魔性の女(彼のタスク) ※刺激描写あり

春嵐

01 魔性の女

 めちゃくちゃな、女だった。


 初めて見たのが、異世界ファンタジー系の雑誌の交流会。各々が出版している雑誌を持ってきて、読んだり感想を話したりする。


 異世界ファンタジーにまったく興味はなかったが、捜査の関係上仕方なく参加していた。


「あ、刑事さん」


 被害者夫妻の、夫のほう。


「どうも。その後はいかがですか?」


「どうもこうもないですよ。見てくださいあれを」


 放火魔の女と夫妻の妻のほうが、肩を組んでみんなと話し合っている。たのしそうだ。


「ずっとあんな感じです。男のぼくは、かやの外です」


「たいへんですね」


 本当に、たいへんそうだ。無理もない。家を焼かれたというのに。


「刑事さんは、捜査に?」


「ええ」


 この夫妻の夫のほうは、かなり信用できる。現実に生き、堅実で誠実。妻のほうは、なんというか、だめなほうだけど。


「ぼくにできることがあったら言ってください。どうせひまなので」


「では遠慮なく」


 懐から手帳を出して、その手帳に挟んでいた写真を見せる。


「この女を探しています。罪状は国家転覆」


「あ、このひとなら、あそこに」


 言われた方向。


 女性がふたり。ひとりは魔法少女か何かのコスプレをしていて、もうひとりはスーツに眼鏡。


「あのスーツのほうだとおもいます」


「ありがとうございます。お礼はいつも通り?」


「はい。パトカーを一台、タクシー代わりに」


「心中お察しします」


「いえ。あんなのを好きになった自分の責任なので」


 夫妻の夫。つかれた顔。しかし、満足そうだった。これはこれで、夫婦のあるべき形なのかもしれない。


 魔法少女とスーツ眼鏡のところに、歩み寄る。


 一応、自分の服の後ろに隠したホルスターを確認する。大丈夫。いつでも抜けるし、いつでも撃てる。


「失礼。警察だ。そこを動くな」


「失礼。魔法少女だ。撃つな」


 魔法少女。異常に反応が早い。


「ありがとう、レベッカさん。このかたは、わたしの夫になるかたなの」


 これだ。これがめちゃくちゃだった。


「あらそう。じゃ、また話聞かせてよ。わたしはゲームの挙動確認してくる」


「無敵バグの?」


「無敵バグがバグって延々と部屋で致してたら、ちょっと考えないといけないからねえ」


 魔法少女。こちらを向いて。


「いい女に目をつけたな。こいつは上物だ。がんばって乗りこなしな。あばよっ」


 それだけ言って、去っていく。というか、消えた。なんだあれは。


「わたしに用があるんですよね?」


「用も何も、国家を転覆させようとしている人間は捕まえなければならない」


「あら。わたしは国家なんてどうでもよいのだけど」


「ひとり、人間が消えた。俺の優秀な部下だ。何処にやった?」


「この前の異世界先生、かしら」


「異世界先生?」


「そのお方、小説が好きだったでしょ」


 部下。たしかに、小説が好きだった。優秀な女性警官で、肌身離さず本を持っていた。


「本の世界に行きたいと言っていらしたので、本の世界に飛ばしました」


 女。笑顔。ぞくっとするような、美しさ。


「少し待ってくださいね。すぐ見れますよ」


 女が、手元の雑誌を開く。


 一応背中のホルスターに手を回し、いつでも抜けるようにした。


「ほら。ここです。あら、まあ」


 雑誌の、見開き一頁。並べられた文字。


「おい。ふざけるなよ」


 異世界先生と呼ばれた女性キャラクターが、主人公と組んで、俺を名指しで、いかがわしい行為をしている。そういう意味の文字が、並んでいた。


「お盛んですね」


 女。笑っている。


「何がしたい。女性警官を、どこへ連れ去った」


「この本の中へ」


「ふざけるな」


「その女性警官のかたが、本の世界が良いと言ったので、本のなかへ。いつでも出入りできますよ。ほら。こんなふうに」

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