魔法美少女マジック・ビューティー!

   

 鳩を肩に乗せたまま、魔法転移マジック・ワープで辿り着いた先は、三丁目の公園だった。

 小さい頃、よく遊んだ場所だ。当時の私がお気に入りだった遊具は、もう撤去されて存在しないが、今の私が立っているのは、ちょうどその跡地だった。

 そして。

 公園中央の運動場では、サッカーボールを抱えた男の子が、モヤモヤした黒い人型の怪物に襲われていた。あれが妖魔なのだろう。

 いや妖魔よりも、着目すべきは『男の子』の方だった。幼稚園から高校まで一緒という腐れ縁で、小さい頃にはこの公園でよく遊んだ、たき椎斗しいとなのだから。

「滝くん……」

 私の小さな呟きは、彼には聞こえなかったはず。

 それでも、急に現れた美少女に驚いたらしく、彼は私の方を見て、目を丸くしていた。

「誰……?」

 ぽかんと口を開けながら、間抜けな質問をする滝くん。

 髪型や髪色が違う上に、認識阻害の赤マスクもつけている私を、幼馴染の公原桃子とは見抜けないらしい。

「さあ、名乗りの場面だよ、公原桃子」

 肩に乗っかる白鳩に促されて。

 私はビシッとポーズを決めながら、大声で叫んだ。

「愛と正義と勇気の名のもとに、妖魔を滅する! 魔法美少女マジック・ビューティー、ここに推参!」


 ああ、恥ずかしい!

 いきなり「名乗れ」とか言われて、こんな言葉が口から出ちゃった!

 だいたい『魔法美少女マジック・ビューティー』って何? ほぼ直訳じゃないの!

 とりあえず『魔法美少女』だけでは収まりが悪いから、カタカナで何か言おうと思ったけれど……。

 とっさに考えたら、こんなのしか浮かばなかった! じっくり時間をかければ、もっとカッコいいネーミングを思いついたはずなのに!

「そうだ、公原桃子! その羞恥心をパワーに変えて、妖魔にぶつけるんだ!」

 白鳩からのアドバイスを受けて、私は敵を睨みつける。

 問題の妖魔は、私の出現に戸惑っているらしく、私と滝くんを見比べるようにして、のっそりと首を左右に振っていた。人々の悪意から生まれた妖魔なだけに、人間臭い行動を示すのかもしれない。

 理由はともあれ、今のうちだ。

魔法浄化マジック・ピュアリファイ!」

 両手を前に突き出して叫ぶと、ピンクのビームが飛び出した。

 妖魔は、それをまともに浴びて、

「グワッ!」

 断末魔の悲鳴と共に消滅。

 こうして、私の初戦は、呆気なく終わったのだった。


 後になって、白鳩が説明してくれたのだが。

 あの妖魔は、滝くんに片想いする女の子の、ドロドロした情念から生まれたものだったらしい。

 思い切って告白したのに「好きな人がいるから」と断られて、それでも諦めきれなかった少女。半ばストーカーと化すほどだったが、妖魔が消滅したことで、彼女の想いも浄化された。もう滝くんのことは忘れて、次の恋に向かって歩き出したという。

「何よ、それ。女の子からの告白を断るなんて、滝くんのくせに生意気ね」

 私は少しモヤモヤして、そんな言葉を吐き出していた。鳩に向かって言っても、意味ないのに。


 翌日、学校へ行くと。

 滝くんが、友人の男どもを集めて、自慢話をしていた。

「凄かったんだぜ、昨日は。いつもの公園に、もの凄い美少女が現れてさあ。しかも凄いことに、彼女は俺を助けてくれて……」

 頭悪そうに聞こえるから『凄い』を連呼しないでほしい。その『凄い』美少女は、同じ教室にいる私ですから!

 遠くから聞こえてくるだけでも恥ずかしくて、頬が赤くなる。私は机に顔を伏せて、授業が始まるまでの間、ひたすら寝たふりをして過ごした。

   

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