「悲歌のシンフォニー」 グレツキ

<タイトル>


交響曲 第3番 作品36 「悲歌のシンフォニー」


<作曲者>


ヘンリク・グレツキ


<おすすめ盤>


ドーン・アップショウ(ソプラノ)


ロンドン・シンフォニエッタ


デヴィッド・ジンマン(指揮)


<解説>


 ポーランドの作曲家グレツキが1976年に書いた曲で、クラシックとしては異例の大ヒットを記録しています。


 この時代の音楽というととにかく難解な曲ばかりですが、その中にあってこの交響曲は、全3楽章で一時間もある内容ながら、とにかくわかりやすくて美しいのです。


 第1楽章はたったひとつのテーマによる弦楽合奏が延々と続き、一度クライマックスを迎えたのち中間部に入り、ソプラノ独唱による15世紀ポーランド修道院の哀歌が歌われます。


 歌詞の内容は、息絶えた息子キリストをながめる聖母マリアの嘆きの歌であり、やがてまた最初の弦楽合奏に戻っていきます。


 次の第2楽章は、その後半部分をイギリスのFM放送局が繰り返し流したところ、リクエストが殺到して記録的なヒットにつながりました。


 ここでの歌詞は第二次世界大戦末期、ナチスによって収容された18歳の少女が、独房の壁に書いた祈りの言葉をテキストとしています。


 それは人間の持つ深い孤独についてであり、絶望の淵にありながら実の母の身を案じている内容に、胸が引き裂かれそうになります。


 最後の第3楽章ではポーランド民謡が歌詞として使用され、戦争によってわが子を失った年老いた母が、その悲しみを切々と語りかけているのです。


 たとえどんなに涙を流して、この目がつぶれてしまおうとも、わたしの息子は生き返りはしないのだ。


 歌詞はもちろん、これほど人間の心に訴えかける音楽は、なかなか見つからないような気もします。


 近代音楽にあって書法が単純であると当時は評されもしたそうですが、この音楽を前にどの口がという気持ちです。


 おすすめしたジンマン盤は、欧米を中心に売れに売れた録音です。


 今回はかなりおセンチな内容になってしまいましたが、この曲を聴いていると、自分のかかえている悩みなどいかにちっぽけなものなのかと、目からうろこが落ちる思いです。


 Spotifyにも音源がありますので、一度でもぜひご体験ください。

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