仮初のリーダー②
「既視感」
「天音のほっぺは引っ張りやすいんだろうな」
「楓、その辺にしてやりな。天音の顔が伸びて戻らなくなるぞ」
今度こそ、本物の紅葉だろう。
初対面の時と同じように、かなり目のやり場に困る際どい恰好をしていた。
「紅葉さんがどうしてここに?」
「あんたらが今回の作戦に参加すると小耳に挟んでな。武器を打ち直してやろうかと思って来たわけだ」
「なんだい、紅葉。あんた噂のルーキーたちと知り合いだったのか?」
「この子らの装備は、あたいが作ったのさ」
「武器を強化するってことですか?」
俺は前のめりになりながら訊ねた。
今回の作戦へ参加するに当たって、俺も武器を新調しようかどうか迷っていたが、結局この武器に愛着があったので買い替えずに装備し続けていたのだ。
もしこの武器をベースに強い武器に打ち直してもらえるのであれば、これ以上嬉しい話はなかった。
「そういってるだろ。ってなわけで、終生、パラメータを見せてみな」
生命力:27
体力:21
筋力:23
敏捷力:54
精神力:20
魔力:17
知力:0
「へえ、見違えたな。きちんと冒険している証拠だ。こりゃ、武器もかなり強く打ち直さないとだな」
「お願いします」
「オリハルコンの原石はまだ余っているか?」
「はい」
お金にも困っていなかったので、オリハルコンの原石は売らずにそのまま持っていた。
紅葉は短剣とオリハルコンの原石[1]を受け取ると、金床を取り出し、ハンマーで叩き始めた。
カンッカンッカンッと甲高い金属音を数回鳴らすと、オリハルコンの原石が短剣に溶け込んだ。
心なしか、短剣の殺気が増したような気がした。要するに、格好良くなったのだ。
「ほれ、一丁上がりっと」
武器を受け取り、俺はそわそわしながらメインパラメータを開いた。
物理攻撃力:405
魔法攻撃力:0
物理防御力:267
魔法防御力:221
マナ:170
素早さ:645
状態異常耐性:335
重量制限:320
冒険を始めたての頃は二桁が並んでいたことを思うと感慨深かった。
「紅葉さん、私の小手も綺麗にしてもらえませんか?」
「あたしのいちごタルトもお願いします~」
「あいよ」
紅葉は気前良く穂波と天音の装備も強化していった。
「お代はオリハルコンの原石でいいですか?」
「お代なんて必要ないぞ」
紅葉はさっぱりといった。
「太っ腹です~」
「タダほど高い物はない」
「やっぱり、魔法使いは用心深い子が多いな。あたいが何か企てていると考えているんだろ? それなら、お代として、全員無事に帰って来るっていうのはどうだ?」
「わかりました。必ず、お支払いします」
紅葉は本当にただの善意で、俺たちを心配して駆けつけてくれたのだ。
「楓の武器も修理してやろうか?」
「この前メンテナンスしたばかりだから、必要ないだろ!? それより、他の討伐メンバーの装備を見てやってくれないか」
「わかったよ。お代は、また希少な素材を頼むよ」
「どうしてあたいにはお代を請求するんだ!?」
紅葉はにししと笑いながら、1番プレートの馬車の方へと歩いて行った。
「仲いいんですね」
「羨ましいです~」
「はあ!? あたいらが仲良しっていうなら、水と油だってよく混ざるぞ!」
楓はいまいちピンとこない例えを出して反論した。
「それより、あんたたちはもう出発の準備は整っているのか?」
「はい」
「準備万端」
「よし、そうと決まれば、移動中の退屈凌ぎに色々と話を聞かせてもらうぞ」
楓はいきなりガシッと俺の肩に腕を回すと、そのまま引き寄せた。
「ちょ、ちょっと楓さん、顔に胸が……」
頬の柔らかな感触も然ることながら、楓からは香水でもない純粋ないい香りがして、思考が痺れた。
楓は荷馬車の左後方にでーんと座り、俺は必然的に中央へ、栞はさり気なくその隣の空いたスペースへと着席した。
「僕も同席させてもらっていいかな!」
雑務を済ませた臥竜が、元気よくいった。
この時、なぜか俺の目の前に居る臥竜は、先刻までの臥竜とは別人のような気がした。
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