第95話 玄武戦

「貴様ら、もう許さないよ! 粉々にして海にばらまいてやる!」


そう言うと、玄武は手足をひっこめて甲羅に入る。そして、ひっこめた部分から水を噴出して推力とし、突進してきた。


「ただの突進では無いか……ファイア・ランス」


真正面から馬鹿正直に飛んでくる甲羅に、火魔法を唱える。しかし、亀なら火に弱いだろうという目論見は外れ、甲羅は魔法を弾いた。


「まさか……魔法耐性を持っているのか? それならば、ストーン・ニードル」


海岸の石や砂を固めてとがらせ、物理的にぶつけることにした。しかし、甲羅は固く、石で出来た針ですらあっさりと粉々にして見せた。


「地上なら……サンダー・ランス!」


パワーアップしたライカの魔法は、以前とは比べ物にならないほどの威力を誇った。急に発生した黒い雨雲から極太の雷が生まれ、玄武を直撃する。その余波でまわりの地面がひびわれるほどだった。何より、うるさい。


「くっ……やってくれるね……」


甲羅の中はよほど音が響いたのか、雷のダメージよりも音のダメージの方がでかそうだ。ヤケになったのか、玄武はめちゃくちゃに水魔法を唱えだした。大した威力もなさそうで、エア・シールドでも防げている。


「準備は整った。ダイダル・ウェーブ!」


すると、海岸から水が引いていき、巨大な津波が発生した。


「何あれ……どこにも逃げ場がないじゃない!」


ミレが呆然と数百メートルにも及ぶ高さの津波を見ている。エンカは何とか守ろうとシールドを張り、ライカは回避できないものかと空を飛んでいこうとしているが……どれも間に合いそうにない。


「ノロイ!」

「ちっ、仕方ねぇ!」


ノロイは我の頭に手を乗せると、一時的に封印を弱めた。ぎりぎり体を壊さない程度だ。我はその莫大な魔力を凝縮させる。


「メタスタシス・スペース!」

「何をしてももう遅いよ! 水に押しつぶされてしまえ!」


玄武自身も魔法の範囲内だが、あの甲羅に入ってしまえば大丈夫らしい。そして、津波がぶつかる瞬間、我の魔法が発動する。


「…………あれ? 水が……こない?」


恐る恐る目を開けるミレは、何も無かった事に驚く。それは玄武も同じだった。


「バカな! 何をしたんだい? あれは僕ですら発動したらもう止められないのに!」

「ふん、環境破壊も大概にしろ。お前の魔法はそのまま城へ返してやった」


そう、我は津波をそのまま水中へ転移させたのだ。今頃水中は大変な事になっているだろうが、うらむなら玄武を恨むがいい。そして、呆然としている玄武を捕まえる。


「ロック」


簡単な魔法ではあるが、我の今の魔力であれば玄武であっても解くことはできまい。


「エリザ」

「はいはい、もうちょっとまっててね」


そう言ってエリザは魔方陣を描く。そこへ固まっている玄武を下ろし、封印した。


「ぷはーっ! し、しぬかとおもった」


水面から顔を出したのは。アクアだった。やはり死んでいなかったか。


「無事だったようだな」

「無事じゃないわよ! だけど、急に発生した強烈な水の流れで、渦が解除されて助かったわ。それに、城も壊れていい気味ね!」


いくら強烈な水流と言えど、水の中ではその威力は地上ほどでは無いだろう。さて、封印もしたことだし、魔王の元へと向かうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る