第8話 かたるがたる

 人間には、他人の持っている感情や思考。そういったものを完全に理解する能力は無い。

 そうしたことにギリギリ手をかけるのが、人間全体の傾向を掴むという行為であるが、全体の傾向と個人が異なることなどよくある話である。

 もし貴方が、今までに誰かの考えていることが手に取るように分かった、という経験があったなら、それはただの偶然に過ぎなく、誰かの気持ちがわかるなどと思いあがるのはよした方がいい。

 何せ、答え合わせができないのだ。

 言語表現も難しい人の考えを、明確なものに対してであったならともかく、それを読み取ること、さらに言えば理解することなど。

 できやしないのだ。

 理解した気になっているのだ。

 それは絶対に相容れない領分。他人の心は、絶対に理解でき得ない。

 だからこそ、断定はよした方がいいだろう。

 人の心。感情、思考といったものに対して、知り得もしないのに断定するのはやめた方がいい。

 わかった気になられて、わからないくせに断定されて。

 見透かせないくせに、見透かした気になって悦に入られる程、不快なものもそうそう無い。無論、私の事だけれど。

 貴方らも、そうであろう?

 ……なんて。

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