season's

兎飼悠都

プロローグ 夕焼けと心臓音

「ねぇ、春瀬はるせくんって昔バンド組んでたでしょ。」

 ほうきを持っている手を止め、彼女の方を振り返る。

 夕日が彼女の髪を照らしキラキラと輝いている。

「私さ、もうすぐ死んじゃうんだ。」

今にもどこかに飛び立ちそうな天使みたいだ。

そんな笑顔を作った少女を、この残酷な夕暮れを。

 

 皮肉にも、この日の光景は今でも忘れられない。

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「…は?」


 俺の返事は合っていると思う。

 だって、彼女と話しをしたのはこれが初めてだし、住む世界さえも違う。

 なのに、何故俺に伝えた?

 もっと、彼女を求めていた人も愛している人もいるはずなのに。

 何故そんな大事なことを俺に?


「それ、新手のドッキリかなにか?」

 平常心を保とうとほうきを動かす。

 教室の床を黙って見つめていると、

「どっちが?」

「は?」

「春瀬くんがドッキリだと思ってる方。バンドの話?それとも私が死ぬって話?」


 …嵌められたのか?

 俺は小さなため息を溢す。

「…四季しきさんが死ぬって話。」

 あえて前者の否定はしなかった。

「嘘じゃないよ。病気で死ぬの。余命宣告もされた

んだ。あと、半年だってさ。」

 嘘だと思った、人気者彼女が死ぬ、なんて嫌でもすぐに噂になるはずだ。


 ほうきを忙しく動かし尋ねる。

「なんで、何の病気?」

 俺の声は上擦ってはいなかっただろうか。

 …少しの沈黙のあと、彼女は笑って

「奇病で死ぬんだ。光栄なこと…だよね!」


 そう、震えた声で言った。


 ー奇病、世界で100人だけが罹る病気。

 美しいまま死ぬ、神が作ったような不治の病。

 世界ではこの病を"神に選ばれし者"として扱う。

 奇病で亡くなった人がいればその後、すぐに奇病を発症する人が現れる。

 発病者は絶対に100人。それ以下も以上もない。

 先月、奇病患者いや"神使しんし様"がお亡くなりになられた。という報道で世界中が騒がしかったことを覚えている。


 そして先月、彼女が中途半端な時期で部活を引退し、学校に来ない日が多くなった。


 奇病なんて、関係ないと思っていた。

 俺も、俺の周りにも。


「春瀬くん。春瀬悠はるせゆうくん、私に貴方のバンドをもう一度、もう一度だけ聞かせてください!」


 カランと手からほうきが滑り落ちる。

 夕焼けに染まる教室に彼女の声と俺の心臓音だけが響いた。

 

 これは、そんな少女、四季さくらと俺、春瀬悠の

彼女が死ぬまでの物語である。


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