伝説の武具のサイズが合いません⁉ 魔王復活までに、聖女をダイエットさせろ!

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一章 たいしぼう! (二ヶ月以内に、体重をしっかり落とさないと世界滅亡!)

電光の拳 ライカ・ゲンヤ

 小さい島国ヤマンド国にて開催している武術大会も、決勝戦を迎えた。


 弓を引くような独特の構えを取りながら、ライカ・ゲンヤは片足で立つ。


 彼女の衣装は、ワンショルダーの布製トップに両端をヒモで結んだ短めのアンダーで、いわゆるビキニ姿だ。動きを制御しない究極の衣装を追い求めた結果、まともな衣装は穴あきグローブと腰布だけ。それも、防御のためではない。


「ゆくぞ、ライカ・ゲンヤ! 今日こそ、雷漸拳らいぜんけんを打ち破ってみせるぞ!」


 対する少女は、大陸から来た女戦士だ。肩に担ぐブロードソードは、自らの長身すら超える長さを誇る。盾かと思わせるほど幅が広い。彼女の衣装も、露出の激しいセパレートの装甲である。しかし彼女が覆うのは、魔法による特殊金属製だ。貫くのは容易ではないだろう。


 並み居る男性の強豪やモンスターをものともせず、決勝に残ったのは二人の女武芸者であった。男性たちが情けないのではない。この女子二人が規格外すぎるのだ。


「ごおお!」


 ブロードソードが、唸りを上げた。


 刀身から、炎が上がる。


 エンチャント、つまり魔力プラーナの付与によって切れ味を増しているのか?


 だが、ライカの想像を、剣は上回った。


「む、加速した!」


 剣の速度がアップしたのである。


 瞬時に反応して、バク転によって逃れた。


「まだまだ!」


 今度は、真一文字に剣が振り下ろされる。


 先程までライカがいた場所に、腰布がハラリと落ちる。

 ダメージを負ってしまったか。


 この大会では、武器の使用は許可されている。たとえ武器によって攻撃されても、出血する程度で済む。四肢が飛んだり、首が飛んだりはしない。


 周囲を覆う、特殊な結界のおかげである。これはヤマンドだけではなく、全世界の武術大会で施される配慮だ。


 ただし、ダメージは衣装にだけ通る。装備が、威力を肩代わりしてくれるのだ。


 命の危険は無い代わりに、相手は羞恥にさらされることになるが。


「あはは! 見たか。アンタを倒すために、ドワーフの技術によって開発した高速剣! 見きれるかな?」

「あなたの負けです」

「なんだと⁉」


 ブンブンと、立て続けに二連撃を繰り出す。


 だが、今度は油断しない。軽々と回避した。


「この大陸で無敵を誇る美闘士びとうしのあたしが、いつ負けるってぇ⁉」


 この剣は凶悪だ。大型モンスターや盾持ちタンク職が相手だろうと粉砕できるだろう。とはいえ、大きすぎる。


「道具に頼っている時点で、あなたの負けは確定しています」


 ライカはためらわず、美闘士の懐に飛び込んだ。


「このあたしにインファイトを!」


 こちらの拳に対応するため、上腕にて身体をガードする。剣は曲げた肘の隙間に滑り込ませた。突きの姿勢だ。


 だが、ライカは意に介さない。



電光パンチフングル・プヌグス!』



 電撃、正確には身体に電光を走らせながらのゲンコツを放つ。相手の剣先に。


「武器に攻撃だと、あんた――⁉」


 しかし、美闘士は次の言葉を出せなかった。剣がだらりと落ちて、ヒザから崩れ落ちる。


「ば、バカな⁉」


 美闘士は、感電したのである。


 アーマーが剥がれ落ちて、美闘士が素肌を晒す。


 瞬間、ライカは腰布を外した。


「武器に頼らなければ、ボクも苦戦していたかもしれませんね」


 美闘士の上に、ライカは布をかぶせる。


 司会が勝利を宣言し、見事ライカは優勝となった。


 賞金は年間の生活費分だけを頂いて、残りは寄付する。それでも余るくらいだ。


「さて、また修行の旅に」


 ギルドで出国手続きをしていると、手紙を渡された。



 

『聖女さまの魔王退治を手伝って』




 

 故郷ヤマンドに届いた、幼馴染みからの文を受け取って、もう五日になる。

 約五日かけて、ライカは聖女領『キャスレイエット』に辿り着いた。


 本当に、こんなキレイな街に、後二ヶ月後に魔王なんぞ復活するのだろうか。ライカには信じがたい。手紙にはそう書いてあったが。


 清潔感のある白い屋敷の前に立つ。


 聖女の住まう屋敷は、三階建ての建物だ。煌びやかではないが、全体的に清潔感が溢れている。屋敷の外にいながらも、魔力プラーナで保護されているのが分かった。


 まるで初恋の人に会うように、胸が躍った。チョコレート色の扉を叩く。


 ドアが開かれた。使用人の女性が、ライカを笑顔で迎え入れる。


「よく来てくれたわね、ライカ。私からの手紙、ちゃんと読んでくれたみたいね」


 メイドがライカに向けて、頭を下げてきた。銀髪のツインテールが弾みで揺れる。幼馴染みのミチル・ロクサーヌ。旧姓はハラダという。去年の秋に、キャスレイエットへ嫁に行ったのである。


