仮初のリーダー③

「お、団長!」

「はい、全然構わないですよ」

 穂波は半身はんみ体を詰めた。

「それじゃあ、失礼するよ。いや~、この間は色々とごたごたしてしまって、結局話を聞きそびれてしまったからね」

「なんだ、団長もあたいと目的は同じってわけか。それより、団長は前線だと役に立たないから、お留守番してていいんだぞ?」

「酷い言いようだな。確かにそうだけど、雑用くらいはできるだろ?」

「え、臥竜さんって討伐メンバーじゃないんですか?」

 穂波は目を丸くした。

 俺も内心では驚いていたが、これまでの臥竜の言動を振り返ると合点がいった。

「団長は駆け出し時代、初心者ダンジョンで死にかけるくらい戦闘センス皆無だからな」

 楓は笑いながら話した。

「あの経験は僕にとって幸運だったと思っているよ。おかげで、こうして進むべき道を違わずに済んだわけだからな!」

「それがギルドの運営ですか」

「ギルドの運営は慣れれば誰にだって務まるさ」

 臥竜は俯きながらいった。

「そんな、これだけ大きなギルドを運営するのは、誰にだって務まることじゃありませんよ!」

「カリスマです~」

「僕にできるのは、勇ましいリーダーを演じることだけだ。僕は戦場へ行かないからこそ、あんな大口を叩いて、みんなを焚きつけられるんだ」

「団長、まだあのことを引きずっているのか」

「あのこと?」

「もう三ヶ月も前のことだ。あたいらの仲間が、ワールドボスにやられちまったんだ」

「まだ三ヶ月しか経っていない」

 ギルド獅子奮迅が最高レベルのワールドボスを討伐したのが、ちょうど三ヶ月前の日付だった。

 それまで順調にワールドボスを討伐していたギルド獅子奮迅は、その日を境にワールドボスの攻略を止めていたのだ。

「仲間を失ったあたいらは、あんな悲しい思いをするなら、もうワールドボスの討伐を投げ出そうとしたんだ」

「でも、終生君たちの活躍を見て考え直したんだ。結局、この役目は誰かがやらなくちゃいけないことで、その役目を押し付けた先でまた同じような悲劇が起こるかも知れないと思うと、居ても立っても居られなくなったんだ」

「話を聞いた感じ、やっぱり臥竜さんの代わりは他に居ませんよ」

 辛く険しい道を、正義感から湧き出る使命感で突き進める者は少ないだろう。

「そうだぞ、あたいは他でもない団長の作戦だから、こうして命を預けてるんだからな」

「臥竜さんは、この戦いが終わるまで頼りがいのあるリーダーを演じきってください!」

「がんばるです~」

「ありがとう、みんな」

 臥竜は弱々しく笑うと、自身の頬を引っぱたく。

「よし、決戦を前に湿っぽい話題はお仕舞いだ! それじゃあ、例の伝説の戦い振りを聞かせてくれ賜え!」


 クライシスの森に構えた拠点に着いたのは、ほとんど日が沈むのと同時だった。

 池の畔に拠点を構えているので、モンスターの夜襲は森側を警戒すれいいという考えだ。

 魔族に分類されるモンスターは夜目も効く上に、日の光のない場所では能力も上昇するので、朝日が昇るまでは拠点で過ごす予定となっていた。

「へー、簡易のシャワーまで用意してくれているのか」

「天音ちゃん、一緒にシャワー浴びない?」

「いいですけど、くすぐっちゃヤですよ~」

「そんなことしないよ、ふへへ」

「いやらしい笑い方です~」

「あ、天音ちゃん待ってよー」

 半日後には最高レベルのワールドボスへ挑むというのに、何て緊張感のない二人だろうか。

「終生は私と一緒に浴びる?」

 ここにももう一人、緊張を感じさせない仲間が居た。

「栞、心にもないこといって俺を動揺させるな。今夜は疲れたし、飯を食ったらすぐに寝るよ」

 夜食を掻き込むと、俺は長旅の疲れもあってか、用意されていたテント内の簡易寝具で横になると、すぐさま深い眠りへと落ちていった。

 ちなみに、ここはピースゾーンではないので、テントは無類の強度を誇る要塞ではなかった。

 この拠点を築いてくれた先遣隊が、俺たち古城攻略組のために、夜通し警戒に当たってくれるのだ。

 そのおかげで、俺たちは安心して熟睡することができるのだ。

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