点と点は線でつながらない

加賀美まち

第2話 明

『アカネ喫茶』ではいつもメロンクリームソーダを頼む。

ゴブレットみたいな口の広めの丸みを帯びたグラス。いっぱいの氷と並々と注がれたメロンソーダの上にはバニラアイスがコロンっと乗っていて真ん中に真っ赤なさくらんぼが飾られている。

刺さったストローをクルクルと回すと氷がカランコロンと涼しげな音をたてるのが私は好き。あんまり上品じゃないけど。


自分から誘ったのになかなか話せなくて、やっとのことで口を開く。


「ちょっと気になる人が出来たんだよね」


目の前にいる祥子しょうこにそう打ち明けた。

祥子は私が大学に入ってから初めて出来た友だちで、セミロングの黒髪でスレンダーな体型をしていて眼鏡をかけている。私より少し背が高くて人としてもしっかりしてるから私は相談事や悩みとなると祥子に話してしまう。


「今度はどんな人なの」

祥子の顔は笑っているが目の奥が笑っていない。


「大丈夫!今度こそ良い人なはず!!バイト先の後輩なんだけど…」

「あそこの居酒屋の?」

「そうそう!でも今回はめっちゃ良いと思うんだよね。なんていうか、仕事はしっかりするけど無駄口叩かずっていうか寡黙かもくな感じでさ。バイト終わってもすぐ帰っちゃうんだよね。ほら?今までのタイプと違うでしょ!」


と、つい熱がこもって捲し立てるように話してしまった。でも仕方ない。なにせ男を見る目がない私がちゃんと良さそうな人を好きになり始めているのだから。


祥子は勢いに圧倒されたのか少し笑って、

「まあたしかに。で何、明ちゃんはどこが良いなって思ったのその…」

「ああ、小鳥遊たかなしくん。なんだろう…なんか今まであんまり会ったことないタイプなんだよね。どちらかといえば、友だちでもバイト先でもみんなでワイワイするのが好きみたいな人が多いし私もそうだし。でもなんか、飲み会も誘われたらとか話振られたら行くし喋るけど基本1人でも大丈夫そうだから気になる…みたいな」

「自分とは違うから惹かれるってやつだ」

「そうかも」


そう言って私はメロンクリームソーダのアイスを食べる。少し溶け始めたアイスは舌の上ですぐに無くなってしまう。

祥子もホットコーヒーを飲み、ふっと息を吐くと私を見て微笑ほほえみ、

「まあまずはその小鳥遊くんと仲良くなるところからね。明ちゃん、間違っても前みたいに好きだからってよく知らないまますぐ告白するのはやめなさいよ。大体それで痛い目見てるんだから」と言った。

「分かってる、ちゃんと距離詰めてからね!」

「また進展あったら聞かせて。あ、そういえばさっき出た課題、結構面倒くさいよね」

「うわ、思い出さないようにしてたのに」なんて新しく出た課題の話とか最近のサークルの話をしていると、時間が経つのは早くてふと腕時計を見るともう次の授業の時間が迫っていた。祥子は次は入ってないらしくまだいるというので、私はドリンク代を渡して先に店を出た。


祥子の感触も悪くなさそうだし、小鳥遊くんと距離詰めるぞと夜のバイトまで待ちきれない気持ちでソワソワしながら大学へ向かった。

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