第3話 ウズメ、初めての部活動!! その①

金曜日に月谷先生に部活に強制入部させられ早くも三日が過ぎた。 


 しかしながら、私は入部届を出して部員となったのにその自覚がなかなか持てない。 




 というのも私の人生設計の中での高校生生活では新歓で話を聞いて、その後の仮入部期間で最終的に決めようと思っていたからだ。 ただ、念のため言っておくと私は別にここに入部したくなかった訳ではない、むしろ入りたかったぐらいなんだけどこんなにも早くさせられると逆に困ってしまう。 




 さて、そんな話はさておき、私はどこで何しているかと言うと、今は微生物研究第二教室で授業を受けており、科目は月曜日の5限と6限の二時間にわたって行われる実習の微生物研究基礎実習だ。


 この授業はその名の通り微生物を取り扱う研究で、主に酵母、カビ、細菌などの研究を行う。 これらの生物の簡単な説明をさせてもらうと酵母は真核生物で、主に西洋の食品に使われるパンを発酵させるものとしてあったり、後はお酒や化粧水などに愛用されている。 そして実はこの酵母は人間の細胞と近い性質がある。 




 それは順を追って説明するとに微生物には酵母などの真核生物、もう一つは原核生物がいる。 それ以外にもカビや放線菌が存在しているけど今は省かせてもらう。




 とまぁ、こんな感じのことを担当の浜井朝穂彦(はまいあさほひこ)は五限目の頭からずっとしているため、実験室内で真面目に聞いてる人、聞いていない人問わず、食後なだけあってみんなもう目は半開きになっていることだろう。




 さて、今回行う実習の内容は顕微鏡で酵母の観察とスケッチ、もう一つは顕微鏡のスケッチとそれぞれの部位についての詳しいことレポートにまとめて提出。 これらを本日の授業中に提出するだけの研究職に就くための基礎中の基礎しかしない。 しかしこの段階である程度の人は気づいたのかもしれない。 この授業はこれだけとしたら一時間ちょっとで終わるのではいのかと。 ところがこれだと授業が短く終わってしまう。 ならということでアサホ先生は何と5限丸々を使って講義にまわしたのだ。 それを聞いた私含めこのクラス全体は六限目か座学に回せよとみんな思ったのに違いない。  


 そして今先生のしている説明は今回扱う使う光学顕微鏡の扱い方。 


 この顕微鏡は名前だけなら小中で扱った光学式顕微鏡と同じ。 違う点と言えば光源が天気によって左右される反射鏡ではなく、電気を使用したライトな点だ(ライトの時点で電気は必須だけど)。  


 なぜ、ライトなのか。 その理由はライトを使うことで天候に一切左右されることはなく、実験が止まったりすることがないからだと先生は話す。 






それから約十分すぎても教卓の前ではアサホ先生が必死に顕微鏡の扱い方について必死に教鞭を取り続け、その後ろにはいつの間にいたのか知らないけどかササ先生がちょこんと立っていた。  加えて教室の後ろの方にはチカ先生がひっそりと授業の様子を見ており、もしかするとアサホ先生が一時間丸ごとこの難しい説明を淡々とするのは「私真面目に授業してますよー」とか言うアピールなのかもしれない。


 その真相は誰もわからない。




 ――――。


 ――――。




 アサホ先生の大八島を一周回る方が早いと言いたいほどバカ長い講義が終わった。 少しの休憩時間を挟み、ようやく今回の実習が始まった。 


 授業が始まったと同時にアサホ先生が実験の手順を話す。 その手順は簡単に説明すると最初にすることは顕微鏡を保管している教室に向かって、持ってくること。 さらに顕微鏡は二人に一台だけ。 念のため話しておくと私と一緒にこれから一年間実験をするのはチヒロさん。 


 私はチヒロさんとたまたま目が合いクスッと共に笑みを浮かべた。




 朝穂先生の説明が終わり、各自それぞれ作業に入る時ササ先生が―――。


 「皆さーん! 誰が持ってくるか決めたら私のところに来てくださーい!」


 と、手を高くあげて大きな声でそう言った。


 これを聞いた私はチヒロちゃんに「顕微鏡取ってくるね」と笑顔で伝えると、チヒロちゃんは手を合わせて。


「ありがとうございます」と返した。




 私はチヒロさんにそう言った後ササ先生の方に向かう。 その後ササ先生が、


「それでは行きますよー。 ふふっ、と言っても隣の教室なんですが」


と、クスクスと笑いながら廊下に出て隣の電子顕微鏡教室に向かった。 名前からして中には電子顕微鏡があるに違いない。 それとこの教室は隣で扉がついてつながっている。 何故廊下を渡のか? その理由は先生がいうはこの教室は狭いため生徒たちが集まりすぎると隣で授業を受けている上級生たちの迷惑になるかららしい。 




