第89話 ケンタウロスの村

我はその場で上空へ飛行し、遠視の魔法で辺りを見る。遠視の魔法は障害物が無ければ数キロ先でも見えるのだ。


「おっ、小屋の様なものが十数件建っておるな。村人は見えぬが、行ってみるか」


我は下に降りると、見たことを伝える。特に反対する者も居なかったので、その村へ向かう事になった


村に着くと、やはり村人は見当たらない。近くの家を覗いてみると、おかしな作りで床が土だった。これでは、外に居るのと変わらぬのではないのか? そう思っていたら、何かが近づいてくる足音がした。それも、複数。


「何か来るぞ」


我達は一塊になり、何かの襲来に備える。平野の方から土煙が近づいてくる。


「ようこそいらっしゃいました!」


土煙が晴れ、そこに見えたのは上半身が人で、下半身が馬のケンタウロスだった。オスは皮の鎧の様なものを上半身に着け、メスは皮の鎧の様なものを下半身にもつけている


「すいません、ちょっと村人総出で狩に行っておりまして留守にしておりました。旅人なんて久しぶりですな。歓迎の宴を開きますので、どうか楽しんでいってくだされ」


少し白髪の入ったオスのケンタウロスから滞在を勧められる。一番年上のこやつが村長なのだろう。我達はどうせ滞在するつもりだったから快諾する。


夜まで旅の話を広場で聞かせ、夕方に近くなると広場で焚火がおこされ、宴の準備がなされる。我達は一旦あてがわれた小屋に向かった。我達が滞在する小屋には、一応ワラの様なものがしいてあったが、正直予想より扱いが悪い。いや、ケンタウロスにとってはこれが歓迎の印なのかもしれないが……


さすがにワラで寝るのは野宿と大して変わらないので、せめてハンモックを作って寝ることにした。料理が出来る間の暇つぶしには丁度良かったが、夕食がワラとかはさすがに無いよな……?


不安は杞憂に終わり、料理は普通に人間の食べ物であった。肉や野菜や果物が、きちんと皿によそわれており、さらに酒まであった。酒を飲むのは主にノロイで、ミレも付き合い程度に飲む程度だが。


「あんたらはジュースの方がいいか? 果実を絞った新鮮なやつだぞ」


ライカとアクアは喜んでジュースを飲む。我はその果実と酒を混ぜて飲む。うむ、なかなか合うではないか。


「それで、なぜこのような場所を旅しておられるので? この先には魔王城くらいしかありませぬぞ。それに、近くには白虎が住んでいると言われております。幸い、私たちは遭遇したことはありませんが」


メスのケンタウロスにお酌されつつ、ノロイが答える。


「その魔王城へ向かっているところだ。白虎はすでに封印したから大丈夫だぞ」


「なん……ですと?」


村長は、持っていた木のコップを地面に落としてしまった。そして、叫ぶ。


「て、敵襲じゃー! 槍と弓を持て!」


さっきまでの宴会ムードはあっさりと壊れ、若いケンタウロスが弓や槍を構えてこちらを囲むのであった。

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