「悪意という名の街」 ザ・ジャム

<タイトル>


悪意という名の街


<原題>


Town Called Malice


<収録アルバム>


ザ・ギフト


<アーティスト>


ザ・ジャム


<解説>


 1977年にデビューし1982年10月に解散した、ポール・ウェラー率いるロンドンのロックバンド、ザ・ジャムの転換期における傑作ナンバーです。


 ポール・ウェラーはそもそも、セックス・ピストルズなどのパンクロックにあこがれる音楽少年であり、パンクのほかにもさまざまなスタイルのロックから影響を受けている方です。


 バンドはそんなパンクの全盛期にザ・ビートルズのコピーバンドのような形でスタートし、モッズと呼ばれるスタイルを取っていたことが大きく、しばらくは不遇の時代が続きました。


 さらに追い打ちをかけるように、80年代に入ると今度はニュー・ウェイブというストリームが台頭、バンドは音楽の方向性を変えることを余儀なくされます。


 ただしモッズというスタイル時代はブレず、エッジの効いたギター・サウンドを抑えて、代わりにシンセサイザーを前面に出す形になりました。


 時代に合わせて、ですね。


 奇しくもと言う表現が適切なのかどうかはともかく、アルバム「ザ・ギフト」は大ヒット、「悪意という名の街」もシングル・カットされ、当時のランキングで首位にまでのぼりつめました。


 歌詞の内容は一貫して、社会に対する怒りに近い不満・批判的なものですが、ウェラーは声高に叫ぶのではなく、静かに、そしてアイロニカルにささやいているかのようです。


 このあたりにポール・ウェラーという人の知性的な側面を感じ取ることができます。


 時代が変わったからといって、自分のアイデンティティを――それは決して、パンクというジャンルだけではなく――平然と侮辱・罵倒する社会への静かな、しかし確かな怒り、そんなものが感じ取られるのです。


 拡大解釈かもしれませんが、「悪意という名の街」とは、概念的総体への批判としてであるような気がします。


 どこか虚無的なサウンドとリリックですが、同じような気分に襲われているときにかけると極まる一曲です。

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