第94話 狂戦士
「これは分が悪いかしら」
「ったく、切りが無いね」
ミレとエンカのぼやきにも関係なく、周りの兵士たちの攻撃は激しさを増した。先ほど倒された兵士も復活しているようだ。
「……おかしいな」
「ノロイもそう思うか?」
回復魔法を唱えている様子はないのに、戦線に復帰するのが早すぎる。まだ玄武が戦闘に参加していないというのに、我以外は劣勢だ。我は適当に兵士をあしらいながら、なぜ兵士の復活が早いのか考察する。
兵士の復活にはパターンがあった。やられたものは、他の兵士に回収され、乙姫の方へ連れられて行く。そこでは、乙姫が踊りを踊っていて、それにつられるように兵士たちが目を覚ます。そして、痛みだけが消えて戦線に復活していた。
「ブラックか!?」
よくよく見ると、兵士たちの傷は癒えていない。やられた痛みを我慢……もしくは痛覚を鈍くされて戦わされているようだ。実際、水中なので気が付きにくいが、泣きそうな顔をしている兵士も見当たる。
「もうしばらくすれば何とかなりそうだが、時間がもったいない。我が物理的に止めてやろう。スパイク・グラス・フィールド!」
我達の周りにトゲのように鋭い草が生える。そのトゲは意思を持っているかのように近くにいる兵士たちを絡めとった。兵士たちを抜けないとげが包み込む。こうなってはいくら乙姫が踊って狂戦士と化そうとも、動けまい。
「そろそろ僕の出番かな? 僕の属性は当然、水だ。水の中で僕に勝てる奴なんていないよ。アシッド・ボルテックス」
玄武から発せられた渦巻きは、近くに居たアクアを呑み込む。人魚とはいえ、その渦からは逃れられないようだ。
「きゃああぁぁ……あ……ぁ」
アクアにしては珍しく悲鳴を上げる。見ると、アクアの肌は溶け、見るも無残な姿になっている。さらにひどいことに、再生よりも溶ける速度の方が早そうで、普通の人間なら一瞬で溶けて終わりそうだが、アクアは再生速度の分だけ徐々に溶かされている感じだ。
「一旦、地上へ逃げるぞ!」
「わかった。アイス・フィールド」
ノロイの言葉に従い、空気の周りを凍らせる。すると、氷の浮力によって高速で水面に近づく事が出来る。
「逃がさないよ!」
それを玄武が阻止しようと、氷を割ろうとした。すると珍しくエリザが動いた。氷に小さな穴をあけると、玄武にとりついた。
「ちょっとだけ手伝ってあげるね。あーん、がぶっっと」
「ぎゃあっ、な、何をするんだ! やめて、噛まないで!」
エリザは玄武のヒレに噛みつくと、がぶがぶとしている。姿が小さいため、大きなダメージは無いようだが、固さに自信があった玄武は痛みに弱いようだ。
その隙に、地上へ戻る事が出来た。……アクア以外は。まあ、あやつは放っておいても死にはすまい。我はとりあえずドライの魔法で皆の服を乾かすと、水辺から離れた。
「よくも……よくもやってくれたね……」
水辺からべたり、べたりと両手(ヒレ)を打ち付け、玄武が上がってくる。そのヒレには、小さな噛み傷が無数にあった。
「思ったよりスッポンっておいしくないのね」
「僕はスッポンじゃない!」
もぐもぐしていたエリザは、「なーんだ、ぺっ」とあっさりと口の中のヒレを吐き出した。それに対して、玄武は切れたのか、不利な陸にもかかわらず、襲い掛かってきた。
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