仮初のリーダー⑤
「うぇいうぇい、ちょっち待ちぃ!? こいつら、再生してないぃ!?」
顔面にイカついタトゥー、ドレッドヘアー、耳よりも大きいピアスをつけた男がいった。こんな
スケルトンの戦闘力自体は大したことなかったけれど、どれだけ壊しても倒しきることはできず、しかも時間経過で再生していくので、じり貧だった。
相手にせず先へ進むのも一つの選択だが、前方に別のモンスターが構えていて前後から挟まれる形となったら最悪だ。
「段々と倒しにくくなってるぞ、学習してるのか?」
「どうしよう、きりがないよ」
近接武器はともなく、弓矢には限りがあるし、魔法使いもマナを消費してしまう。
このまま打開策を見出せなければ、撤退も余儀ない状況だった。
「えいっです~」
「一旦引いて、作戦を立てた方がいいんじゃないのか?」
「スケルトンは仙骨を中心に再生している」
皆の心に焦りが生じ始めた頃、戦況をつまびらかに観察していた栞がそう口にした。
「仙骨が弱点ってことか?」
「不明。でも、可能性は高い」
「試してみる価値はありそうだな。ところで、仙骨ってどれだ?」
「骨盤に守られている逆三角形の骨」
「あれね!」
穂波の放った矢は吸い込まれるように仙骨を射貫き、スケルトンを一撃で粉砕した。
「やった! 栞ちゃん、当たってたよ!」
俺は乱戦となった戦場を、糸を縫うように走り抜け、楓の元へといった。
「楓さん! 仙骨が弱点です!」
「でかした! って、仙骨ってのはなんだ?」
「あの骨盤の中にある逆三角形の骨です」
「お前らよく聞け! この骨野郎の弱点は股間だ! 股間を狙え!」
楓は全ての騒音を掻き消すような大声で叫んだ。
楓の腹に響く声と内容に、男たちは一瞬だけ自分のものを気にする素振りを取った。
弱点の判明したスケルトンは最早脅威でも何でもなく、一気に殲滅した。
「大きな怪我をしたやつは居ないみたいだね。物資もマナも消耗率は割ってところか。さして問題はないし、攻略続行だ」
一歩踏み締める度にぽろぽろと剥がれ落ちるU字の階段で三階へ上り、中庭を見下ろせる廊下を渡り反対側へ、特に大きな山場もなく四階へと入った。
山場どころか、二階の中庭でスケルトンと交戦して以降、他のモンスターに遭遇すらしていなかった。
脇にある小部屋を全て無視して進んでいるので、そこにモンスターが詰まっているのだろうか。
「ここだな」
マップによると、この扉の向こうには長い廊下があり、大広間へと続いていた。
一つ気がかりだったのは、今俺たちの立っている場所は城の最南端に位置しており、扉を開けて真っ直ぐ進めば城外へと真っ逆さまに落ちるという点だろうか。
そういう事情もあって、楓はやや緊張した面持ちで扉を開けた。
「なんだい、この部屋は?」
楓がそう口にするのも頷けた。
扉の向こうには長い廊下が続いていると思ったが、そこにあったのは俺たちの姿を映し出す大きな鏡だった。
「何か書いてある」
皆が嫌な威圧感を放つ鏡に目を奪われている中、栞が逸早くそれに気が付いた。
中央の鏡の下縁に、文字が刻まれていた。
「鏡の中には十六の魂しか入らない」
楓は刻まれていた文字をそのまま読み上げた。
「あ、臥竜さんのいっていた十六人で一つのチームってこれのことじゃないですか?」
「つーことは、ここから先が十六人で、ここまでは何人で来ても良かったってことか?」
楓は頭に手を乗せながら嘆いた。
「そうじゃないですか?」
「かー、マップにもっと親切に書いておけよな」
「でも、十六人の制限があるということは、この先にワールドボスが居るって意味じゃないですか?」
「なるほど、そいつは親切じゃないか。よし、命令だ、この場に居る誰一人として欠けることは許さないぞ。また臥竜が泣いちまうからな」
「「はい!」」
「突入だ!」
楓の号令と共に、皆一斉に鏡の中へと飛び込んでいった。
俺の心の準備は六割くらいしか整っていなかったが、ええいままよと鏡の中へと飛び込んだ。
生クリームの表面に張った薄い膜を破ったくらいの、ささやかな感触の後には、俺は鏡の向こう側に居た。
そして、確認のために、つい今しがた通ってきた鏡に触れてみた。
すると、薄い膜を破り、俺の手は鏡の向こう側へと通り抜けた。
一応帰ろうと思えば帰れるようだ。
「おーし、全員入れたみたいだな」
楓はそう確認を取ると、大広間へと続く長い廊下を進み始めた。
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