第20話 少女、竜と邂逅する

 アンジュは今、目の前にいる巨大な存在から目を離せないでいた。

 もちろん、目を離した隙に死んでしまうからという事もあるのだが、それ以上に目の前の存在に対して、感動していたのだ。


 全てを飲み込んだかのような黒。

 巨大な体躯の、細部まで込められた無駄のない筋肉。

 見るものすべてを威圧するかのようなその眼光。

 戦闘以外の全てを無視したかのような、無駄の無いことによる美しさ。


 ここまで美しい生き物がこの世に存在したことに感動していた。

 ……現実逃避の意味合いも多分に含まれてはいただろうが。


「途中からもしかして、って思ってたけど、まさか竜、それも黒竜が下りてきてるなんて……」


 そう、アンジュの目の前には、漆黒の鱗を持ち、小さな物置程度なら軽く踏みつぶせそうなほどの大きな竜がいた。

 頭部には天を貫かんと言わんばかりの二本の角、口からは全てを燃やし尽くしてなお勢いの絶えないだろう炎、背からはその巨体を覆うほどの大きな翼と、大地を力強く踏みしめる四本の脚。


 正直なところ、こうして相対しているだけでも倒れそうなほどの存在感、威圧感に、アンジュは今すぐにでも逃げ出したい気持ちで一杯だった。


 竜とは、世界で最強の生物なのだ。

 もちろん、個体差はあり、その他の種族であっても竜を打ち倒す者が現れることもあるのだが、種族の平均的な能力として、竜種は他の種族を圧倒している。

 それどころか、目の前の竜は黒竜なのだ。

 黒竜とは、全ての竜の力を全て受け継いで生まれた、生まれながらに最強の竜種の中でも、最も強き存在だといわれているのだ。


 ナハトの修行を受けて、かなり強くなってきたという自覚を持ってはいたものの、それでも所詮、アンジュは人間で、その中でも化け物じみた能力などは持っていないのだ。

 全てを使い、万全の準備をした状態であるのならば、もしかしたら、下位の竜ならば倒せたかもしれない。

 しかし、準備が万全とはとても言えない状況で、相手は竜の中でも最上級の存在なのだ、まともに戦おうなんて思う事すら許されない戦力差なのだ。


 そして、今すぐ逃げ出したい気持ちはもちろんなのだが、今、こうして相対している時点で逃げ始めたとしても隙を見せるだけ、すぐに殺されるだけ。

 それを分かっているからこそ、辛うじてアンジュは逃げ出さずにいることが出来たのだった。


 それが幸か不幸かは、分からないが。


「グルルルル……」


 とはいえ、アンジュの恐怖も硬直も、目の前の存在が待ってくれるわけもなく、低く唸りながら動き始めた。

 初めて魔物と、オーガと対峙した時と比べようにも比較にもならない存在感、威圧感。

 あれからアンジュも強くなっているはずなのに、当時のアンジュとオーガどころではない差を感じさせられた。

 なんとか、恐怖で身体が動かないという事は無いものの、正直なところいつも以上に身体が重かった。

 早速、目の前のアンジュを薙ぎ払うかのように動いた尾を、当たらないように跳躍して避けつつ一度黒竜の届かないところまで後退して距離を取り、一度深呼吸を挟んだ。


「すぅ、はぁー……。これは、本当にどうしたらいいんだ……? 見るからに硬そうで適当な攻撃が通じそうにも無いし、目とか攻撃しようにもそもそもの場所が高過ぎじゃない……? 通用するだけの魔術連発してたら魔力が絶対足りないし、罠なんてしかけても、気にすらしないんじゃないのこのサイズじゃ」


 改めて目の前の存在に意識をやり、対処方法を考え始めてみるが、あまりに無敵な存在過ぎる。

 攻略方法が全く思いつかなかった。

 しかし、何もしなくても殺されるだけ、ひとまずは生き残ることを考えようと意識を変えた時だった。

 黒竜が何の予兆も無く、いきなり口をカパッと開くと、その喉奥から燃えるような光が見えていた。


「ちょっ!? まずい!!」


 気付くと同時、地面を盛り上げて壁にしつつ、横に向かって思い切り飛び退いた。

 瞬間、黒竜の口から先ほどまでアンジュの立っていた場所に向けて、直線状にブレスが飛んでいった。

 そしてアンジュが見たのは、先程自分が作った土壁が、なんの効果も無く一瞬で蒸発してブレスが地面に着弾、地面が爆発を起こす場面だった。

 一瞬遅れて、地面を大きく揺るがす揺れと爆風、そして轟音に晒されたアンジュは、平衡感覚を失いそうになるほど吹き飛ばされることになった。


 少しの時間、宙を舞うことにはなったものの、流石にその程度なら意識を失ったりすることも無く宙を舞いながらも着地姿勢をとり、安全に地面へと舞い戻った。

 とはいえ、状況は先ほどよりも悪いと言っていいだろう。

 咄嗟の魔術だったとはいえ、それでもそう簡単に壊れるほどやわな作りはしていなかったはずの土壁は、見ていた感じでは一瞬も抵抗することなく消し飛んでいたのだ、アンジュの魔術では黒竜の攻撃を防げないと言っていいだろう。

 少なくとも、この状態で魔術による防御のみに身を任せることなど出来ようはずもない。

 今のところはまだ試していないが、黒竜に対しても魔術で攻撃したとしてもかなり効果は低いだろう。

 となれば、アンジュが普段から信頼していた手札の一つ、それもかなり大きな手札だった魔術がほとんど封じられたともいえる。


 もちろん、魔術以外でもそれなりに戦える自信はあったが、相手が黒竜となると正直死なないようにするのが精いっぱいだろう。

 正直なところ、今すぐにでも黒竜にはどこかへ、自分の住処にでも帰ってもらいたいところであった。




 -------------------------------


 どうも皆さんこんにちは。

 作者の夏です。

 いつも私の作品をお読みいただき、誠にありがとうございます。

 もともと自分の書きたいように書いていた作品だったのですが、最近徐々にPV数や♡が増えてきていて、凄く嬉しかったのでこうして感謝の言葉を伝えさせていただくためにこうして少しだけ場を作りました。

 近況ノートでもいいかなと思ったんですけど、ここで書く方が目に付くかな、と思ったので書かせてもらってます。

 皆さま、読んで下さり本当にありがとうございます、いつもいつも♡や☆、本当に執筆の励みになっております。

 これからも頑張りますので、是非とも応援お願いいたします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る