協力者は涼しい顔でチート行為をする⑦

 メニューを開くと、鍵盤状のアイコンが並んだ。

 ステータスをくと、鍵盤の上に、パラメータやらパッシブスキルやらの鍵盤アイコンが重なるように表示された。

 パッシブスキルのアイコンを選択すると、レストランの品書きのようにずらーっと横文字が並んだ。

「何て書いてある?」

「アーマーマスタリーLv.1とか、アックスマスタリーLv.1とか」

 パッシブスキル欄には五十音順に、優に百以上の名詞が表示されているだろうか。

 とても全ての単語を口に出して読み上げようとは思えない数だった。

「アーマーマスタリーは防具を装備しているだけで、一つの部位につき防御力が固定値上昇するスキル。アックスマスタリーは斧系統の武器を装備するのに必要なスキル。初期状態でアーマーマスタリーを習得しているプレイヤーは、大体の近距離武器のマスタリーを習得しているはず。逆に、弓系統の装備に必要なボウマスタリー、魔法の詠唱に必要なスペルマスタリーは習得していないはず」

 普段言葉足らずの栞にしては、懇切丁寧に説明してくれた。

「ああ、習得していないっぽいな」

「そう。そこは大して重要じゃない」

「どうでもいいのかよ。結構大事な気もするんだけど」

「大事なのはミスティックマスタリー、習得していないとお話にならない」

 お話にならないとは、魔王討伐など夢のまた夢という意味だろう。

 これはまさしく、真の勇者としての素質を問われているのだろう。

 俺はごくりと息を呑み、パッシブスキルの一覧を下へスクロールした。

 そして、確かに表示されるミスティックマスタリーLv.1の文字。

「あったぞ!」

 俺は跳び上がらんばかりの勢いで報告した。

「そう」

 俺の熱量とは対称的に、栞の反応はいつも通りだった。

 その反応を見れば、誰だって察しが付くだろう。

「もしかして、別にそこまで珍しくもないのか……?」

「初期状態で習得しているのは珍しいけれど、スキル自体はありふれたもの」

「じゃあ、何で聞いたんだよ」

 俺は口を尖らせた。

 完全にただぬか喜びではないか。

「ミスティックマスタリーは魔力を帯びている装備全般を扱うのに必要なスキル。習得していないと、装備できる武具の候補が半減する。もし習得していなかったら、先にミスティックマスタリーを習得する必要があった。つまり、余計な手間が省けた」

 魔力を帯びているといっても、目に見えた特殊な力を発現させる物は少なく、ほとんどが装備の性能を底上げしているのである。

 魔力を帯びていない装備はとても重かったり、すぐに刃毀はこぼれしたり、熱に弱かったりして色々と不便なのだそうだ。

「余計な手間が省けたなら、それでいいか」

「終生、武器に並々ならぬこだわりを持っている人?」

 時折目が合うような気がしていたが、栞は他人の名前を呼ぶ時に、その者の目を見る癖があるようだ。

「別にそこまで拘りとかはないけど、勇者はやっぱり剣が様になるよな」

 絶対に剣でなくてはならないというほどでもなく、叶うなら剣を希望するくらいの心持ちだ。

「剣はこっち。これ、駆け出し冒険者にお勧め」

 栞は飾られていた羽を模したデザインの剣の一本を手に取り、手渡してきた。

「ほう。って、結構重たいな」

 栞は軽々と持ち上げているように見えたが、実際に持ってみると両手にずっしりと重みを感じた。

「筋力不足と推測。こっちは?」

 栞は怪訝けげんな表情を浮かべながら、次の剣を手渡してきた。

 この時、栞は黙っていたが、羽を模したデザインの剣は、筋力:4あれば片手で振り回すことのできる一品だったのだ。

 それを重たいと感じるのは、どういうことかと疑問に思っていたのだ。

 栞が次に選んだのは、筋力:2で斬れ味も強度もそこそこある一品だった。

 駆け出し冒険者に打って付けの性能だが、素材に稀少なアイテムを使用しているのでどうしても値が張ってしまい、お金が貯まった頃にはパラメータも上昇しており、この剣を選ぶ理由もなくなってしまう。

 そのような事情から長い間売れ残っている一振りでもあった。

「くっ、これも結構重たいな」

 この世界ではプレイヤーに適していない装備はどのような大きさ、形状をしていても、重たく感じるようになっていた。

「終生、パラメータを確認して」

「パラメータ? ああ、見てみる」

 栞に促されて、メニューからパラメータを開いた。

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