Basis30. 懺悔
世界に色が取り戻される。視界に真っ先に入ったのは、凄惨な状況になったモールであった。
「……! 意識戻りました!」
誰かに抱えられている。服装を見るに、どうやらNMOの人たちが救助に入っていたようだった。周りを見渡すと、同じように海緒や風花が治療を受けている。
「どこか痛むところはありませんか?」
「……特には」
フレイマーを使って『基底』に辿り着いた時とは違って、私の身体にはぱっと見で致命傷といえるような傷は残っていなかった。海緒と力をシェアしていたのもあるのだろう。……そうだ、東條はどこへ行ったのだろうか?
「あの、犯人はどうなりましたか?」
「無事拘束できました。ただ、未だに意識が戻らないので事情聴取には時間がかかりそうですが……」
「そうですか……会長はどちらに?」
「持統院さんなら何か調査があるとのことで席を外しています」
玲先輩の調査とは一体何だろうか? 気になるが、今は身体がどうにも動かせそうにない。外傷こそ無いが、やはり『基底』に到達するほどの魔素を循環させた上での魔術は
それは肺が鍛えられていないのに持久走を無理やり走らされる感覚だ。足こそ動き、距離を稼ぐという事実には変わりない。だがそこまでの負荷はマラソン選手のそれとは桁違いだ。
「(……悔しいな)」
天井に空いた大穴からは一面の夕焼け空が見える。もしも私の
私の心の底にしこりが残る。自らの行動には自らが責任を取るのは重々理解している。しかし、私が前の世界での瀬笈への罪が世界の破壊によって償われるというのなら。過去の私はどれほどまでに罪深い存在だったのだろうか?
その罪の意味が分からなくても私は『黒』に抗わなければならない。北柚瀬笈と名乗った少女の影を追うことだけが私に残された道しるべなのだから。
※
NMOからの取り調べも終わり、私は一人四星寮へと帰宅した。海緒も風花もまだ取り調べが続くとのことで、私だけが先んじて解放された。元々NMOに対する協力者であったのでそれに関しては異論は無いが。
誰もいない寮ではあるが、まるで誰かが守護しているかのように寮内は清潔に保たれており、侵入者の形跡も見られない。
「ただいまー」
中学時代に、誰もいなくてもただいまと言えみたいなことを教えられたことがある。不審者に対してその家が一人であるという情報アドバンテージを与えないようにするためだ。だから私は帰るときは必ずただいまと言うようにしている。オンボロではあるが、愛着はあるから。
自分の部屋へ戻る前に郵便受けを確認する。ちょうど私宛てに一通の手紙が届いていた。消印のない手紙であり、どうやら直接ここに投げ込まれたらしい。真っ白な封筒にハートマークの封。これだけ見ればラブレターの類いだと勘違いされてもおかしくないだろう。
「なにこれ……?」
その異質な手紙だが、読まずに捨ててしまうというのもせっかく出してくれた人がかわいそうだ。部屋へと持ち帰り、周囲に誰もいないことを確認する。そしてカーテンを閉めて外から見られない状態でラブレターの封を開けた。
送り主は意外な人物だった。
「……これ、海緒の字じゃない?」
ラブレターなど一番縁の遠い相手からのものだった。風花という恋人が存在しながら何をやっているんだと思いつつも、念のため中身を読んでいく。
『この手紙を読んでいるということは、きっとアタシはもう四星寮に帰ることができずに一生を暗い影の中で暮らすことになっているでしょう。りんりん、突然消えてしまった挙げ句にこんな変な手紙を送ってしまってごめんなさい。でも、疑われずに手紙を送るにはこれを使うしかなかったの。
.
きっとりんりんは心配していると思う。それでも、アタシのことを連れ戻しに来ないでね。アイツには……裕貴にはアタシがいないとダメだから。アイツがアタシの力を頼ってきたときはどうかと思ったけど……でも、アタシは協力することにした。風花と裕貴、どちらかしか選べないとしてアタシは風花を選ぶことができなかった。だから、もう風花に合わせる顔がないんだ。アタシの退路は自分で絶ったも同然なんだよ?
でも、きっとりんりんはアタシのことを探してしまう。アタシを連れ去ったアイツのことを死ぬまで恨み続けると思う。だからアタシはこの手紙を書いたの。物言わずに去るよりは好き勝手言ってから消えたほうがお互いスッキリするでしょ?
このページから下は絶対に一人で読むこと。そして絶対に誰にも話してはいけない。アイリスさんにも、篝ちゃんにも。当然あの会長にもね?
この手紙は、私の罪と裕貴の罪。そして、私たちが犯すことになる過ちを記録したものだよ。覚悟ができたなら、続きを読んでね?
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