死にたい俺と殺したい私
かんた
第1話 吸血鬼と少女の出会い
吸血鬼。
そう聞いてどのようなものを思い浮かべるだろうか?
人を襲い血を吸う、血を吸った人間を眷属にする、闇の中に潜み、陽の光に当たると消滅する、ニンニクや十字架に弱い、力が強い、不老不死など、あげていけばまだまだあるが、様々な特徴があげられるだろう。
力が強いせいで正面から戦ったら倒すことは出来ず、闇に潜んで人を襲うせいでろくに準備も出来ず、例え撃退出来るだけの力があったとしても不老不死のせいで殺すことは不可能。消滅させるには陽の光を浴びさせるしか方法はないのに、弱点を知っているからなのか日中に行動することはない。
結局倒すことはほぼほぼ不可能な、そんな理不尽な存在。
その中でも特に特異な個体が、俺だ。
この世に生まれついた時から吸血鬼、つまり他の吸血鬼に眷属として吸血鬼にされた訳でない、真祖と呼ばれる吸血鬼である。
それだけなら別に特異な事は無かったのだが、何故か俺には吸血鬼の弱点とされてきた全てのものが効かない。
陽の光も、ニンニク、十字架、銀も何もかもが効かないのだ。
そのおかげで、他の吸血鬼からは不気味なものを見るような目で見られる。
中には、いや、ほとんどの吸血鬼は俺を迫害しようとしてきた。
……まあ、そういう奴は全て滅ぼしてきたのだが。
そんなことをしていたら、気付いたら俺よりも歳をとった個体はいなくなってしまった。
俺も、自分がどれほど歳をとったのか覚えていない。いや、正確には1万年までは覚えていたのだが、その後は数えるのも面倒くさくなって数えていない。
そして、これはありきたりな事なのだが、不老不死となると、もはや願いは死を願うことしかなくなってしまうのだ。
これまで、様々な事をしてきた。
時間だけはあったので、興味を持ったことは何でもやってきた。
武術、魔術、錬金術、鍛治、料理、彫刻、などなど、他にも多くのものを極めてきた。
定命のものとは違い、いつまででもやっていられるので、何に関しても限界まで極めて、それぞれの分野で噂になってしまい、もう何も手を付けようとは思えなくなってしまった。
それからは、ただただ衝動のままに人を襲って血を吸い、腹が満たされては惰眠を貪る、そんな生活を幾年続けて来た。
そして今、そんな俺の前には一人の少女がいる。
「どうして!?」
そして、俺の目の前で悲壮感を漂わせながら俺の目の前で叫んでいる。
「どうして、吸血鬼の癖にそんなに平気そうに出歩いているの!?」
どうやら、目の前の少女は俺を殺しに来たらしい。
なのに、日中から平然と出歩いている、正確に言えば、天気が良かったからピクニックをしに平原に来ている俺を見て、死なないことに動揺しているらしい。
ついでに言えば、先ほどから何度か手に持った銀のナイフで襲ってきてもいる。
まあ、一度も身体に当たっては居ないのだが。
別に死にはしないから切られてもいいのだが、今着ている服は割とお気に入りのものなので、切られるのはもちろん、切られて出た血が付くのも遠慮したいので傷を負わないように全て避けるかいなすか受けていた。
「ふむ……何かしたか? こんなに襲われる謂れは無いはずだがなあ……」
そう独り言ちていると、俺の言葉を聞いたのか動き回って息を切らしながら叫んできた。
「お前らが、吸血鬼なんかがいるせいで私のお母さまが死ぬことになったんだ! 吸血鬼なんかがいなければ!」
「そうは言うが、俺はここ最近は何もしていないぞ? 別にしばらく吸血しなくても死なないし、最近は身近な、その辺りの動物の血を吸っているから人間の血は吸っていないんだから、俺を狙うのはお門違いというものだろう?」
「うるさい! 吸血鬼なんてみんな死ねばいいんだ! 全員殺してやる!」
「そうは言っても、俺は長く生きてきて、不老不死になっている。そんな俺を殺すことは不可能だぞ?」
「不老不死でも、何か弱点はあるはずだ! それに、吸血鬼の言うことなんて信じられるわけないだろ!?」
俺がどれだけ無理だと言っても、目の前の少女は話を聞かずに何度も殺そうとしてくるし、最初は少しは暇つぶしになるかと楽しんでいたが、いい加減俺も飽きてきた。
「もう流石に死なないことは分かってきただろう? いい加減諦めたらどうだ?」
「うるさい! 決めた! お前を殺すまで私はお前に付きまとってやるからな!」
「はあ? ……面倒くさい奴につかまったなあ、まあ、好きにするといいさ、どうせ俺が死ぬ前にお前が死ぬだけだ」
「そんなことにはならないからな! 絶対に死ぬ前にお前だけじゃなく他の吸血鬼も殺してやるんだから!」
そう吠えている少女を横目に、俺は帰ることにした。
そうして我が家に向かって歩き出すと後ろから、
「アンジュだ!」
そういう声が聞こえてきた。
後ろを振り向くと、少女がこちらを睨みつけながら、
「私の名前だ! お前を殺すものの名前だ、しっかり覚えてろよ!」
「ふぅん……まあ、無理だろうが、一方的に名前を名乗らせるのは趣味じゃないな、俺はナハトだ、ナハト・ルーギンス」
そして俺も名前を名乗ってもう用は無いと、後ろでまだ吠えているのを聞き流しながらそのまま歩いて行った。
二人の初の遭遇は、一方的に敵意を向けられ、そのまま特に何かをやり返すわけでもなく比較的平和に終わったのだった。
ナハトとしては、よくあることなので特に気にも留めず、自らの城に帰ってまた眠りにつくのだった。
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