第12話 目配せ

 嫌なことからは目を逸らす。

 嫌なことからは目を逸らしてほしい。

 悪事は隠す。

 悪事は隠してほしい。

 見てほしくはない。

 見なかったことにしてほしい。

 恥は忘れてしまおう

 恥など忘れてあげて。

 そうだ、これは自分勝手だと、ようやく言語が追いつくことができた。

 仮定する。『自分でやっていたら、どうされたいか』仮定して、結論付ける。『自分だったら、目を逸らしてほしい』

 だから、人の嫌なことからは目を逸らす。自分がそうして欲しいから。

 侮蔑も軽蔑も後にして、無かったことにする。

 生憎、人の怨嗟、禍根に向き合えるほど強くはないし、助けられない。

 目を逸らすのは優しいだろうか。違う、ただ無視しているだけだ。

 見なかったことにされると救われるのだろうか。違う、向き合おうとしていないだけだ。

 押し付けない優しさで、自分勝手に救うだけ。他人本位の救いで、誰かが救われると思えない。

 けれども今日も無視をする。他人の悪辣に構わない。他人の怨嗟に構わない。他人の禍根に構わない。他人の憂鬱に構わない。

 救ってやったとも、救えたとも思わない。

 だってただ、目を瞑るだけだから。

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