循環する愛

不可逆性FIG

Circulating Love.

 趣味っていうのは、とにかくカネがかかる。

 深みにハマればハマるほどにね。多数派と違い、まだまだ少数派な趣味ってのは、もしかしたら自分でも極められるかもって思ってしまうからタチが悪い。この部屋いっぱいのシュークリウム水槽を見てごらんよ。あと少し、あと少し……が積み重なって気付けば財布がずいぶん軽くなってしまったことが何度あるか。――いや、考えるのはよそう。思い出すだけで、虚しくなってくるだけだからなあ。


「……シュークリウム?」

 ああ、これは失敬。アクアリウムとシュークリームの造語、つまり言葉遊びだね。単純なネーミングだけど、僕は案外そういう舶来品由来のユルいとこも気に入ってるんだ。

 君もこの水槽にたゆたう可愛らしい姿に惚れちゃったクチでしょ? わかるよ、その気持ち。クラゲみたいにふよふよ泳ぐ、このシュークリームの愛らしさは犯罪的だよねえ。

「シュークリームが生きているの?」

 うーん、それはイエスであり、ノーでもある。なにせ水槽に入れたのはコンビニで売ってるケミカルな味のプチシューたちだからね。「さて、どの子を連れて帰りましょうか」って目利きするから、最近はいつも長居しちゃうんだよ……おっと、話が逸れた。ざっくり言うと、特殊な培養液を稀釈させた水に浸すと、あら不思議、しばらくするとモコモコした形のまま意思を持って泳ぎ出すのさ。

 ちなみにエサも拘ったほうが良い。シュー生地を育てるなら、バター、薄力粉、グラニュー糖を混ぜた練り餌を。カスタードを育てるなら、牛乳、卵黄、バター、そしてバニラビーンズを混ぜた練り餌が好ましい。初めはスーパーで揃えてもいいけど、本当に愛をもってシューたちと向き合うなら、それぞれの品質や産地も気にするべきだ。――上手く育成できると、プチシューだったものがまるで焼き上がったばかりの「ビアード・馬場」のような味わいになるんだ!

 これがもう、堪らなく絶品でね!


「育てて……食べるんだ?」

 え、そりゃそうさ。当たり前じゃないか。

 安物のシュークリームにストレスフリーな環境を整えて、最高の食材を混ぜた練り餌を与えつつ、惜しみない愛情を注いで出来上がった最高傑作だもの。食べずに腐らせるほうが命への冒涜だよ!

 魚と違って加工せずにそのまま踊り食いできる手軽さと、でっぷりと蓄えさせた愛情がそのまま僕の胃袋へと収まり、血肉となって循環する感動!


 ――これこそがシュークリウムの醍醐味だよ!


〈了〉

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