 中はドラマや映画などで出てくる研究所みたいにカップラーメンや、資料が散見している。 この光景についてきた私含めクラスメイト たちは唖然としていた。 なぜなら自分たちが想像してたのよりも汚れていたからだ。 これを見たササ先生は暗い顔で「あの、これは……いえ、なんでもないです」と聞き取れなかったけど何かぼそっと言ったようだ。 もしかしてこんなに散らかしたのはササ先生なのかな?




 そこから少し沈黙が生まれたがササ先生は一回息を吸って、今この場に重りみたいに重くなった空気を吹き飛ばすかのように元気な声で説明を始めた。


 「では皆さんこちらです!! 顕微鏡はこのロッカーに入っているので気をつけて運んでください。 持ち方はアサホ先生が言っていたように片方の手はこの顕微鏡が入っている箱の下に、もう片方は箱の背中を支えてください。 あ、それと扉は体の方に向けてください。 もし反対にすると扉が開いて顕微鏡が落ちて壊してしまうかもしれないので。 最後に直すときはこの、顕微鏡の箱に書いてある数字があるでしょう?」




 先生はそう言ってロッカーに一段ごとに三台入っている顕微鏡の箱を一つ取り出し、箱に書かれた数字に指を指し、みんなに見せる。


 「これは二十と書いてあるので直す場所はロッカーの棚に数字が書いてあるテープが貼ってあるので。 その数字と一致する段とその場所に直してください」


 先生はそう説明を終えるとロッカーを開けて顕微鏡を取り出してクラスメイト に一列に並んで扉は出やすいように全開にしてくださいと指示を出す。




 そのあとは指示通り列に並んで順番に顕微鏡を受け取る。


 そして私は顕微鏡を受けとり、チヒロさんが待ってる教室に急いだ。 もちろんこの状態で走ったらガチで先生に顔面を殴られる危険性があるため、早足だ。


 無論いつの時代も急がば回れと言うし調子に乗って急ぐのは避けよう。




 教室に戻るとチヒロさんはプレパラートを準備しており、さらにプリントも私の分もとってきてくれて机も汚れないように私の筆記用具など授業道具を机の下に入れてくれていた。 


 チヒロさんは私と目があったら「先に用意してたよ」と言って私から顕微鏡の箱を取り、あっという間に設置を済ませた。 ……この時の私はあまりの早さにポカーンとしていたに違いない。




