第1話 人形はなぜ殺される

 それは異国の切支丹キリシタンが日本人を殺してしまおうと思って悪い狐を流してよこしたからコロリがはやったので、一コロリ三コロリと二遍もあった。


―中 勘助『銀の匙』



(一)


 だらだらとなだらかに続く丘の先に目指すAの店はある。 

    

「日がな一日カメラをぼーっと眺めてる店主なんて羨ましいね。いつもそうしていて飽きないか」

退屈そうな主に私は呼びかけた。

「久しぶりに顔をだしたと思ったら皮肉しか言えんのか君らは。世の中は物騒なんでね。こうして怪しい客が入ってこないか確認してるんだ」

言葉とは裏腹に緊張感が伝わってこない。あくびまでしている。

「怪しい客?」隣のBが答える。

「そう怪しい客だ。君たちみたいなね」

「友だちにむかって怪しいとは失礼ね」

Dが発奮する。

「その気持ちもわかるけどよ。最近怪しげなキリスト教会や寺なんかが建ってんじゃねーか。ニュースも誘拐や殺人で埋まってるしよ。遮蔽物代わりになるような建物も点在してるしな」

Cが唸る。首元からぶら下がるチェーンの先はタンクトップに隠れている。視線を胸元へむけるとドッグタグを自慢気にだしてくるのがお約束なので私は即座に目を逸らした。

「では試しに面白い映像を見せてやろうか」

店主はモニターを私たちへと向ける。

監視カメラからはこの正面玄関を俯瞰した映像がモノクロに描画されていた。右端に上下二段のガシャポン台が置かれてある。



 七時半 学生服の少年がコイン片手に上段のガシャポン台を廻しはじめた。映像では頭を頂点とした後ろ姿が確認できる。ケースの玉が多いためレバーの動きが緩慢だ。


 取り出し口から出てきた商品を右手でうけその場で開けている。

出てきた人形は首が切断されていた。

子どもが思わず後ろにのけぞる。確かにショッキングだ。


ここでAはボタンを操作し異なる時間帯へ場面を替える。


 十三時四十二分

 次に買いだしを終えたばかりの主婦が来た。

件のケースと同様の状況が後にうつされる。


 Aは更に映像を切り替えた。


十七時二十五分

 トレンチコート姿の痩身の老人。

こちらも内容は先の二件とまったく同じ。


「今見てもらったのは全て事件現場だ。もちろんこれ以外にもポツポツと利用客は来ているが該当する動画は以上だ」


「ちょっと待てよ」と私は問題のガシャポンを試してみたくなった。ガシャポン台の横にはゲーセンの筐体もある。


 格闘ゲーム『THE禁酒OF FIGHTERS22’』毎年発売されている人気ゲームの最新作。ナンバリングの22’は発売年の数字と一致させている憎いメーカー側の演出だ。ただ、禁酒してるのであれば普通のFIGHTERとどう違うのだろう思う。くだらない感想を抱いたまま目を隣に転ずる。



https://twitter.com/ZERORXb3/status/1634881039415021568?s=19(←クリックすると絵が見れます)


 『ほとけちゃん!04』と銘うたれたラインナップは全五種。どれもSD調で無彩色。弥勒に帝釈天、菩薩に梵天、釈迦。製造過程で問題があったのか釈迦だけ表記が釈迦ミスとなっている。

希少種でクリアカラーがそれぞれに用意されている。

私はコインを入れ一連の動作を試みた。



 カプセルを開け商材カタログをのけビニル袋を破って確認を行う。舌を出した塩化ビニルの梵天。結果はモニターとは異なり人形の首は胴体とつながっていた。


「ではどうして人形の首が切断されたのか。どうやって切断されたのか。またそれで浮かびあがる犯人は誰なのか。君はミステリ小説が趣味だったろう。この『三重密室』を解き明かしてくれよ」


 三重密室―筐体―カプセル―袋 


(ニ)


 首が切断された人形を被害者と見立てるとするならば……なるほど。三つの匣で構成されている。

密室を扱うミステリの作法に則っると犯行方法は内部か外部かに分けられる。



 外部説


①製造過程 

②搬入過程 業者が商材補充・入れ替えのタイミング



 内部説


筐体きょうたいじたいに何らかの仕掛け


内部の様子はどうなってるんだ? と思った瞬間に

痺れを切らしたCが「ああ七面倒くせえなあ。銃の解体みたいにチャチャッとできないのかよ」と貧乏ゆすりを始める。

呆れた様子でAは文具コーナーからドライバーを引き出してくる。どうぞ分解してくれたまえとのメッセージを込めて。



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