いつでも
大路まりさ
あの日は、雨だった
あの日の空は、雨だったと思う。
それは、季節の変わり目。
満員電車のなかで、ジワリと感じる汗が、梅雨入りを感じさせた。
暑い。
そう思いながらも、電車を乗り継いで、あの子の元へと向かう。
友達のような、親友のような。
親友を通り越して、恋人のようなあの子の元へ。
あの子は、私の心の傷を少しずつ埋めてくれた。
私の怒りや人間不信を、優しく包みこんでくれた。
「大丈夫、ずっと一緒にいるよ。」
「絶対に一人にさせないから。」
「好きだよ。」
そう言ってくれたときから、私はあの子に尽くすと決めた。
私もあの子を救ってあげたいと思った。
だってあの子は、自分を大切に出来なかったから。
周りの様子ばかりを気にして、自分を殻に閉じ込めて。
弱っているあの子は人の関わることを嫌がったから。
今日は、あの子を迎えに行く日。
一緒に学校に行こう、と約束をした。
あの子の家は、私の家とは全く逆の方面だった。
それでも、私はあの子を迎えに行く。
そう、思ったときだった。
「来ないで」
一通のメッセージが、私のスマートフォンに届いていた。
私は、目を見開いて驚いた。
毎日、毎日、私はあの子を待っていた。
学校に来なくなってから部活の皆に嫌われていた。
クラスメイトからも、不思議に思われてたあの子を
「大丈夫。きっと来るよ」
そう言って、皆があの子を見捨てかけていた時も、私はずっとあの子を待った。
毎日毎日メッセージを送って連絡を取り合った。
学校が楽しいと思えるように、あの子の好きなものの話をした。
それでも、あの子は私に心を開いてくれていたわけではなかったことを知って悲しくなった。
人の心は脆い。
私は「来ないで」と言ったあの子の言葉が、まるでガラスの破片が突き刺さるような感覚がした。
そして、自分の呼吸が止まってしまうような気がした。
今までにない、大きな傷ができた。
まるで、自分の半身がえぐられたかのような。
満員電車をやっとの思いで降りた。
外は、雨が降っていた。
(今日は晴れだと、天気予報がでていたのにな)
私は傘をささずに歩きだした。
そして、雨とともに温かな水が頬を伝った。
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