 私はチヒロちゃんの手際の早さに驚かされながらも。


 「あ、ありがとう」とお礼を言った。


 チヒロさんは笑みを浮かべながら嬉しそうだった。


 「別に良いですよ。 ほら、早いとこ観察終わらせて六限目でレポートを書き上げてしまいましょう」


 チヒロちゃんはそう言うと顕微鏡の上にプレパラートを載せ、観察を始めようとした。


 「ねぇ、ウズメさん」


 「ん?」




 「申し訳ありませんが顕微鏡の使い方が書いてる紙持ってくれませんか?」


 「うん分かった。」


 私はそう言ってこの教科のファイルをから顕微鏡の説明が書かれたプリントを取り出しチヒロさんに渡した。




 「はい、これで合ってる?」


 「はい! ありがとうございます」




 チヒロさんはそう言うと顕微鏡の調節に入る。


 「ねぇ、ウズメさん」


 「どうしたの?」


 「確か上下動かすのは調節ネジだったわよね?」


 「うん、けど一番大きい粗動ネジは菌が見えるまで使って見つけたら微動ネジで調節」


 「なるほど。 私こう言う実験は苦手なんですよね」


 「そうなの?」


 「はい。 私はどちらかと言うと実験より座学で生物について調べたり暗記する方が得意なんです。 だからこう言う実験は一人ではなかなか出来ないんです」


 「ふふっ。 意外」


 「そうですか?」


 「うん。 だってチヒロさんは一人でなんでも出来そうに見えるもん。 けど、そのチヒロさんがそう言って頼ってくるととても嬉しい」


 「————。 ありがとうございます。 じゃこれから頼っても良いですか?」


 「うん————」




 そう言ってチヒロさんは笑みを浮かべながら粗動ネジを誤って強く回し――――。


 ――バリッ。


 ガラスが割れる音がした。


 「あ」


 「――――」


 割れた音がした時みんなは気づいてるけど見えなかったフリをしているのか見向きもしない。 さらにササ先生はあらあら〜と笑い、アサホ先生は何してんのと半笑いでこちらに近づいた。






 それから数分程度お説教を受けた。


 「全く、喋るのは良いけど実験中なんだからせめて器具は大事に。 ほら周りを見なさい。 喋ってるでしょ。 それは良いのよ。 けどね、一番やってはいけないことは君たちがしたカバーガラスを割ったことじゃない。 私みたいに今思いっきり素手でレンズに触れたことだ!! ————まぁ割れたのはスライドガラスじゃないだけ良いかな。 カバーガラスは消耗品だし。 けどね、次からは気をつけるように。 良い?」


 「はい、すみませんでした」 「本当にすみませんでした」


 私とチヒロさんは勢いよく頭を下げた。




 「けど君たちが怪我してないだけでも良かったです。 えっとレンズは―――なんとか大丈夫か。 それでは実験に戻ってね」




 先生はそう言うとガラスをささっと集めてバケツに捨てた。


 私とチヒロさんの間の空気は少し重かったがチヒロさんの「プレパラート作ってくるね」と言ったあたりからノリが先程の会話まで回復した。




 ――――――――。


 ――――。


 ――。




 「よし、だいたいこの辺りかな。 ウズメさん、多分これが酵母よね」




 チヒロさんはそういって顕微鏡から目を離し、席を私に譲った。




 そして私は顕微鏡に目をやり、


 「えっとこの目の前の丸いの?」


 「うん」


 「えっと確か教科書に……うんこれ!」


 「分かったわ。 ならリボルバーを回して……レンズのサイズを変えるわね」


 さて、私たちがあの気まずい空気から立ち直り、今はもう実験に戻っているけどしていることは同じく酵母の観察を最初からやり直していただけ。




 さて、今私たちがしているのはガラスを割った影響で周りと少し差があるが、チヒロさんの手際の良さで何とか追いつき、酵母を見つけてレンズの倍率を上げるところ。


 まずリボルバーについての説明だけどリボルバーはレンズを回すためのものにある。 そのレンズは四種類の倍率があり、低い順から観察していき最後に大きな倍率で観察する。 倍率の見分けかたは赤色のラベルがあるのは一番小さく、黄色いラベルは小さい倍率と大きい倍率の中間に位置する倍率のもの。 水色のラベルがあるものは少し大きなラベルで青色の羅バルが一番大きな倍率のものだ。




 しかしながら赤色のラバルは菌の研究ではあまり使わないもので、使用する際は黄色ピラバルから見て、菌のピントが合ったら水色のラベルに変更して操作は先ほどと同じくピントを合わせて最後は青色のラバルのもので観察して終了。




 だけど今回の実験で観察する倍率は黄色と水色の倍率のみ。


 「えーと……酵母は…これでよし! ウズメさん出来ましたよ……どうしたんですかボーとして」


 「あ、ごめんさない。 少し考え事を……」


 「あははは。 ほら、もう酵母は見つけましたのでささっと観察しましょ」


 チヒロさんはそう言って「私はもう観察が終わったので良いですよ」と言って顕微鏡の置いてある席を私に譲った。


 そして私は「ありがとう」と返して観察した。




 「あ、わーなんだろう。 なんか怖い」


 「そうですね、イースト入れすぎたみたいで、ある意味グロテスクな仕上がりになってますよね」


 「ははは……本当にその通りだよ」




 私とチヒロさんと談笑しながら観察をした。


 酵母の形は色々あるが、今回観察した酵母の形は球状の細胞のためスケッチがとても簡単だ。


 「えーとよし。 これでできた!!」


 「できましたか。 それでは直しにいきましょう」


 「うん、そうしよ」




 時計を見てみると早くも終了まで残り二十分になっていた。 今回の実習の記録はレポートにまとめて来週の月曜までに提出しないといけない為チヒロさんと分担して片付けに入った。


