血祭り

 夜、校内でささやかなパーティーが開かれることになった。もちろん、夜間の立ち入りは禁止されている。人目を忍んでの秘密の夜会だ。

 メンバーは六人。生贄は一人。

 電灯はつけず、蝋燭をともす。机と椅子は、教室の後方に片づけてしまい、教卓もどけた。お祭り騒ぎには十分な広さ。

 さっそく六人で、生贄を殴る。ゴールは決めていない。とりあえず殴る。火に照らされて、影が揺れる。歯が折れたというので、いったん休憩。折れた歯で黒板をひっかいてみると、嫌な音がした。うるせえ、うるせえ、とやんやの大ブーイング。

 パーティー再開。今度は道具を使用。レンチで殴る。拳とあまり様変わりしないので飽きる。刃物登場。勢いあまって、削いでしまう。生贄は黙りこむ。死んだらしい。

 さて、六人は困り顔。殺しは当初の演目ではなかった。一晩なぶるだけの、軽めの座興。命を落とすのは予定外。どうしたものかと、死体を囲んで議論百出。

 埋めようか、と一人が言った。

 燃やそうか、と一人が言った。

 沈めよう、と一人が言った。

 放っておこう、と一人が言った。

 警察に行こう、と一人が言った。

 逃げようぜ、と一人が言った。

 六人の意見は出揃った。そのとき、どこからともなく第七の意見。

 食ってしまおう。

 だれだ、だれだ、いまのはだれだ。

 六人は慌てて犯人探し。俺じゃない、俺でもない、じゃあだれだ、だれが食うなんて言ったんだ?

 俺だよ。

 身体を削がれた生贄が、むっくり起き上がって、にっこり笑った。歯が欠けていて、愛敬たっぷり。眼が欠けていて、眼窩はうつろ。

 食ってくれよ、食ってくれよ。殺したのなら、食ってくれよ。

 なんだてめえ、生きてるじゃねえか。

 生きてないよ、生きてないよ。死んでるんだよ、死んだんだよ。食ってくれよ、食ってくれよ。

 食べて食べてとせがむ生贄。嫌だ嫌だと拒む六人。

 殺すのなら、相手を取り込む覚悟くらいしてろよ。俺は死んだんだ、死んだんだ。おまえらに殺されたんだ、殺されたんだ。だったら食えよ、俺の肉を食えよ。俺をおまえらの血肉にしてくれよ。

 六人、ふたたび武器をかまえる。レンチ、バット、包丁、ナイフ、金槌、ノコギリ。よってたかって死体をめったうち。生贄はずっと高笑い。死んでいるくせに、爆笑につぐ爆笑。

 バーカ、バーカ、俺はもう死んでるんだよ。おまえらに殺されたんだ、おまえらが殺したんだ。死んだやつを殺せるもんかよ。だから食えよ、せめて食えよ。おまえらいつも肉食ってんだろ? 俺も食ってる。俺は今日合挽き肉のハンバーグと唐揚げを食べた。そんな俺を食えば、牛も豚も鳥も食ったようなもんだろ? 欲張りセットだ。食物連鎖のトップランナーだ。だから食えよ、食ってくれよ。

 不死身の死者に、六人はうんざり。蝋燭の火に、死者の影は揺れる。六人のなかに、ベジタリアンは皆無。そしてみんな、腹ペコだった。


 翌朝、教室に死体が六つ。みんな、食いすぎで胃が破裂していた。七人目の死体は見つからなかった。

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