。跡地とか言われても・・・って顔で、みなが呆然としておるではないか。」
すると、ここで息子の手研耳命(たぎしみみ・のみこと)が、突然、壁の方に向かってしゃべり始めた。
タギシ「補足説明をしておこう。ちなみに、わしも皇宮神社に祀られている。母上もな。だがなぜか、岐須美美(きすみみ)は祀られていない。かわいそうだが、仕方がない。ま、そういうことだ。」
こうしてサノたちは、東方に向けて旅立つことになったのであった。
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