「ミッちゃ……ミチルさんの頼みですからね」


 ワンピースの服の上に白いエプロンをかけている。何より、お腹が大きい。太っているのではなく、母親になるのだ。


「それで、ボクに用事というのは?」

「説明するわ。ついてきて」


 ミチルに連れられて、庭の中を歩く。身重のミチルが先頭を歩いているため、進みが遅い。


「聞いたわ。故郷での武芸大会で優勝したって」

「ボクなんてまだまだです。たまたま相性のいい人とかち合っただけで」


 雷漸拳らいぜんけんの秘術を誰も対策していなかったのも、優勝できた理由だろう。対策されていたら、細身の自分では勝ち進む事はできなかったに違いない。


「それでもすごいわ。一位なんて。急に呼び出してごめんなさい、ライカ。あなたにしか頼めなかったの」


 彼女が言っているのは、魔法退治のことだろう。

――今から数日前、この街に住む予言者が

「魔王ベルナテット・ウーイック・ルチューが、二ヶ月後に復活する」

 と予言した。


 それまでに、伝説の武具を装備できるまでに減量して、完全復活を遂げる前に魔王を倒さなければならない――そう、手紙には書かれてあった。


 魔王は今、キャスレイエットからさして離れていない、魔王領『ウーイック』の山奥に城を建て、力を蓄えている。まだ封印されている状態だ。戦力を削ろうにも負の力が充満しすぎていて、迂闊に近づくこともできない。なので、ずっと境界線でにらみ合いが続いている。


「それでミッちゃ……ミチルさん、聖女様のお供として、ボクは何をすれば? 露払いですか? それともモンク職らしく治癒班?」


 魔王退治なんて大仕事を任させるのだ。重要な役割に違いない。

「いいえ、もっと大事な役割が、あなたにはあるわ」


 しばらく進んだ後。庭の中央にある蔵が見えてきた。頑丈なレンガ造りで、重そうな扉は開いている。


「おお……」


 思わず、声を上げずにはいられない。


 蔵にあったのは、世にも珍しい調度品の数々である。ドラゴンのウロコでできた鎧、魔術が施された羽衣や指輪、虹色に輝く鳥の羽根、常時熱を持ったナイフなどが、ズラリと棚に並ぶ。


 武器庫の中央には、何かを覆い隠すように青いカーテンが掛けられている。


「刀まであるんですね」


 ヤマンドでしか精製されていない曲がった剣、刀まで飾られていた。


「この中から、僕にふさわしい武器を手に取れって事ですか?」

「いいえ。あんたに見せたいのは、そっちじゃないわ。これよ」


 ミチルが、カーテンを開く。


「うーんうーん!」


 小柄な少女が、呻きながらビキニを引っ張っている。

 肉の付き具合が丸っこく、かわいらしい少女だ。元の線は細いのだろう。背丈の低さとは対照的に、大きめの胸がライカの瞳を釘付けにする。

 ブルーのビキニは、少女の腰回りと明らかにサイズが合っていない。胸部分も、背中のホックが開きっぱなしだ。


「ふぇ?」

「うっ……」


 少女と目が合った。決まりの悪くなったライカは、絶句するしかない。


「ひゃ、ひゃあああああああっ!」


 茹で上がったタコのように真っ赤になった少女が、大慌てでカーテンを閉じる。


「ぶうう!?」

 瞬時にライカも背を向けた。

「セ、セリス様!?」


 ミチルも、カーテンに誰かが入っていたと知らずに開けてしまったらしい。カーテン越しに、弁解を始めた。


「すいません! ボクは何も見てませんので!」

「見ないでくださいませええええええ!


 必死でライカは弁解したが、少女の悲鳴は止まらない。


 ライカの目に映った少女は、全裸に近かった。ブラのホックすら脂肪によって留められず、腰の金具も付けられないでいたように見える。


 滅多に女性と接する機会もなかったライカには、着替えを見るチャンスなんて夢物語だ。


 何かをミチル告げられた途端、少女は落ち着いたのか、静かになった。


「ミッちゃん、これが何だっていうんですか!?」


「見てのとおりよ」


 女性の着替えを覗かせるために、手紙を書いたワケではあるまい。


「あなたの役割は、ここにいらっしゃる聖女、セリス・イエット様をやせさせる事よ」

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