 顕微鏡は電子顕微鏡室に。 そしてプレパラートはスライドガラスとカバーガラス両方に傷と汚れが残って観察が困難になる状況を作らないように洗浄する。


 この作業が終われば後はレポートをまとめるだけ。




 そして就業のベルが鳴り、アサホ先生による今回の実習のまとめを聞いたら後は各自白衣を脱ぎ、教材をまとめて教室に戻って終礼を終えればようやく帰宅だ。 しかし私はこの後部活と昼休みの段階で先輩から連絡が来ている為私含めチヒロさんとワラは白衣のまま教室に向かい、荷物を持って部室に箸を運ぶだけ。


 ————。


 そのとき授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り響く。


 「それでは授業を終了しましょう」


 そして先生が授業終わりと告げた。


 このときササ先生が待ってくださいとみんなを止めた。


 「えっと今日の終礼はないので自由解散です! けど朝に言ってた健康調査書は必ず明日出してくださーい」


 ササ先生のこの言葉を聞いた私はわかりましたと答え、チヒロさんと一緒に教室に戻り、部室に向かった。




 ―――――。


 ―――。


 ――。




 私とチヒロちゃんはこの後部活だった為白衣を着たまま教室に戻り、荷物をまとめて部室にやってきた。


 部室は昨日と同じ教室だけどやはり思うのは先ほど実習で使った実験室よりボロい気がする。


 部室に入った私が目にしたのは三列に並んでる長机あるうちの二列目の机に円状のガラス器具と栓が付けられた三角フラスコが置いてあった。 さらに試験管の中には白く濁った固形のものが入っており、それが試験管立てに大切に複数置いてあった。


 そして近くの机には仮入部にきたのか眼鏡をかけた男の子が座ってゲームをしていた。


 彼は私たちが近くに来たのに気づいたのか、はっと後ろを振り返り、


 「あ、さっきぶり!」


 ん? 誰?




 彼がそういうとチヒロさんはあー思い出したように声をあげた。と


 「あーあなたですか。 さっきぶりです。 あ、農業実習の水やりの当番はあれでお間違いはありませんね?」


 「うん、それでええで」




 チヒロさんと彼は親しげに会話する。


 うん。 本当に誰?


 「そうそう。 この子が私の大切な友人のウズメさん。 知ってますよね?」


 「そら同じクラスなので知ってるわ。 えっとウズメさんよろ————」


 「……誰ですか?」




 彼が私にお辞儀する前にワラがそう言って割って入った。


 「え? いやいやいや」


 「……見た気がするがあなたとは話したことはない」


 ワラはそう言って真顔で淡々と喋る。


 無論。 それを言われた彼はえと戸惑っている。




 この光景を見たチヒロさんは、「ヒビさんは知らないのですか?」と困惑しながらワラに言った。




 「まてまてまて。 ミコト(ワラ)。 俺や。 遊んだやん小さい時、小学校入る前に引っ越したけど」


 「――――お前とは一度も遊んだ記憶はない」


 「ちょっと待てちょっと待て。 思い出せ、ツノム(マンジ)と一緒に河川敷でよ―遊んだやん」


 「お前みたいな子はいなかった」


 そう言われた彼は腹を抱えて笑い出した。




 ワラの表情はナマコの方が表情表情出せると言いたいほど変化がなく。 逆に心配する。




 流石の私も少し心配になったので声をかけた。


 「あの、大丈夫ですか?」


 「はははは。 大丈夫、大丈夫。 ミコト、もう本題入って良いか?」


 「————」




 ワラはそう言われると頭を上下にふった。 


 あ、知り合いなのは本当だったんだ。


 常真顔だから本当に言ってるのか心配になった。 ……明日マンジ君にワラの感情の読み取り方聞いてみよ。




 「えっと俺の名前は————」


 「ウズメさん。 この方の名前はめがね君て言うんです」


 「えっちょと」


 「そうなの?」


 「そうですよねヒビさん」


 「あぁ」




 めがね君はワラとチヒロさんにそういわれた後、くそーと声を出した。


 「なんでや、先週チヒロさん名刺交換したやん。 てか交換したやん。 むしろ幼馴染で遊んでたミコトに関しては名前忘れたらあかんやろ!!」


 めがね君はそう笑いながら返した。




 この時私は元気だなーと感じた。




 それから少しめがね君とワラが二人で新喜劇した後、私はめがね君に頭を下げて、挨拶をした。


 「あの、めがね君。 よろしくお願いします」


 「くぅー。 おし、改めて紹介したる。」


 めがね君はそう言ってゲーム機を机の上に置いて立ち上がる。


 「俺の名前は篠山鎌多吉備(ささやまかまたよしび)、ちゅうもんや。 改めてよろしく!」


 「………嘘」


 「え、そうなのワラ?」


 「いやホンマやん。 ――――てか逆に何故ミコトが俺の名前知らないのか問い詰めたい……」




 めがね君————もといカマタ君はワラにそう突っ込んだ。








 その後数分程度四人で少し話に盛り上がった。 その時チヒロさんは何か気になったのか私の肩を叩いた。


 「ウズメさん、あれ何かわかりますか?」


 「さぁ?」


 「おはよー! あれ、どうしたの?」


 スズカ先輩がガラガラと扉を開けて部室に入ってきた。


 スズカ先輩は体育の後だったのかかなり汗をかいていて少し息を切らしているようだった。




 「あ、スズカ先輩こんにちわ」「「「こんにちわ〜」」」


 チヒロさんの挨拶に続いて私とワラ、カマタ君は先輩に挨拶した。


 スズカ先輩は「あ、こんにちはの時間だったか」と言い、手提げかばんを私たちの荷物の隣に置いて白衣を上に羽織る。


 「よしっと。 ウズメちゃんとチヒロちゃん? そしてワラ君と―――めがね君も今日は一体何すると思う?」




 「あれ? スズカ先輩とカマタ君は知り合い何ですか?」


 「ううん。 今日初めてよ。 あ、カマタ君て言うんだ、仮入部?」


 「はい、そうです」


 「――嘘、本当は研究資料を盗みに来た」


 「そうそう。 ばれたらしょうがありませんね……てっミコト!!」




 ワラのさり気ないボケに乗り、そして盛大に突っ込んだカマタ君を見たスズカ先輩は気に入ったのか笑いだした。


 「ははは!! いいよ面白いよ!」




 そしてカマタ君の肩に手を置き、


 「ふふふ。 いいじゃん君。 気に入った!!」


 「は、ははは。 ありがとうございます……」


 カマタ君は突っ込みづかれたのか顔が少し更けて見えた。




 それから少ししてツキヤ先生が部室に入ってきた。


 「あぁ、スズカさん。 体験入学の子は来てるか?」


 「あ、この子です」


 スズカ先輩がそういうとカマタ君は手をあげた。




 「そうか。 で、ササヤマさんだったな。 先週プリントを配ったが生物工学部の体験は奥の生物工学研究室で半分に分けてそれぞれ体験してもらうからここに集合と書いてあったはずだが…‥」


 「え、ここになってましたよ?」




 カマタ君はそういってプリントをツキヤ先生に渡す。 それを見たツキヤ先生は少し引いた表情を浮かべた。




 「すまん。 こちらの記入違いだ」


 「了解です。 では生物工学研究室に行けばいいんですよね?」


 「あぁ。 俺は後から行く」




 「分かりました。 それではまた体験入部でよろしくお願いします。 あ、先輩も少しお騒がせしました、失礼しまーす」


 カマタ君はそういって荷物をまとめて教室を後にした。




 その後ツキヤ先生も誰かに電話した後、教室を出た。


 「あ、私の自己紹介忘れた。 まぁ、明日でいいか」




 スズカ先輩はそう言いながら扉を見つめた後、私たちの方に向いた。


 「じゃ、実験に入ろう!!」




 そういった後スズカ先輩は私たち三人の腕を引っ張って、チヒロさんが気になっていたものの近くに強制的に移動させられた。


 そしてスズカ先輩はそれに指をさして、


 「さぁ、早速だけどワラ君何だと思う」




 質問されたワラはしばらくボーとしながら、


「……何かを作る」と答えた。


 「おおー!! いい線言ってるよ! で、その作るものはわかるかな? えーと、次はチヒロちゃん!!」




 「私ですか?」




 話題を急に振られたチヒロさんは普段通り落ち着いた表情をしているけど内心とても焦っているのかも知れない。 けどそれとは裏腹にチヒロさんは顎に手を当てて記憶から考察しているに違いない。


