第9話 吸血鬼、模擬戦をする

 錬金術についてや、魔術についてのこともあらかた教え終わり、後は実践だけとなったところで、ついにナハトは武器の扱い、身体の動かし方、そして魔術を実際に使うことを教えることにした。

 このタイミングで始めるのには当然考えがあり、魔術と錬金術は基礎的なことは技術も必要であるが、それ以上に知識を重要視するものであり、そうであればいつまでも詳しく教えるのではなく、自分で必要な知識を調べることが一番身になると考えたことで、一度錬金術、そして魔術については終わりを見たのだ。

 そして、武器や魔術の実践についてはそれこそ知識だけ身に付けても出来るわけも無く、また最低限の下地は出来たと判断したことで、始めることにしたのだ。


「さて、まず最初に言っておくが、武器も魔術もそれだけを極めても意味はない。県の扱いが最高峰だからと言って、それだけで誰にも勝てるわけでもないし、やろうと思えばそんな相手でも素手で殺せる。もっと言うのならば武器も魔術もそれらで出来ることなど自分の身体で出来ることの延長でしかない」


「そして、ただの素人が武器を持ったところで、武器を使う事しか考えていないのだから、武器さえ警戒しておけば何も危なくはない。魔術でも同じことだ、魔術なんぞ魔力の流れを感じ取ってしまえば何もさせずに終わるし、そうなってしまえば羽を捥がれた鳥と同じようなものだ。所詮は武器も魔術も一つの手段でしかない」


「それでも教えるのは、一つの手段とは言え出来ることは増やしておくべきだからだ。武器しか使えない奴なら武器を警戒したらいい、しかし、そこで魔術も自由に操ってくるとなれば話は変わってくる。当然対処しなければいけないことが増えるわけで、その分相手の行動を抑えることも出来るし、自分も相手に合わせての攻め方、守り方を出来るようになる。そこに更に体術、暗器、なんならその辺に落ちている医師や砂も使ってくるようなことがあれば、何を警戒していようが処理しきれなくなるし、それこそどんな相手にでも合わせて戦うことが出来るようになるのだから自らの弱点も無くなる」


「さて、言葉で伝えることは以上だ。ここからは貴様の思うがまま、自分の全てを使って俺を殺しに来てみろ。型なんてものは必要ない。あんなものは結局身体の動かし方を効率的に教え込むためのもので、実戦ではほとんど使う事なんぞないからな」


 仁王立ちのままナハトはそう言うと、アンジュはひとまず手に持っていたナイフを手に、まっすぐナハトの方へと突撃してきた。


「何も考えずに突撃なんかして、届くと思っているのか? ただでさえ身体能力に差があるのだから、どうしたら触れるのかを考えろ」


「当たらん魔法を無暗にうっても意味が無いだろう、魔力の無駄だ。もっと効率よく使え」


「石も使えとはいったが、分かりやすく拾って投げてもバレバレだ。もっと動きは小さく、拾うのもバレないように拾っておけ」


「やることに意識を向け過ぎだ、意識せずとも武器を振るえるように、魔術を使えるようにしろ。せめてどこに何をするのか気取られないようにしろ」




 ……やっぱりナハトはスパルタだった。

 それでも多少はこれまでの生活でアンジュも身体のみならず、知能も成長しているのか、完全にとはいかないが少しずつ指摘されたことを修正していった。

 一つ一つの技能はそこまで上手くはない、むしろ稚拙と言えるようなものだし、身体能力自体もそこまで高くない。

 辛うじて反応速度はそこそこ早いと言えるが、その程度だ。

 しかし、もともとの頭が悪くないのか、指摘を繰り返すごとに動きは良くなっていくし、それどころかまだ指摘していないような細かい部分も気付くとすぐに修正を自分で行っていくので、昼から始めた戦闘訓練が、気がつけば日が沈みかける頃にはほとんどナハトが指摘することは無くなってきていた。

 もちろん、武器の振り回し方や、魔術の展開自体にはまだまだぎこちなさがあるのだが、意識の部分やどのように身体を動かしたらいいのかといったような部分は動くごとに洗練されているのを、ひらひらと避けながらナハトは感じ取っていた。


 ……これなら、あまり長時間を自分との模擬戦で費やすのはもったいない、むしろ自分だけと動いていると動きに変な癖がついてしまうだろう。

 それならば、まだまだ実戦は早いかと思っていたが、相手次第ではあるがそこまで時間をかけずとも、それこそ明日にでも適当な相手を見繕って戦わせるのも良さそうだと、殺意だけは本物の攻撃をよけながら、翌日からの訓練内容を考えるのだった。

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