晩ご飯

「あ、優君……そんな……いきなり……」


「何言ってるんだ、別にいいだろ……」


「あ、ダメ、そんな……あ、あ……」


「よっしゃー!おれの勝ちー」


 たまらず、ガッツポーズ。


「あー、もう!ずるいよー、最後にコウラ投げて来るなんて」


 言いながら、ポカポカと殴ってくる。

 全然痛くなく、むしろ心地よいくらい。

 いや、決しておれがMってことじゃないぞ?

 穂花だから、痛くないってことで。

 いや、それだと穂花なら痛いのでも大丈夫ってことになってしまうのか?

 まぁ、痛くても大丈夫そうだけど……って違う。


「そっちだって、トゲトゲのやつ投げてきたじゃん」


 あれは喰らうと中々きついよな。


 リビングでゲームを始めて早一時間。

 おれ達はレースゲームで白熱していた。

 穂花はあまりゲームをやらないはずなのに、なぜかそこそこ上手く、こっちとしても本気を出さざるを得なかった。

 大人気ないとかいう意見は聞かないことにする。


「はい、晩ご飯できましたよー」


 と、その時、台所でご飯の支度をしてくれていた京香さんが声をかけてきた。

 そうして、おれ達はゲームをやめ、テーブルイスに揃って座る。


「おおお……」


 テーブルに並んでいる料理を見て、おれは声を上げてしまう。

 テーブルには所狭しと様々な料理が並んでいた。

 肉じゃがに唐揚げ、切り干し大根、味噌汁にサラダ、どれもとても美味しそうだ。

 現に京香さんの料理はとても美味しい。

 穂花が料理が美味いのも京香さん譲りなのだとよく分かる。


「なんかいつもより豪華だね?」


 テーブルに並んでいる料理を見て、穂花がそう言った。


「なんか優君がいると思ったら、ついついね……」


 言いながら、京香さんは恥ずかしそうに頬を赤らめた。

 か、かわいい……

 これが大人の色香ってやつか……?

 まさか、幼馴染みの子の母親にこんな感情を抱くなんて……


「ん……」


 そんなおれを見てか、穂花はいきなりおれの太ももをつねってきた。しかも、思いっきり。


「いった……?!」


「優君、今、変な顔してた」


「し、してないだろ?」


「してたもん」


 そう言って、プクッと頬を膨らませる穂花。

 その仕草もとてもかわいいと思ってしまうおれは頭がやばいのだろうか。


「あらあら……」


 そんなおれ達を見て、京香さんはどこか楽しそうに微笑むのだった。















 ♦︎













「今日はありがとうな。おかげで楽しい晩ご飯になったよ」


「ううん、私の方こそ。優君と一緒に食べれて嬉しかったよ」


 夜の八時過ぎ。

 おれと穂花は夜道を歩いていた。

 まぁ、おれの家に向かっているだけなのだが。

 穂花の家から、わずか五分で家に着いてしまうので、こんな時はもっと遠ければいいのにと思ってしまう。


「明日はまたいつもの時間でいいか?」


「え、あ、ううん。明日はね、お友達と出かける約束してるの」


「あ、そうなのか。大丈夫か?」


 この大丈夫か?は、おれ無しでという意味である。


「無理。だから、逐一連絡する」


「はは……まぁおれはどうせ暇だから、いつでも待ってるよ」


 と、そこで家の前に着いてしまう。


「じゃあ、またな……後で電……」


 電話するから。

 そう言おうとしたのだが、言えなかった。


「ん……」


 何故なら、穂花のその柔らかい唇がおれの口を襲ってきたから。


「ん、はぁ……ずっとしたかったの……」


 おれから離れた後、穂花にしては珍しく照れた様子で言ってくる。その表情にたまらず、こちらも照れてしまう。その表情はまじで反則……


「……」


 その顔を隠すようにおれに抱きついてきたかと思うと、すぐに離れ、そのまま踵を返して走り去ってしまった。


「……」


 やべぇ、かわい過ぎる……


 穂花の後ろ姿を見ながら、おれはそう実感するのだった。

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