ようこそ、クズスキル持ちの楽園へ! ~役立たずと言われたスキル【下剋上】は、弱いスキルほど超強化するチートスキルでした~

アトハ

1. エイル、追放される

「エイル、我がパーティーにクズスキル持ちは不要だ。

 よって貴様を、このパーティーから追放する!」


 森の中にあるダンジョン手前の休憩スペースにて。

 パーティーメンバーの武器の手入れをしていた俺は、突如リーダーに呼び出されそんな言葉を突きつけられた。



(ついに、この時が来てしまったか)


 今日のダンジョン攻略でも、たいした活躍はできず。

 俺は素材を回収しながら、パーティーメンバーの後ろを付いていくだけたった。


「たしかに俺のスキルじゃ、このパーティーには力不足かもしれない。

 それでも俺なりに、出来ることをやってきた。

 パーティの役に立とうと、必死に努力してきんだぞ!」


 思わず声をあげる。

 俺の名前はエイル、Sランクパーティーで支援職をやっている冒険者だ。



「はっ。雑用係なんて、いくらでも変わりがいるさ。

 そんなスキルを持ってる奴の努力なんざ、クソの役にも立たねえよ」

「必ず結果を出す。

 だからもう少しだけ置いてくれ」


 リーダーに縋るように、土下座で許しを乞う。

 情けなかった。


 虫けらでも見るような視線でこちらを見るのは、俺の所属するパーティーのリーダーのハルトだ。

 ハルトは俺の頭を踏みつけながら、底意地の悪い笑みを浮かべる。

 その隣には、俺の元・恋人のアイリーンがしだれかかるように寄り添っていた。



「アイリーンの幼なじみだというから、これまで面倒をみてやったが、もう我慢の限界だ。

 足を引っ張るだけのクズは、我がパーティーには不要なんだよ!」

「ええ。このようなクズは、偉大なるハルト様のパーティーにはふさわしくありません」


 「一緒に夢を追いかけよう」と。

 「冒険者になろう」と照れくさそうに声をかけてくれた優しいアイリーンは、そこにはいなかった。

 必死に許しを乞う俺を、ハルトと一緒になってあざ笑っている。


 俺と共に冒険者になったアイリーンは、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのAランク冒険者。

 いつまでもEランクでくすぶっている俺とは大違いだ。

 所持しているユニークスキルは、EXスキルにカテゴライズされる【簒奪者】というもの。

 一定範囲内の魔力を徴収してパーティーメンバーに還元するという、化け物のような能力だ。


 この世界は、生まれ持ったスキルで運命が決まる。

 恵まれたスキルを持つものは、冒険者としても他の職業でも成功が約束されるのだ。

 逆に使えないスキルを持って生まれてしまったら、クズスキル持ちと一生蔑まれて生きることになる。



「優れたスキルを持っていても、そこのクズと一緒では、到底その真価を発揮することはできまい。

 アイリーン、これまで大変だったな」

「思い出したくもない日々です。

 これからはハルト様のために、喜んでこの力を使わせてもらいます」


「ありがとう。

 アイリーンのことは、これからも頼りにしているよ?」


 弱小パーティーでありながらも、アイリーンと2人で駆けた日々は、俺にとっては輝かしい日々だった。

 成果は出せずとも、明日に夢を見て毎日を必死に生きた。

 そんな日々を――彼女は『思い出したくもない日々』と言い切ったのだ。



「ちくしょう。

 どうして俺に与えられたのは、こんなスキルなんだ」


 自分のスキルが死ぬほど嫌いだった。

 どこにいっても役立たずの烙印を押されてしまうのだ、当然だった。


 俺が持つスキル【下克上】は、対象の持つスキルを強化するというものだ。

 支援職向けのスキルで、冒険者の力を引き出す優秀なものであるはずだ。

 その効果量さえまともなら。



「「「あってもなくても変わらない」」」


 俺のスキルの効果を受けた者は、口を揃えてそう言った。

 Sランクパーティーの中で、俺のスキルはどうしても見劣りした。



 【剣聖】という選ばれたスキルを持つハルトと、【簒奪者】を持つアイリーン。 

 さらには【大賢者の加護】を持つ大魔導士と、【鉄壁の守護】を持つ守護騎士。

 それは名を知らぬ者はいない「最強」の名を欲しいままにするパーティーであった。

 それなのに俺が持つスキルは、対象のスキルを雀の涙ほど強化するだけ。

 とても彼らの役には立てる物ではない。


 ステータスも突出しているわけではなく、戦闘で直接活躍することはできない。

 だから俺は、メンバーの足を引っ張らないように、裏方の仕事に回った。


 荷物持ちは当然のこと。

 依頼を受けたらモンスターの情報を集め、攻略に適したアイテムを用意した。

 モンスターの弱点を調べ、メンバーに共有した。

 時には依頼人との交渉役まで請け負った。

 どのような雑用でも、それこそ戦闘以外のことは何でもやった。


 夢にまで見た冒険者だ。

 クズスキル持ちと蔑まれても、努力次第では冒険者として役に立てるのだと証明したかった。


 ――それなのに


「早く出ていけ!」



 そんな努力をあざ笑うように。

 ハルトは俺を蹴り飛ばした。


(ああ、やっぱり生まれ持ったスキルは覆しようがないのか)


 絶望的な思いで空を仰ぐ。



「聞こえなかったのか、出ていけと言っているんだ!」


 なかなか動き出さない俺に、業を煮やしたのだろう。

 ハルトは剣を抜くと、脅すように俺に向かって得意のスキルを構え――



「嘘だろ!?」


 そのまま俺に向けて放った。

 辛うじてかわした剣聖の一撃は、俺の横を通り抜け樹々を易々と切り倒す。


 ドラゴンの鱗すら貫く光速の一撃。

 誰しもが恐れる剣聖のスキル。

 間違っても人に向けて良いものではない。



「クズスキル持ちは寄生虫だ。

 何もできないくせに付きまとってして、甘い蜜を吸う。

 見ているだけでイライラするんだよな……」


 ハルトは俺に剣を向け、そんなことを言った。

 パーティーメンバーも止めようとはしない。

 それどころか、面白い見せ物でも見るようにはやし立てる。

 アイリーンすらもハルトに味方しているのが、ただただショックだった。 



(――殺されるっ)


 それは本能的な恐怖。

 奴らにとって、俺は本当に虫けらで寄生虫なのだ。



「ふざけるな!」


 そう思っても、力のない俺に出来ることは何もない。

 俺は背中を向けて、一目散に駆けだした。


 木々の間を走り抜ける。

 俺だってこんなスキルを持って、生まれたくはなかった。

 冒険者として華々しく活躍したかった。



 そんな願いが引き合わせたのだろうか――?



 俺が出会ったのは同じく生まれ持ったスキルを理由に、パーティー内で散々虐められていた少女。

 その出会いが、俺の運命を大きく変えることとなる。

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