魔族として生きる

紙鳶音虎

プロローグ




 俺は、世界で一番普通の人間だった。

 そう、俺は自負している。いや、いた。

「な、なんでこうなったの……?」

 俺は、人間ではなくなってしまった。


 それは、気持ちが良くなるほどよく晴れた寒空の下。

 俺の名前は……どうでもいいか。どうせこのあと、名前は変わるのだし。

 俺は、通学路を歩いていた。

 その時にだ。

 突如として上から看板が落ちてきた。俺には当たらなかったが。

 そして、トラックが突っ込んで来た。俺には当たらなかったが。

 そして、トラックが爆発した。俺は吹き飛ばされただけだったが。

 さらに、地面が割れた。俺の真横だったが。

 尽く俺の近くに起こる事故や災害に、疑問を持った。

 なぜ、俺の近くで起きた?しかも連続で。

 考えすぎかもしれないが、俺を殺しに来てる存在がいるのでは?と疑った。

 でも、俺はそんな浅はかな考えは否定した。

 目の前が突如暗くなる。

 そして、俺の耳に肉が潰れる音が届き、身体を謎の浮遊感が包んだ。


「やぁ。はじめまして、かな?」

 声が聞こえる……。目が開かねぇ。

「あ、ゴメーン。目と鼻と口を閉じさせたままだった」

 うおっ!突然目と口が開くようになった。

 周りは……。

「ここ、どこだ?」

「ははっ。君、落ち着いてるね。ここは天界。つまり、天国さ」

 天、国?

「まさか、俺、死んだのか?」

「そうだよ〜。いや〜君、面白いねぇ。私達、神の死の運命から逃れ続けるなんて」

「は?死の運命?」

「そう。人間には、寿命というものがあるんだよ。君はその寿命を迎えた。それだけだよ」

 寿命か……。俺の人生は、短かったのか。

「ん?てことは、あんたは神様で、俺はその寿命を少し逃れたのか?」

「そうだね……数秒ってとこかな?」

 たったの数秒かよ。

「看板を落としても、トラックを事故らせて爆発させても、君は死ななかった。だから、こうして、私と話してるんだよ」

「へぇ……って、俺を殺そうとしたのか!?」

「そうだよ。寿命を超えると、他人から見えなくなるからね。その分、生きることもできなくなって、死んじゃうんだけど、その前に、他人にもわかるように死んでもらわなければいけなかったのさ」

「そうか……それが、慈悲ってやつか?」

「少し違うような気もするけど、大体合ってる。さて、私たちの興味を引くような結果を見せた君には、特別に転生というプレゼントをあげよう」

 てんせい?てんせい……転生か。は?

「君がこれからどのようにまた、生きていくのかを知りたくてね」

「それだけのためにかよ」

「そうだねぇ……普通に転生してもらうのはつまらないから……ま、いってらっしゃい」

 そして、俺の意識はなぜか吹っ飛んだ。


 目が覚めたら、私はここにいた。気付いた方もいるのではないだろうか。一人称が『俺』から『私』に変わった。

 さて、話は戻して、私の周りの環境はだいぶ変わっていた。

 岩、岩、岩、水、岩だ。空は見えるけど、岩場だ。

「ここは……」

 声がとても高かった。

 足元を見ようとすると、見えなかった。

 うん。女になった?

 いや、一人称から予想してたことだからあまり驚くことは……あるよ。

 アイツ……最後になにか呟いていたが、このことか。

 頭に手を当てて、考えようとしたら、手に何かぎ当たった。

 ………角?

 ま、待て。

 まだ、そんな悲観する時じゃない。

 私は、女になって、人間もやめたのか?

 近くの水辺へと近寄って、水面を覗き込む。

 水面に映ったのは、二本角を持つ、赤い瞳の金髪美少女が……。

「なんてことだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 私は、その場で絶叫してしまった。

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