天才と超高性能AIによる、運命の日の特務大尉について

『マール星以降の特務は?』


≪あなたも知っているでしょうが、どれ程特務大尉が局地的に勝利しても、人類全体の敗退を防ぐことが出来ませんでした。開戦初期に、ほとんど壊滅的な打撃を受けた、人類連合の宇宙艦隊では、ガル星人の艦隊戦力を押し止めれなかったのです≫


『うん。あの頃は、あそこが落ちたとか、軍が壊滅したとか、そんな話ばっかりだった』


≪そのため特務大尉は、ガル星人司令部に対しての斬首作戦を単独で複数回決行。ガル星人の指揮系統にダメージを与え、人類連合艦隊戦力の再編成まで、時間を稼ぐことに成功しました≫


『どうやって?』


≪基地または司令船に侵入しての司令官暗殺。また、野戦司令部爆破など、様々な方法でダメージを与えたようですが、入手されたガル星人の報告によれば、つい最近まで何故このような事が起こっていたか、分かっていなかったようです≫


『えーっと、つまり?』


≪特務大尉は一度も見つかっていません≫


『わあ…』


≪そしてついにあの日を迎えます≫


『外域の戦い』


≪はい。センター外域にガル星人が急襲。艦隊戦力比20対1の絶望的な戦いが起こりましたが、人類連合は勝利しました。今次大戦にも勝利すれば、この日はなんと呼ばれるでしょうね?勝利の日?それとも運命の日?≫


『特務大尉の日とかは?』


≪冗談になっていません。はっきり言って、この日の特務大尉の行動は異常です。全く違う星で戦っていたにもかかわらず、人類連合がガル星人の艦隊を察知したよりも早く、センター外域の基地に少数の部下と共に到着しています≫


『たまたまとか?』


≪ありえません。資料によれば輸送船の中で就寝中に飛び起きて、そのまま部下を引き連れて小型船に乗り込んでいます≫ 


『やっぱり特務の第六感は凄いなあ』


≪処置無し。その後、基地に到着した特務は、現地の高速小型船を無理矢理徴収。止めようとした憲兵や基地司令を気絶させて飛び立ちました。後に分かった事ですが、隕石に紛れ込んでリヴァイアサンに到着するには、この高速小型船の速度が必要不可欠だったようです≫


『やっぱり特務には分かってたんだって!』


≪処置無し。小型船に乗り込んだ特務大尉の部隊は、ガル星人艦隊旗艦奪取作戦。俗称、リヴァイアサン分捕り作戦を決行。人類艦隊とガル星人艦隊が衝突している隙を見計らって、隕石に紛れて接舷。艦のコントロールを奪取して、ガル星人の艦隊を殲滅しました≫


『10数人で奪取したってよく聞くけど、実際のところ何人だったんだい?』


≪特務大尉の部下はちょうど10人。特務大尉を合わせると11人で、ガル星人の旗艦を制圧したことになります≫


『すごいなあ』


≪処置無し。言っておきますが、いくら高度なオートメーションが実装されているとはいえ、当時のリヴァイアサンの人員は100、200は軽く超えています。それを11名で制圧するなど、異常としか言いようがありません≫


『そう言えば部下の10人って、どんな人たちなんだい?』


≪メル星での特務大尉の民兵時代の部下や、指揮下に入った軍人達で、初期から付き従っていた兵士達です。誰も彼もが特務大尉がいない戦線であれば、英雄と持て囃されていたと思わせるような戦績ですが、現在彼等は戦線の好転に伴い、センターにて教官として従事しています。ある意味、当時で最も特務大尉に慣れていた人間達でしょう≫


『僕も…』


≪処置無し。この戦果で特務大尉は英雄として確固たる地位を築き上げ、この時に犯した数々の軍規違反も全て不問。以後も全て結果で黙らせてきました。まさにアンタッチャブルですね≫


『そして人類はリヴァイアサンを手に入れたっと』


≪はい。ガル星人が総力を挙げて作り出したリヴァイアサンは、人類にとってもそのまま至宝となりました。吸い上げたガル星人の技術もそうですが、総旗艦を奪取されたガル星人は、年単位で軍事行動が停止し、人類が態勢を整えるだけの時間も与えてくれました≫


『いやあ、その時のタコの反応を見たかったなあ』


≪ログしかありませんが、本当に混乱していたようです。ガル星人としては極めて異例なことに、責任の押し付け合いまで起こったようです≫


『なんか最近、追加で分かったこと無かったっけ?』


≪はい。どうやらリヴァイアサンは、主戦場であった星系連合に投入する前に、確実に勝利できると踏んだ人類との戦いで実戦テストを行い、その後に問題点を洗い流してから、星系連合との戦いに決着を付けるつもりだったようです≫


『それが今じゃあ』


≪はい。名前も色も特務大尉に変えられ、人類連合の総旗艦として、数々の決戦を勝利に導いてきました≫


『やっぱり特務のお陰だね!』


≪処置無し。そういえば、リヴァイアサン突入前の、特務大尉の音声ログがありますが視聴しますか?≫


『だから焦らさないでって!』


≪再生します≫


『あれが欲しい。何としても欲しい。絶対に欲しい。あれさえ奪えれば、人類は黄金よりも価値ある時間を手に入れられる。技術を手に入れられる。勝利と平穏を手に入れられるのだ。だから行こう戦友諸君、妻を守れ、子を守れ、親を守れ、隣人を守れ。そして罪なき人々を、人類を守るのだ。軍人の本懐を遂げに行こう』


『『『『『『『『『『サーイエッサー!!!!』』』』』』』』』』

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