太陽と月の王 時を越えた彼女の願い
@miru_chan
第一話
プロローグ
今から約数千年前、1人の天女が地上に迷い込んだ…
天上に戻るすべは見つからず、孤独で寂しい天女は彼女を哀れに思ったその地域を治める氏族の長に助けられ、やがて恋をし夫婦となった。
天女「あなた様は私が居なくなったら寂しいですか?」
男「何を言う、最早天上には帰れぬと言ったではないか、心配はいらぬ、私が其方の一生、護り導こうではないか」
天女「私は貴方を愛しています、貴方を信じ、天上(神)の力を授けます」
男はその力を使い、乱世を平定し、人心を安寧たらしめ王国を築き、王となった。
その後何百年と王国は、王家の血を引き、天上の力に目覚めた男児を王位に就け続けた。
…
その力は天から王国への、王国の民への祝福だったのだ
「王国建国記」より
第一話
中華風の装飾が施された王宮の寝室にて
茉莉(マリ)は深夜、寝台の上で夫である颯懍(ソンリェン)の帰りを、暗く悲しい表情をして寝ずにずっと座って待っていた
官1「ソンリェン様とマリ様は大変仲睦まじいが、夫婦になられてもう5年になる。一向にお世継ぎが出来ないのはマリ様が人ではなく天上人だからではないだろうか??」
官2「しかし初代国王は同じく天上人…天女を妻とし、子沢山だったと記録がある。王妃との間に男児を8人ももうけられたのだぞ?」
女官1「マリ様は元々子ができにくいお体なのかもしれない」
女官2「ソンリェン様はもう30も過ぎられましたし、このまま子ができないとなると側室をもたれた方が…」
天上人とは…天界に住まう神々の事を指し、マリのような天上人であり女性の場合は天女と呼ばれていた…
昼間王宮で官達の陰口を偶然聞いてしまい、しかしそれが事実である事に落ち込み悩むマリ
夫であるソンリェンが夫婦の寝室に政務(仕事)から戻ってくると深夜にも関わらず未だ起きているマリを見て驚き声をかける
ソンリェン「まだ起きていたのか?」
マリ「はい、眠れなくて」
ソンリェンはマリの隣に座り、優しくキスをして寝台に寝かせようとするも
いつもなら笑顔で抱擁や口付けをねだってくる自分の妻の元気がない事に気付く
ソンリェン「どうした?」
マリ「いいえ」
微笑み、ソンリェンの首にマリは腕を回し自らキスをすると、それが合図になったのかソンリェンはマリと体を重ねようと優しく愛撫し始める
マリ(一つになりたい…ソンリェン様と体だけじゃない、心も魂も1つになって…彼の中に溶けて無くなってしまいたい…)
マリ(もし、ソンリェン様が他の女性をお迎えになられたら、その女性にもこうして交わって、愛してるって囁かれるのかな?髪を撫でられて愛しそうにそのヒトを見つめるの?)
思わず涙が流れてしまうマリ、流れる涙を見て手を止めるソンリェン
ソンリェン「…何かあったのだろう??」
頭をそっと撫でられ、優しく聞かれ、涙がより流れ落ち止まらず、そんな情けない顔を見られたくなく手で顔を覆い隠すマリ
マリ「官達が私に子ができないのは、人でなく天上人だからではないかと…」
ソンリェン「陰口など気にするな、それはお前のせいとは限らないだろう?」
マリ「子を、お世継ぎを皆が期待しています」
ソンリェン「それで?」
次にマリの口から紡がれる言葉を想像し、試すように尋ねるソンリェン
マリ「どなたか他の女の方をお迎えに…」
ソンリェン「本気で言っているのか?」
そう言うだろうとわかってはいたが思わず語尾を強めてしまうソンリェン
マリ「ソンリェン様はこの国の王、民もお世継ぎを心待ちにしております。私ではもしかしたら…子は出来ないかも…」
ソンリェンは起き上がり、寝台に座り直し、悩み頭をかかえ、マリに言い聞かせるよう説明し始める
ソンリェン「マリに代わる存在はこの世界に誰1人としていない、それは、天女としてのマリの価値だけでなく、俺のマリへの気持ち、全てを含めてという意味だ」
ソンリェン「仮に側室を迎え子ができたとしても、その後マリにも子が出来れば俺は迷わずマリとの子を世継ぎに指名するだろう」
ソンリェン「かつて王位を巡って俺の母親は先代の正妃に殺された…俺はマリやその子に同じ目にあっては欲しくない」
ソンリェン「いらぬ争いを避けるため俺はどんな手段を使ってもマリとその子を守るだろう…」
それは、例え自らの手が汚れようとも、どれだけ非道な行いだと批難されようとも必ずそうするだろう…そういうとソンリェンはマリの瞳をまっすぐ見つめ問いた
ソンリェン「マリは将来俺に非道な決断をさせる可能性があったとしても、新しく女を迎えろと?」
マリ「ごめんなさい…」
ソンリェンは気を取り直そうと大きくため息をついた
ソンリェン「わかったなら二度と他の女などと考えるな、まだ可能性はあるのだから、子が欲しいなら俺と何度でも交わればいい」
マリ「はい、ソンリェン様…」
ソンリェンの想いを聞いて納得したのか優しく微笑むマリだったが、涙は止まらず…
マリのその様子を、涙で潤んだ美しい瞳を深く見つめ、悲しく思うソンリェン
ソンリェン(…キツく言い過ぎたか??謝って欲しかったわけじゃない…俺は信用されていないのだろうか?)
ソンリェン(他の女に乗り換えられるほど、俺の想いはそんなに軽いモノなのだと?もしそうなら俺のマリとの信頼関係を築く努力が足りなかったという事だろう)
ソンリェン(俺にとってマリは、自分の命に替えても護りたい存在だ…心から愛している。幸せにしたいと思う…)
ソンリェン(だがたまに、俺のせいで泣くマリを見て俺といて本当に幸せなのかと考える事がある)
ソンリェン(10程歳が離れているが、俺よりももっと歳の近い男の方がマリには良かったのではないのだろうか?その方が気安く相談もできたのかもしれない…)
ソンリェン(俺とマリでは見ているモノが異なる時がある、もっと考え方や価値観の近い人間と一緒にいた方が理解し合えたのではないのだうか?)
ソンリェンはかつてマリと夫婦になる5年程前にマリに泣きながら迫られ想いを告白された時の事を思い出す
ソンリェンはかつてマリに好意を持たれている事に気付き、2人の関係を現状以上に深入りさせたくないがために、あえて避けていた時期があったのだ
マリ「ソンリェン様は私の事がお嫌いですか?」
マリ「私はずっとソンリェン様の傍にいたいのです、お役にたちたいのです、心からお慕しているのです」
マリ「だから…私の事がお嫌いでないのなら私から離れようとしないで下さい…私の事を大事にされなくてもいい、愛されなくてもいい、もし叶うのならずっとずっと私を貴方の側に居させてください…」
マリからの強い想い、願いを思い出し、マリと人生を共にすると決意するずっと前から心の片隅にあり悩み続けていた「自分はマリに相応しい男ではないのではないか」という考えを振り切るように、瞼を閉じ、開くとソンリェンはマリの止まらぬ涙を拭う
ソンリェン「泣かないでくれ、泣かせたいわけじゃない…俺は、マリを誰よりも愛している、だから子も他の誰ともない、お前との子が欲しい…」
マリ「はい、私もソンリェン様との子が欲しいです…」
再び求め合う二人…ソンリェンの腕の中でマリは思う
マリ(愛してるの…ソンリェン様を愛してるの…心が千切れてしまいそうなくらいに…)
マリ(10年前…天上から地上に迷い込み、人攫いに捕まって不幸な目にあった私をソンリェン様が救い出してくれた…)
マリ(皆が私を天女として興味を持ち恐れる中、ソンリェン様だけは私を尊重し大切にしてくれた…)
マリ(私はこの方に恋をして、それは成就し夫婦となった…)
マリ(この方の子が欲しい、そして本当の家族に…)
夜も徐々に深くなり、マリの意識と共に辺りは深い闇の中に墜ちていくのだった…
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