ファーストショック新兵器開発部の音声ログ
『ザ・ファースト、相談がある』
『おやどうしました? 私、エージェントが分捕って来た敵旗艦の解析に掛かりっきりなんですけど』
『チキンレースだがやはりこの戦いには付いていけない。どこかに置いておかねば』
『聞けよ。おっほん。言っておきますけど現時点の最高機ですからね? 分かってます?』
『少し動かすだけであちこちのフレームにガタがくるぞ?』
『その前に中身がミンチになるんだよ!』
『なっていない』
『くそったれ! おっほん。まあエージェントの原始人っぷりは散々見ていたので今更驚きません。そこで私が解決策を提示しましょう』
『ほう』
『技術部は敵旗艦の解析に総がかりですが、新兵器開発部はそれが終わるまで比較的余裕があります。ですのでチキンレースを持ち込んで、新しい機体を新設計しましょう。なあに、私も謎の技術者としてテコ入れするので大丈夫ですよ』
『それは助かる。早速始めてくれ』
『ええ、ええ。チキンレースに乗ったエージェントをサポートしたらひどい目に会いましたからね。それはもうぎゃふんと言うような機体を作り上げて見せますとも』
『実に楽しみだ』
◆
◆
◆
◆
『完成しましたよエージェント。チキンレースに代わる機体が』
『早いな。随分現場に苦労を掛けただろう』
『非常にです。非常に。何より色々テコ入れした私が苦労しました。ええそれはもう』
『現場に感謝しておこう』
『おいコラッ!』
『それでどんな出来だ?』
『こ、この野郎……まあいいです。なんとチキンレースの倍のスペックだと思って下さい。きっと満足するでしょう』
『……足りなくないか?』
『はい?』
『いや、チキンレースのスペックでその倍だと、色々足りない気がするんだが』
『はっはっは。ナイスジョークですよエージェント。この宇宙最高のコンピューターであるザ・ファーストが、全宇宙最高の機体であると太鼓判を押しましょう』
『そこまで言うなら楽しみだ』
『あ、それと一応、一応言っておきますが、その機体は次世代機でも何でもないですよ。何といっても人間には扱えませんからね、単なる技術的発展には貢献してますけど、軍用機としては欠陥も欠陥です。ええそれはもう。もう一度言いますけど人間には扱えませんからね。なんでこんなものを設計しているかと自分でも思いましたよ。ええ。あれ? ちょっとエージェント聞いてます? おーい。いやちょっと待て本当にどこ行った!? おい!?』
◆
『これがその新機体か』
『はい。現時点で最高の技術を注ぎ込んだ新機体、バードです』
『名前の由来は?』
『え!? あーっとですね……そう! 鳥の様に軽やかに羽ばたく意味が込められてます!』
『なるほど』
『おい主任の奴適当言ったぞ』
『本当の由来なんて言えるかよ』
『それもそうだ』
『スペックを見せて欲しい』
『こちらになります』
『……かなり……足りないな』
『はい?』
『今あいつなんて言った?』
『足り……ない?』
『いや、何事も一度試してみてからだな。テスト出来るか?』
『は、はい。周辺宙域に特に予定はありません』
『ではさっそく試験を開始する』
◆
◆
『ぶううううううっ!?』
『なんじゃこの数値おかしいだろ!』
『なんでミンチになってないんだよ!』
『ちょっと待って壊れる! 運用の限界数値を越してるんだけど!』
≪こちら特務大尉。アグレッサー部隊か教導隊は近くに配備されているか?≫
『は、はい! 機動兵器第一教導隊が配備されています!』
≪腕は?≫
『軍で最精鋭です!』
≪動かせるか聞いて欲しい。この件は元帥肝いりだとも伝えてくれ≫
『は、はい!』
『これは大変な事になりそうだぞ……』
『もうなってるんだけど』
『ええ……』
◆
◆
◆
『ブリーフィングを行う。現在第一工廠で、噂の英雄特務大尉が新型機動兵器を試験運用しているため、我々がアグレッサーとして対戦することになった』
『おいおい。敵の旗艦を分捕った英雄だろ?』
『白兵専門の特殊隊員なんじゃなかったのか?』
『噂が飛び交い過ぎて訳が分からん』
『とにかく、新型機に穴があっては後々に影響する。我々はいつも通り戦うのだ』
◆
◆
『時間を取らせてすまない』
≪いえ、こちらこそ英雄殿のお役に立てて光栄であります≫
『早速で悪いが戦闘試験を開始する』
≪はっ!≫
◆
≪ど、どうなっている!?≫
≪捕捉しきれない!≫
≪なんでああなる!?≫
≪これが兵器!? 違うぞ! これは!≫
≪どういう理屈で当たらない!?≫
『い、一番機、二番機停止信号!』
『バードのシステムが常にエラー状態です!』
『五番機撃墜判定!』
『機体各所の計測器からデータの送信が止まりました!』
『想定負荷を超えています!』
『特務大尉! 試験を中止します!』
≪了解した≫
◆
『やはりあれでは足りないぞ』
『何が足りねえんだよ!』
『全部だ』
『全部だと!? もう人類に扱えるスペックじゃねえんだよ!』
『現に扱えている』
『この原始人がああああああああああああ!』
『具体的な要望を言っていいか?』
『言ってみろや!』
『もっと速い機体を作ってくれ』
『どこが具体的なんだよこの馬鹿野郎!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます