Stage.5
どこもかしこもお祭り①
俺たちは白いパラソルでお馴染みのカフェ・ルヘベリーチに集まっていた。
アキューストムの塔の謎を解き明かしたのが、ギルドマシュマロパラソルだということは、数日であっという間に広がっていた。
一体どこから漏れたのやら。
二番目にレベルの高いワールドボスを討伐した話題の熱も冷めきっていないところに、今回の件が上乗せされ、俺たちの知名度はうなぎ上りだった。
最早、シティブレスを歩いているプレイヤーで俺たちのことを知らないプレイヤーは居ないのではないかというくらいだ。
尤も、俺を除いたマイペース三人組みは、他人の視線や噂話など露ほども気にしていない様子だった。
「ねぇねぇ、今度はどこ行こっか」
「海に行きたいです~!」
「海水浴、バーベキュー、花火」
「水を差して悪いんだけど、これって一応ダンジョン攻略の話なんだよな?」
本音をいえば、俺だって色々な厄介事を忘れて、この四人でこの世界で冒険を楽しんでいたかったが、こうしている間にも多くのプレイヤーが囚われているのだと思うと、そういうわけにもいかなかった。いつまでも旅行気分ではいけなかった。
「あはは、そうだね、ちょっと気が緩みすぎていたかもね」
「がんばるです~」
「気合再充填」
もし嫌な顔をされたらどうしようかと内心ハラハラしていたが、どうやら杞憂だったみたいだ。三人とも、そこまで曲がった性格はしていなかった。
「お待たせしましたにゃ。イチゴのタルトとミルクティーですにゃ」
そんな特徴的な語尾で話すのは、カフェ・ルヘベリーチで働く猫耳少女の猫宮さんだ。
装飾品の作り物の猫耳ではなく、猫宮さんの耳と尻尾は正真正銘の天然物だ。
「わーいです~」
イチゴのタルトと聞いて、三角形の物を想像したかも知れないが、天音がこれから食べようとしているのはバックラーほどの大きさの物だった。
天音と知り合ってもう十日ほどになるが、これくらいの量であれば軽く平らげてしまう底なし胃袋であることは知っていた。
こちらの世界でいくら食べ物を摂取したところで、現実世界の肉体には一切何の栄養もいっていないので、太ることはなかった。
現実世界の肉体がどのように栄養を採っているのか気になるところではあるが、恐らく点滴のようなもので生命を維持しているのではないかと俺は考えていた。
「ところで、今日なんかいつもより混んでないか?」
雑踏は普段の十割増し、カフェも大盛況だった。
「イベントでもあるのかな」
「賑やかです~」
「いくつかの町で、幽霊くらげの捕獲イベントがあるとメッセージにある」
「ああ、これか」
俺はメニューを開きながら相槌を打った。
「より多くのくらげを集めた方には豪華景品だって」
「参加するのです~?」
「いや、参加はしなくていいだろう」
豪華景品とやらが純粋なお金だったので、わざわざ獲りにいく必要性を感じなかった。
それに、このお祭り特有の雰囲気に誘われて、馬鹿騒ぎしたいだけのプレイヤーもちらほらと見かけた。
「お~い、姉ちゃん、俺たちの飯はまだかー!?」
「飯が来るまで暇だし、俺たちの相手してくれよ」
「申し訳ありませんにゃ。当店は、そういったサービスは行っておりませんにゃ」
「はんっ、サービスの悪い店だな」
「へへっ、そんなに尻尾を振って、本当は俺たちと遊びたいんだろ?」
「にゃあん!」
尻尾を触られた猫宮さんは、ぴょんと跳ね上がった。
「はっはっはっは。聞いたかよ、今の声!」
「にゃあん、だってよ!」
カラフルなモヒカンと焦げたモップヘアーの二十歳前後の中級冒険者が、横柄に振る舞っていた。
俺はそんな二人の振る舞いを見て、心底嫌な気分になっていた。
カフェ・ルヘベリーチは皆の憩いの場であり、あのような輩が居ては台無しだからだ。
「あんだてめぇ、何か文句あんのか!?」
モヒカンと目が合った。
(しまったな)
また感情が表情に出ていたようだ。
とはいえ、この展開に関して、俺は一片の後悔もなかった。
いい加減目障りだったので、一言くらい注意してやろうと思っていたからだ。
モヒカンとモップがこちらへ向かってきたので、俺も席を立ち上がった。
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