神殺しの魔王、最弱種族に転生し史上最強になる
えぞぎんぎつね
第1話 史上最強の魔王vs魔神
強さこそ絶対的な正義。
広大な世界で、そんな価値観を持つ魔族たちが血で血を洗う争いを気が遠くなるほど長い間続けていた。
そして、五百二十年前。魔族たちを圧倒的な力でねじ伏せ、史上初めて世界を統一した魔王がいた。
その史上最強の魔王の名をハイラムと言う。
世界全土平定から二十年後。
魔族の王である魔王ハイラムは、魔族を司る魔神と対峙していた。
地上に顕現した魔神は霊体であったが、圧倒的な威光を放ち神々しく光り輝く。
『魔王ハイラム。なぜ我が神勅に従わぬ』
そのハイラムに下された魔神の神勅は臣民の命を毎日百人ずつ捧げよと言うものだった。
ハイラムは魔王だ。
つまり魔族と魔族の大陸に住む全ての者と物の支配者にして所有者にして保護者である。
魔神からの神勅だとしてもハイラムにとって、到底受け入れられるものではない。
「地上は我ら肉の身体を持つ者たちの世界である。そして我の所有物でもある。神は神界に引きこもっておられよ」
心に直接話しかけてくる魔神の言葉にも、魔王ハイラムは委縮せずに堂々と返答する。
『その返答、
魔神の圧倒的な神威が吹き荒れる。
同時に魔神の神体は霊体から肉体へと変化する。
魔王ハイラムに誅するため、受肉したのだ。
『魔族の身で魔神に逆らおうなどと、身の程を知るがよい!』
「神の身で、地上に口を出そうなどと、身の程を知るがよい!」
史上最強の魔王と、魔神の戦いが勃発した。
魔王の強大な魔法と、魔神の神威と奇跡がぶつかる。
魔神の奇跡と神威は山を谷に変え、川を湖にし、森を砂漠へと変えた。
そして気候すら狂わせていく。
それは魔王ハイラムに向けた奇跡と神威の余波だけでそうなったのだ。
魔神の神威と奇跡がどれだけ強力だったのかわかるというものである。
そして、魔王は、魔族の枠を超えた圧倒的な、そして規格外の力で神威と奇跡をねじ伏せる。
魔王ハイラムの火炎魔法は、まるで地上に太陽が出現したかのようだった。
氷結魔法は文字通り、全てを凍らせる。空気すら凍結したほどだ。
魔法の刃は時空ごと魔神を切り裂いていく。
三日三晩続いた激しい戦いの後、魔王ハイラムの目の前には神体を破壊し尽くされた魔神が無様に倒れていた。
「地上に受肉し降臨した以上、神とて地上の理に縛られるが道理。受肉したことがお前の敗因である」
『愚かなり! 愚かなり! 愚かなり! 魔族の王よ!』
体をほとんど壊され、瀕死になってもまだ魔神は吠え続ける。
『……高慢で愚昧極まる魔族の王よ。魔族が、魔族を司る魔神に勝てるわけがなかろう』
「事実倒れているのはお前だろう?」
『魔族である以上、魔族を司る神の手の平からは逃げられぬが道理。魔族として生を受けたことがお前の敗因である』
無残な姿に成り果てた魔神は、何故か勝ち誇っていた。
「一体、お前は何を……」
『魔族でありながら、魔神をここまで追い詰めたこと、誇りに思うがよい。そして死ぬがよい!』
その瞬間、魔王ハイラムの肉体が、なすすべなく崩壊しはじめた。
「何をした!」
『……地上の生物相手に、これを使うことになるとはな』
魔王ハイラムは魔神を睨みつける。
魔神はぞっとするほどおぞましい顔で笑っていた。
『我は魔族を司る神である。確かにお前は最強の王なのだろう。ここまで我を追い詰めたのだから。だが魔族が我に、我の神罰に抗える道理などあるはずもなかろう?』
「神罰だと?」
『比喩的な意味ではない。魔族を司る神は魔族の生殺与奪を好きにできるのだ。当然だろう。愚昧なる魔族の王よ』
血反吐を吐くほど重ねた研鑽。
知恵と力と魔力の全てを駆使して追い詰めた、この三日三晩の戦い。
その全てが魔神の手の平の上だったのだ。
「……くそ」
死にゆくハイラムの耳に、魔神の高らかな哄笑が響いていた。
◇◇◇
魔王ハイラムの肉体が崩壊して灰のようになり風に飛されていく。
ハイラムの崩御を確認した後、魔神はゆっくりと姿を消した。
それを確認した魔神が消えてしばらく経つと、ハイラムが厳重に魔法で保護して隠していた扉が開いていく。
その中から出てきたのは魔族の幼女だった。
幼女は大事そうに粗末な首飾りを握っている。
その首飾りはハイラムが与えたお守りだ。
「……はいらむさまぁ。えぅ……えぅ……」
幼女は泣きながら、風にまだ飛されていないハイラムの衣服の切れ端を一生懸命集める。
綺麗な髪が汚れていくことも全く気にせずに一生懸命集めていった。
☆☆☆
新作はじめました。
「転生幼女は前世で助けた精霊たちに懐かれる」
可愛い幼女がモフモフたちや精霊たちとのんびり奮闘する話です。
よろしくお願いいたします。
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