星の子

紡木ヨビト

第一章「旅のはじまり」 第一話

満天の星空を眺めながら、僕は広大な砂漠でひとり寝転んでいた。

辺鄙な場所にある故郷からここまでどれほど歩いたのだろうか。

首都に出るにはこの厳しい砂漠を横断する他無い。

しかし、それでも僕は首都に行かなければいけなかった。

晴希に、…失った友達に再び会うため。


その時。


「遭難者さん?」

一人の女の子が覗き込み、僕に話しかけた。


「え、えっと…まだ遭難はしてない、と思うけど」

「じゃあ遭難予備軍さんだね!」

僕が答えると満面の笑みで返される。なんなんだろう、この子は…?

「びっくりしたよ〜、首都目指して歩いてたら、砂漠の真ん中で寝っ転がってるんだもん!死体じゃなくてよかった〜」

「さらっと怖い事を言うな!死体になってたまるか。…というか、君も首都を目指しているのか?」

「そーだよ!お、もしや遭難予備軍さんも?」

「雨彦だ。そんな縁起でもない呼び方しないでくれ。ただでさえ不慣れな旅で色々とギリギリなんだから。水も食料もつきかけてるし。」

「そうなんだー。じゃあメルの分ちょっとあげるよ!」

屈託のない笑顔で彼女は自身の水筒を差し出した。この砂漠の真ん中で。

「メルこのすぐそばの町から出発したから、まだまだ余裕あるし。首都ももうすぐそこだしね!」

「余裕あるんだな…じゃあ、遠慮なく頂く。」

どぞどぞ~、と終始笑顔の少女。僕が飲み終わるとまたね、と元気よく言い残し自身のテントへ帰っていった。

この広い世界で、また会うことなどあるのだろうか。

考えながら僕は野営に取り掛かった。


首都は本当にすぐ近くにあった。

まぶしい朝日で目を覚ました僕はすぐに荷物を片付け首都へ歩き始めた。前日までの剣道を思い出し、覚悟を決めていた僕だったが、ほんの一時間足らずで首都に着いてしまった。

あの子の余裕はそのためだったのかもしれない。

「本当にすぐだったな。しかしこれが首都…さすがに活気がある。ここなら、僕の求めている情報も手に入るかな…とりあえず、まずは図書館に行こう。」

ひとり呟くと、僕は図書館に向かって歩き始めた。


図書館に着くとさっそく僕は資料探しを始めた。

たった3週間前の出来事だ、書籍にはまだなっていないはずだ。僕は新聞コーナーに向かった。…が、そこには一紙の新聞もなかった。

「災厄の日の新聞だけごっそり無くなってる。一体なぜ…」

「よーっし!これで全部だ!」

「この声…もしかして」

声の主に近づき確信した。そこにいたのは昨日の少女だった。

「やっぱり!昨日の恩人!」

「あっ、昨日の遭難予備軍さん!」

「雨彦だってば…って、あー!それ全部星の災厄の新聞じゃないか!」

「ん?ああ!雨彦も読みたいの?」

「そうだよ!なのに一部も無いからどうしようかと…」

「じゃあ一緒に見よ!」

「え」

「私が見終わった分こっちに置いていくから、好きに読んでいいよ!」

「あ…ありがとう」


渡された新聞を読み込む。

しかし、欲しい情報は大して載っていなかった。

手持無沙汰になった僕は、なんとなしに隣で一生懸命新聞を読むメルに声をかけた。

「メル…だっけ」

「うん!なあに?」

「メルはなんで災厄の日について調べてるんだ?」

「あのね…大好きな人が、災厄で消えちゃったの。」

「メルも?」


災厄の日。3週間前にこの惑星を襲った大災害を、そう呼んでいる。ある夜、突然大量の隕石が降り注いだ。隕石はこの星の至る所をを破壊し、死傷者がたくさん出た。僕の友達、晴希も、僕の目の前で隕石によって命を奪われた。


「僕の友達も、災厄で亡くなったんだ」

「雨彦も?」

「目の前に隕石が落ちてきて、友達…晴希に直撃した…。でも、納得できなくて。」

「納得?」

メルが首をかしげる。

「直撃って言っても、周囲の木や石は残っていた。なのに、晴希の体だけが跡形もなく消えていたんだ。おかしいだろう?だから、もしかしたらまだ…晴希は死んでないかもしれない。そう思って、手がかりを探しに来たんだ。このかけらとともに。」

「それ…メルも持ってる!」

メルが自身の首に下げている宝石のようなきれいな石を取り出し、見せてくれた。

「メルも?これは晴希がいたはずの場所に落ちてたんだ。なにかの手がかりになるかもって思って持ってきたんだけど…」

「メルもそう!シエルが元々いた場所にこのかけらが落ちてたの。綺麗だし、なんとなくシエルを思い出すから持ってきちゃった。」

手元のかけらを見ながらメルがほほ笑んだ。僕もそうだ、なんとなく晴希を感じて、持ってきたのだった。


「シエルって人がメルの…」

「うん!大好きなひとだよ!シエルにもう一回会いたくて…首都に来たらなにか分かるかなーって思って、来たの。」

「じゃあ僕たち、目的はまったく一緒なんだな。」

「そうだねー!あっねえねえ!じゃあさ、」

僕の目をしっかり見ながら、屈託のない笑顔でメルは言った。

「一緒に行こうよ!」

「えっ」

僕は一瞬戸惑ってしまう。

「一人より二人の方が、早く達成できそうじゃん!」

「それはそうだけど…」

不安、だった。助けてもらっておいてこんな事を思うのは失礼だが、このメルという子、なんとなく頼りないのだ。

僕が逡巡しているとあっ、とメルが声を発した。

「そろそろチェックインの時間だ。このお話、チェックイン済ませてからまたするんでもいい?」

「あ、ああ。…チェックイン?もう宿を取ったのか?」

「もちろん!首都はホテル激混みだから、街についた瞬間取ったよ!…雨彦、まさか宿とってないの…?」

「………うん」

内心驚いた。地元のホテルはいつ見てもガラガラで予約などしたことが無かったのだ。都会とはここまでのものなのか…。

「しょうがないな~!ま、今日から一緒に旅する仲だし、メルのお部屋に泊まりなよ!」

「え!それはさすがに」

「遠慮しないでいいんだよ~!こんな都会じゃ野宿もできないしね!さあ行こう~!!」

「ええー…!!」


僕が何もできないでいるうちに、メルが僕の腕を掴んでぐんぐん歩き出す。

こうして僕はこのよくわからない少女とともに旅をする事となった。友達を、取り戻す旅を。

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