充士 紫陽花
鬼は恐怖を食べる。
しかしひびなは、んなまっくろなもん食えるかと拒否。
嫌悪感が勝って逃げまくり。
空腹に倒れて、初めて花に心奪われて涙を流し、花に囲まれる生活を切望する。
そんなもん許すか莫迦め鬼知らず。
と、仲間たちに迫害に遭うもバッタバッタ投げ倒す負け知らず。
仲間同士で傷つけ合ってどうすると閻魔大王激怒。
地獄の自宅で、しつけと称してひびなを傍に置いてから、数年後。
ひびなの閻魔大王に対する態度が軟化し始めたころ。
「閻魔大王、さまは士か」
「ああ」
土間と一室しかない平屋建ての家の中。
ちゃぶ台に国語の教科書とノートを広げて勉強中のひびなは、土間でぐつぐつとサンカッチを煮込んでいる閻魔大王の背に向かって話しかけた。
「潔く散りますか?」
「潔く散りません」
「紫陽花みたいだな」
畏まった言い方から一変、無邪気に笑った。
赤。ピンク。青。紫。白。
小さな五枚の花弁の花の群集植物。
土の栄養分によって違う色を染めていく。
花(装飾花)は散らず。
来年にまた芽吹く時まで茎に留める。
枯れ細った姿でも。
「俺さ。花は大好きだけど。散っちゃうのは好きじゃない。永遠に咲いてたらいいのに」
「生気の失った紫陽花みたいにか?」
「そりゃあ。色いっぱいの花が好きだし……最初。骨みたいで、嫌いだったんだけど」
小さな花がいくつも芽吹き、外側から色を染めあげながら成長、老成、そして枯渇。
生物の一生をたった数か月で表わしているような花。
チラズニ。
トドマル。
イロドリトカタチヲウシナッタトシテモ。
オイヲミルノハスキジャナイハズナノニ。
オイハシニチョッケツスルカラ。
(花は同じ場所で何度でも咲くから…好きなのかな?)
「おりゃあいるぜって根性を見たから、幼いのも大きいのも枯れたのも好きだ」
「…そうか」
背を向けたまま、閻魔大王は口の端を上げた。
変わった鬼が生まれたものだと。
本来鬼は死を好むもの。
好物である人間の恐怖を最大限に引き出すから。
「なーなー。ごはんまだ?」
「まだだ」
「えー!!はらへった!!めーしー!!」
ジタバタジタバタ。仰向けに寝転んで手足を動かすだけなら可愛いものの。
頑固おやじよろしく。ちゃぶ台をひっくり返しては、こちらに襲い掛かってくるひびなのその大きく開かれた口に、羅漢地という彼の苦手な食べ物を突っ込んで黙らせた閻魔大王。こいつはこれでこそ可愛いのかもしれないのだと思い始めるのであった。
紫陽花:花言葉 移り気 浮気 冷酷 自慢家 変節 あなたは冷たい 辛抱強い愛情 元気な女性
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