ストローの形

 なんとか一日も乗り切り、放課後。


 おれは穂花と共に学校を出てから、朝の約束通り、二人で遊びに出かけていた。

 今日は穂花のリクエストもあり、駅前の繁華街に向かっている。


「その行きたいお店ってのは、どこにあるんだ?」


 おれは隣で腕に抱きつきながら、歩いている穂花に尋ねる。


「うん。ゲームセンターの中にある喫茶店なんだけどね」


「喫茶店?」


「うん」


 なんだ、行きたい店って言うから、てっきり服とか、そういう店かと思っていた。

 ちなみに穂花は服のセンスも、もちろん素晴らしい。おれの服のコーデもしてくれるほどだ。


「私と優君にピッタリのドリンクが置いてあるんだってさ」


 言いながら、穂花は楽しそうに微笑んだ。


「へぇ」


 おれ達にピッタリのドリンクか。なんだろうな。ラテアートでハートが描かれてるとかかな。うん、それならありがちだな。


 程なくして、おれ達はその喫茶店へと辿り着いたのだが、そこで驚きのメニューに遭遇することになるとは、この時はまだ想像すらしていなかった。












 ♦︎











 おれは店内のメニューを見て、驚愕した。

 この令和の時代にこんなものが存在していたとは……


「……」


 しかし、隣にいる穂花はとても物欲しそうな目でメニューを見つめている。

 まぁ、ですよねー……

 そんなのわかってましたよ……


「穂花、これ……」


 飲みたいのか、そう聞こうとした。


「飲む!!!!!!」


 ものすごく食い気味に穂花は答えた。

 すげぇ声量だな……

 そのせいで周りにいる全員がこちらに注目しているじゃないか。


 穂花が友達に勧められた店には、カップルジュースなるモノが存在していたのだ。

 しかも、ストローはハートの形をしており、ジュースを飲むなら、お互い、顔を至近距離にしなければいけないようになっている。


 これはさすがに恥ずかしい……

 おれはそう思ってしまったが、穂花はそうではないらしい。

 というか、穂花の友達よ。こんなものを勧めるなよ……

 こんなの、こいつの好みにドンピシャじゃないか。飲みたいっていうに決まってるよ。


「じ、じゃあ頼むか……」


 しかし、拒否するわけにもいかず、おれはカップルジュースを頼むことにした。


「こ、これ下さい……」


 レジの前に行き、しかし、おれはメニュー名を言うのが恥ずかしく、メニュー表をゆっくりと指差した。


「はい!このラブラブカップル向け、甘々シュワシュワ(ストローがハート型)ドリンクですね!?」


 しかし、何故か大声で、しかもハキハキと聞き取りやすいようにメニュー名を言い出す女性の店員さん。


 やめて!言いたくなかったから、指差したのに、なんで、そんな大声で、しかもフルネームで言うの!?

 おれに何か恨みでもあるの!?

 周りも「へぇ、あれを……」みたいな目で見てきてるし、こんなの公開処刑じゃん!


「すぐにお持ちしますので、席でお待ち下さい!」


 これまた大声の店員さんに番号札を渡され、おれ達は席へと向かった。

 あの店員さんの声量の調節機、壊れてるよ、絶対……

 誰かメンテしてあげて……


 おれは心の中で号泣しながら、ゆっくりと一人掛け用のソファに座るのだった。


 そして、程なくしてドリンクが運ばれてくる。


「ごゆっくり……」


 ニコッとやけに含みのある笑顔で、先ほどとは別の店員さんがそう言った。

 ブルータス、お前もか。


 その後、おれ達は周りの目に晒されながら、ジュースを飲むハメになるのだった。

 最も、穂花は特に気にしていない様子だったが……


 くそ、二度と来るか、こんな店……


「優君!なんかわかんないけど、サービス券貰ったよ!次回のお会計、無料だって!」


「……」


 くそ、次の次は来ないからな……

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