このクラスで恋人がいないのは僕と赤井さんだけらしい
わだち
第1話
僕の名前は高橋。
至って普通の高校2年生である。
そんな僕はクラスの皆からいじめられている。
全ての始まりは、とある昼休みのことだった。
いつもの様にお母さんの手作り弁当を友人たちと供に食べていると、友人の一人が唐突に口を開いた。
「あ、俺。彼女出来たから」
「う、嘘だろ……?」
本来なら、友人として祝福するべきなんだろう。だが、今の僕には友人を素直に祝福できる余裕はなかった。
「これで、このクラスで恋人がいないのお前と赤井さんだけだな」
どうやらこのクラスで恋人がいないのは僕と赤井さんだけらしい。
***
翌日から僕はいじめられるようになった。
「いや~、昨日は彼女とデートに行ったんだけどよ~」
「まじで?まあ、俺も昨日は彼女とお泊りだったんだけどな」
「これ、彼氏にプレゼントしてもらったの!」
「来週の彼女の誕生日何を送ろうかな~」
この会話、驚くべきことに全て僕の席の周りで行われているのだ。何故か、クラスの皆が入れ替わりで僕の周りに来てこれでもかとのろけ話をして立ち去っていく。
そう、恋人のいない僕の前で!!
おまけに彼らは決まってあるセリフを僕にかけてくるのである。
「彼女はいいぞ~」
うるせえ!!僕の数少ない交流相手であるクラスメイトの女子は皆恋人持ちじゃないか!返せ!恋人がいない人の方が少なかったあの日々を返せ!
「ソ、ソウダネ……」
今日も僕は上手く笑えているだろうか。いたたまれなくなり、僕は昼休みにクラスから飛び出した。
屋上でお弁当を広げる。いつもなら友人たちと和気あいあいと楽しんで食べていたお弁当はどこか味気ないものになっていた。
今までの僕ならこんないじめ(のろけ)に屈したりはしなかった。でも、一週間もたてば限界が来る。
「はあ……彼女欲しいなぁ……」
後ろでガタンッと音が鳴る。振り返ったがそこには誰もいなかった。
あー、聞かれたかも。まあ、どうでもいいか……。
「はあ……」
この後もあのクラスに戻らないといけないと思うと少し憂鬱だが、戻らないわけにもいかない。
お弁当をしまい、僕は教室に戻っていった。
教室に戻って自分の席に座ったが、珍しくクラスメイトは僕にいじめを仕掛けてこようという様子はなかった。
これは……もしかして僕はいじめに打ち勝ったのか?一週間という期間絶えずいじめ(のろけ)続けた人たちにもどうやら限界が来たようだ。
やった!!僕は勝利したぞ!!
僕が歓喜に打ち震えていると、隣の席から声をかけられた。
「ねえ……」
僕に声をかけてきたのは、赤井さんだ。
赤みがかった黒髪が特徴的な彼女は学年内でもトップレベルの美少女で有名だった。
彼女とは高校入学時からの付き合いだが、比較的仲の良い方だと思う……。
「高橋、彼女欲しいの?」
「え?な、何を言ってるのさ!ま、まあ……どちらかと言えば欲しくないこともないてきな?今、割と僕のクラスでも流行ってるみたいだし、ビッグウェーブに乗るのも悪くないかな~って感じ?」
言ってから「しまった」と思った。噂によれば彼女も僕と同じくこのクラスで恋人がいないはずだ。
赤井さんは僕の隣の席だから僕がいじめられているときは必然的に赤井さんもいじめられていることになる。
そんな中で数少ないいじめられ仲間の僕に恋人ができたら赤井さんはどうなるだろうか?
不登校……いや、下手をすれば恋人を欲しがるあまり、援助交際をしたり悪い大人に騙されたりするかもしれない。……そして、全てを失い自暴自棄になった彼女は最後には海に身投げしてしまうだろう。
『恋人……欲しかったな……』という遺言を残して。
だ、ダメだダメだ!!
ここまで供に戦ってきた赤井さんを見捨てるなんて僕にはできない!!
幸い、今は敵ものろけるネタが減ってきて弱っている。ここを乗り切ればこのいじめ(のろけ)も終わるはずだ!
「そ、そうなんだ……。な、ならさ、私と「いや、やっぱり彼女はまだいらないかな!うんうん。まだ僕たちは若いんだし、焦ることはない!赤井さんも好きな人はしっかりと選ぶんだよ!騙されないように気を付けてね!!」……へ、あ、うん」
思わず赤井さんの肩を掴んで説得してしまったが。彼女は僕から目をそらしていた。
これはまずい。もしかすると、赤井さんは既に心がかなり参っていて恋人を作ろうと焦っている可能性がある。
ここは、戦友として僕が赤井さんを支えなくては!!
「赤井さん。今日、放課後暇?」
「え?……う、うん。暇だけど」
「なら、放課後僕に付き合ってくれないかな?」
「わ、分かった。……あと、近すぎ」
おっと、思わず赤井さんに詰め寄りすぎたようだ。赤井さんから承諾も得たし、赤井さんのメンタルケアの続きは放課後にするとしよう。
そうと決まれば早速、放課後のメンタルケアプランを練らないと。
あーでもない、こうでもないと放課後のことを考える僕が、隣の席で顔を赤くしながら「これって……デートだよね?」と呟く赤井さんの様子に気付くことはなかった。
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