あらゆる存在はポルノである

 放課後、誰もいない美術室で、有栖川達也ありすがわ たつや宇佐木眠兎うさぎ みんとを写生していた。


 はじめはおとなしく椅子に座っていたが、そのうち退屈になり、窓から差し込む西日がキラキラしてきれいだったから、人差し指を反らせて三拍子のリズムを刻みはじめた。


「ずんたったー、ずんたったー」


「動くな、宇佐木」


「だってえ、暇なんだもーん」


「これも芸術のためだ。がまんしろ」


「ぷっ、ゲイジュツだってさ。ゲイジュツなんて顔じゃないでしょ、有栖川は?」


「うるさい、黙ってろ」


「ねえ、有栖川」


「だから動くなって」


「すべての存在は本質的に、見られることを欲しているんだってさ。アウグスティヌスの考えたことさ。だからね、あらゆる存在はポルノであるといえるんだよ?」


「くだらねえ。ポルノグラフィティは好きだが、お前の言うことはくだらねえ」


「ふん、つまらないやつ。死んじゃえ」


「うるさい。そして動くな」


「僕をそのキャンバスに封印して、ポルノにする気なんでしょ?」


「はあ?」


「ああ、僕は有栖川、君の中で永遠の存在になるんだ」


「少し黙ってろ」


「死ね、死ね」


「ああ、もう……」


「ねえ、有栖川。僕がどうして、こんなに退屈なのにおとなしくしてるんだと思う?」


「おとなしくしてないだろ」


「有栖川に見られてるからだよ」


「はあ?」


「だから僕は、この世の終わりまでここにいるつもりさ。君が望むならね、有栖川?」


「……くだらねえ。やめだ、やめ。終了。もう動いていいぞ」


「なーんだ、つまんないの」


「帰るぞ」


「ねえ、見せてよ、君の『作品』」


「お前が言うと、皮肉にしか聞こえんな」


「ねえねえ、見せて見せてえ」


「だーめ」


「ちぇ、つまんないやつ。死ね」


「言ってろよ。さ、行くぞ」


「くだらないのは君のほうだよね、有栖川?」


「……」


 封印されたことに満足した宇佐木は、三拍子でターンしながら、有栖川のあとを追った。

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