 無論私たちは学んで間もない為、分からなくて当然だと思う。 




 しばらくしてスズカ先輩はニヤニヤしながらふふふと笑った。 多分狙ってたんだと思う。


 「えっとね、これは主に幅広い細菌類を採取するのに使われる標準寒天培地だね。 ふふん残念だね。 ここに連れてきたのはヒントだったのに」




 スズカ先輩ごめんなさい。 私はただの腐ったジュースにしか見えませんでした。




 スズカ先輩はそうどや顔で語り、「じゃ実際に培地はどんな感じで使うか見せるね」と言って私たちにこっちにきてと腰くらいの高さの収納型の正方形の機械に誘導した。


 「…その培地の使用例はこんな感じだ……クサっ!! ちょっと待って封印、封印!!」


 スズカ先輩はまるで祠から出て来た邪神を封印しようとする巫女さんみたいな感じで扉をしめた。


 あの扉から出てきた臭いを表現するなら私はこう言いたい。




 鮒寿司と納豆、そして真夏の汚い公衆トイレに一ヶ月放置された獣肉と魚肉に臭いが混じったかのような臭いだ。


 何を言っているのかわかりにくいと思うけど本当にそんな臭い。 もし1分だけ嗅いでと言われたらミツバチのように決死の抵抗を見せる。




 無論こんな腐った臭いを直で嗅いたスズカ先輩は鼻をズビズビ言わせ、テッシュで鼻をかんだ。




 スズカ先輩。 どんまいです。




 その後だいぶ臭いが鼻から取れたのかスズカ先輩は少し鼻直しに深く息を吸って勢いよく吐いた。


 「はぁーキツかった」


 「えっと、スズカ先輩? この臭いは?」


 「……ごめん、多分これホウエがしてる実験のだと思う」


 「もう一つの実験ですか?」


 「その、ホウエは意外だと思うけど生物芸術の実験をしてるの」


 「生物芸術ですか?」




 生物芸術。 確か私が不登校で中二の時あの人とこの学校のオープンキャンパスに行った時倉庫でやってた物か。


 その時の光景は今も鮮明に目に残っている。


 どんな光景かだったかというと倉庫の壁にはプロジェクターが映像を流していた。 その映像は微生物がふよふよと動き回ってるだけの単純な物だったがそれに触れるとその場で花火みたいに飛び散る仕組みになっていた。




 これだけでもとても綺麗だったけど、さらにすごいものがあった。 それはカビで柄を作った芸術作品や寒天と微生物で作った立体的なオブジェクトなど本当に綺麗で初めて見た私はとても感動したのは良い思い出。




 けどチヒロさんは初めてだったのか少し困惑の表情を浮かべていた。




 「そうよ。 この臭いの原因もこの実験の一つで、発光菌の培養にイカを使ったみたいだけど2週間培養はやり過ぎで腐ったみたいね」


 「えっと。 その生物芸術とはいつからしている物なんですか? 私的にはまだ新しいものの気がするのですが」




 生物芸術は……確かオープンキャンパスに行った時、当時私を生物工学科のブースを案内していた二年生が「これはまだ発展途上だから結構最先端な事して気持ちーわ!! どう、入学したらやってみない?」ってかなり進めていた記憶がする。




 「そうねー。 始まりは十年ちょっと前だけどこの高校は今三年生の先輩が始めたものね。 オホウエは最初っからこの研究に興味があったみたいでその先輩に入部した直後から僕も参加したいですって言ってたわ」


 スズカ先輩はそう懐かしそうに呟いた。




 「先輩。 少し気になる事があるので少しだけお時間よろしいですか?」




 チヒロさんは何か気になるのか悩んでる表情を浮かべながらスズカ先輩に質問した。 スズカ先輩は「ん? どうしたの?」と言った。 


 「えっと話が変わるんですけど私たちが行う実験……研究内容は一体何なのですか?」


 「あ」


 スズカ先輩はしまったと驚いた顔を見せる。




 「ごめん! 忘れてた! えっと私たちがいましている研究は放線菌の研究してるのよ」


 「放線菌ですか?」


 私とチヒロさんの声がかぶった。


 「そう。 私とホウエは放線菌を使って……五十年以上からしてるのかな? そんな昔から続けてる放線菌の研究を引き継いでしてるの」


 スズカ先輩はそう言ってバッグから生物工学基礎と表紙に書かれた教科書を取り出し、放線菌についての説明がされたページを開いて私たちに説明してくれた。




 「えっとまずいきなりだけど公園とかで地面に顔を近づけると土の香りがするでしょう」


 「……はい」 「確かにしますね」 「……」 


 「ふふ。 その土の香りは放線菌が出す抗生物質ストレプトマイシェルの香りなの。 このストレプトマイシェルは主に結核とかに対する抗生物質に使われてる。 けど今は発見から何千年も過ぎてこれに対して逆に抗体を持ってる細菌が殆どだから今流通しているのはもう天然からほど遠い物」


 スズカ先輩はそう詳しく説明してくれた。




 「けど今私たちが実験しているのは人工的にDNAプログラミングで改造された放線菌じゃなくて一年生が使ってる農場から採取した自然のサンプルだから安心してね」


 鈴鹿先輩はそう笑いながら箱の扉に手をかける。


 そして扉を開けた。 辺りは一瞬で以下の腐敗臭で充満したが先輩が何とか手早く丸いガラスを取ってすぐ閉めてくれたため、被害は最小限に抑えられた。




 「えっと。 これだね。 そうだまだ一年生実験器具の詳しい説明されてないよね?」


 「はい、まだされてません」


 私はチヒロさんの発言の後そうですとワラと一緒に首を縦に振った。


 「なら、今日実験しながら説明しちゃおっか。 ――――まずこの丸いガラス器具だけどこれはシャーレ。 主な使い道は菌とかの培養と観察と保存に使う。 ……高いから割っちゃだめだよ」




 そういってスズカ先輩はシャーレを机の上に置き、こっちについてきてっと手招きする。


 その場所は入ってきたときにチヒロさんとワラと何だろうと言っていたものだった。


 その時扉が開く音がした。


 「おーす。 もう始まってるのか」


 「遅いわよオホウエ。 掃除になんでそんなに手間かかるのよ」


 「あの口うるさい体育の先生のところだからだよ」


 「……じゃ仕方ないか。 ほら、ならさっさと準備する!」




 オホウエ先輩はささっと教室に入り、スズカ先輩に軽い叱責を受けて過ぎに白衣に着替える。


 そしてオホウエ先輩が着替え終わったと同時にスズカ先輩は器具などの用意が完了しているのを確認して今回行う実験の説明に入った。


 と言っても実験は私たちではなくオホウエ先輩に確認しているだけだけど。




 無論今回する実験はとても簡単なため、危険ではないことを先輩は軽く私たちに良い、早速実験に取りかかろうと息込んだ。


 「では早速だけど始めましょか。 今回やる実験は培地の作成。 今目の前にあるのは多分後からくる他の実験メンバーのだから使ったらダメよ」とスズカ先輩はそう私たちに注意をした。


 確かにこの部活は新歓の時も部員がたくさんいた記憶がある。




 「他の実験メンバーですか?」


 「ああ。 今俺たちが所属している線菌研究班とは別の甘酒の研究をしている研究班があるんだ。 その研究班と俺たちの班は実験日が重なっているんだ。 だから少し騒がしくなるが気にしなくても良い」


 オホウエ先輩はそういうと六時間目の初めに入った電子顕微鏡室の中に廊下側体はなく、この教室から入っていった。


 そのオホウエ先輩の後ろ姿を見ながら私は「ありがとうございます」とお礼を言った。




 その後スズカ先輩が咳払いしてオホウエ先輩が素材を撮りに行ってる間に早速実験の説明を始めた。


 スズカ先輩はその前にと教科書を放線菌のことを解説している箇所を閉じ、最後のページを開いた。 最後のページにはたくさんある培地の説明らんと組成方法が詳しく載っていた。 スズカ先輩はそのうちのひつつの培地に指をさした。


