暗雲
「あー楽しかった!また来ようね!」
ゲーセンを出て、満面な笑みの穂花。
どうやら、すっかり元気になったようだ。
お前が満足なら、それでいいよ。
例え、おれがフルボッコにされて、トラウマを植え付けられても……
「さて、どこに行くか……」
今は夕方の四時過ぎ。
晩ご飯となると、少し早い時間だ。
「あ、そういえば、駅前に美味しいクレープ屋さんできたんだって。行ってみない?」
「お、そうなのか?小腹も空いてきたし、行くか」
というわけでおれ達はショッピングモールを出て、駅前に向かうことにした。
そして、その途中、とある男性グループの一行とすれ違ったのだが。
「……」
その中の一人がやけにこちらをじろじろと見てきた。
まぁおれと穂花がイチャイチャしてるのが、どうしたって目に入るからそのせいというのもあるが……
結局、完全にすれ違うまでこちらをずっと見られていて、少し胸がざわついたのだった。
♦︎
「ん!美味しい!」
クレープを口に入れた瞬間に穂花は目を見開きながら、言った。
「確かにうまいな」
クリームが甘さのわりにしつこくなく、生地もふわふわだ。イチゴも甘酸っぱくていいアクセントになっている。
「あ」
と、おれがクレープをむしゃむしゃとたべていると、穂花が何かに気づいたようで声を上げた。
「どうした?」
「ふふ。ついてるよ」
そう言って、手を伸ばしてきたかと思うと、おれの口の横に付いていたであろうクリームを指先で拭いとった。
「あ、悪い……」
「あむ……」
そして、そのまま指先についていたクリームを自身の口に運ぶ。
「ん、優君の味がする……」
ゆっくりと口でクリームを舐めとった後、穂花はそう言ってきた。
な、なんかめちゃくちゃえろいんですけど……
しかも、おれの味って何よ……
おれは穂花の発言にたまらず、ドキドキとしてしまう。
「おいおい、人前だったのに随分見せつけてくれるよな」
すると、そんな声が後方から聞こえてきた。
おれは慌てて、そちらの方に振り向く。
そこには四人組の男性グループがいた。
「君、工藤 優だろ?」
その中の一人がそう話しかけてくる。
金髪にピアスや指輪なんかごっそりつけちゃって、まぁ完全にチャラ男じゃないか。
いや、それよりなんでおれの名前を知ってるんだ。
「誰ですか、あなた」
おれは少し睨むように尋ねた。
「君のお兄さんの知り合いだよ」
「兄貴の……?」
その時、おれは思い出した。
以前、兄貴が少したちの悪い奴が穂花のことを紹介してくれと言ってって言ってたな……
これがこの人か?
それにグループの中にクレープ屋にくる前にすれ違った男性がいた。
やけにじろじろ見てたなと思っていたが、もしかしておれと穂花のことを知ってたから、この人に連絡をしたってわけか。
こんな見た目で兄貴と同じ大学に行ってるなんて、驚きだな。
「どうやら、その顔はオレのことを聞いているようだな」
「兄貴は教える気はないって言ってましたが」
「そうなんだよ。既に彼氏がいるからなんとかって。本当腹が立つ」
言って、目をスッと細めた。
胸の奥がざわつく。
やばい感じがする。
「それで何の用ですか?」
ここは早く話をつけて、この場を立ち去ろう。
隣にいる穂花も少し怯えた様子だ。
先ほどまでの笑顔はどこかへ完全に吹き飛んでしまっている。
「決まってるじゃないか。その子をオレによこせ」
しかし、簡単に話がつくとは思えないことを言ってきた。
「よこせって、物じゃないんですよ。それに彼女も嫌だと言っているので」
おれは穂花の手を引いて、その場から立ち去ろうとした。
が、他の三人が壁となって、行手を阻む。
「女の前だからってカッコつけんなよ。しかし、ここじゃ人が多くて面倒だ。少し人目のない場所でゆっくり話をしようか」
言いながら、おれの肩をポンと叩いてくる。
こいつは……かなり面倒なことになってきたな。
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