 「おほん。 では始めちゃうね? 今回は何度も言ってるけど培地の作成。 培地の種類は色々あるけど今回作るのは……検鏡を行います」




 スズカ先輩はそう言った後、器具がたくさん置かれているところに行き、十四本の試験管を試験管立てに挿してこちらに戻って机の上に丁寧においた。




 「持ってきたぞー」


 「おーやってるなー」


 それと同時にオホウエ先輩が培地の組成に必要な素材が入った容器を持ってきた。 それ同じくしてクニイサ先生がやってきた。


 「こんにちはクニイサ先生!」


 「おーこんにちはスズカさん」


 クニイサ先生は私たちの方に目目を向け、


 「君たちもおはよう。 部活はどうだい?」


 「はい、とても楽しくさせて頂いています」




 チヒロさんはそう丁寧に答えた。


 「ははは。 それは良かった。 スズカさん実験は今からする感じかな」


 「はい。 今日の実験は培地作成と検鏡をする予定です」


 「ふむ。 なら培地ができたら先生のほうに持ってきてね。 オートクレーブで殺菌するので」


 「ありがとうございます!!」




 クニイサ先生はそういうと電子顕微鏡室の中に入って行った。


 オートクレーブ。 また初めて聞く単語。


 「それじゃ実験に入ろっか!」




 スズカ先輩はそういうとオホウエ先輩から容器をとって秤が置いてある机においた。


 素材の名前は容器にきっちり描かれている。


 まず一つ目は肉エキス。


 二つ目はグルコース。


 三つ目は塩化ナトリウム。


 四つ目は酵母エキス。


 五つ目はペプトン。


 六つ目は寒天。




 そして最後は水道水。 水道水はメスシリンダーの中に一合入れられている。




 「それではまず培地作成の手順について説明しよっか!」






 培地組成方法。


 今回作成する培地は試験管一本あたりに0.08合(15ml)。


 そしてそれぞれの素材の分量は水道水1合(200ml)あたり、


 グルコースが1斤(1g)。


 ペプトンは3斤(2g)。 肉エキスも同じく3斤。


 酵母エキスは0.1匁(0.4g)。


 最後に塩化ナトリウムは1斤(1g。






これらを三角フラスコに入れた後、水道水1合(200ml)を三角フラスコに注いで最後は透明になるまで湯煎しながら混ぜ、溶かす。 それができたら試験管一本あたりに0.08合(15ml)分注してオートクレーブで殺菌したら終了。




 以上スズカ先輩の世界一わかりやすい説明。




 それとオートクレーブはスズカ先輩がいうには簡単に言えば高温と高圧蒸気で殺菌する機械。


 形は縦長の長方形に戦車の出入口の蓋みたいなのがついている。


 この機械は教員しか触ってはいけなく、その理由は数年前に別の農業高校生がオートクレーブの中に入ってる動画をSNSに投稿して大炎上したかららしい。




 逆に何故死ななかったのかを知りたい。




 その間オホウエ先輩は薬包紙や薬さじを用意してくれていた。


 「スズカ。 こっちは良いぞ」


 「ごめんありがとう。 それじゃ今日検鏡するシャーレのサンプル持ってきてくれる」


 「あぁ。 それとついでに顕微鏡を持ってくるわ」


 「本当にありがとう」




 スズカ先輩がお礼を言うとオホウエ先輩は別に良いとかえし、言われた通りの作業に移った。


 「じゃ、早速実験に取り掛かろう!」




 私とチヒロさんはペプトン。 グルコースを測り、そしてワラは塩化ナトリウムと酵母エキス。 最後の肉エキスは処分やら扱い方が大変と言うことでスズカ先輩がすることになった。




 最後に、念のため言っておくけど培地作成の時はみんな無言・無心。


 そして調整が終わり、クニイサ先生に完成した培地渡し、オートクレーブ殺菌をお願いした。




 さて、培地作成が終わって時計を見ると時間は四時半になっていた。 授業が終わったのが三時二十分で部室に入って作業したのが三時四十五分だったからこんなものか。




 それにしても培地作成はあんなに簡単だとは思わなかった。 いや、むしろあれでつまづいたらまずいけど。


「よし! 培地はこんなものね!」


 スズカ先輩は両手を腰に当てる。




 「それとオホウエも準備できたみたいね」


 「……うん? ああ出来てるぞ」


 オホウエ先輩はそう返すとラップに包まれたシャーレを一枚一枚丁寧に取り出す。




 そしてスズカ先輩は元気のいい声で、


 「それじゃみんな検鏡しよう!!」


 と言った。






 まだまだ長い実験は続きそうだ。

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