第86話 土の白虎

草原を探索していたところ、真っ白な道着の様なものを着た老人がこちらに歩いてくるのが見えた。


「ほほっ、なんぞ強い魔力を感じてきてみれば、小娘ばかりではないか」


「あんた誰よ?」


「ワシか? ワシは白虎じゃよ」


「どう見ても虎に見えなんだけど?」


アクアと老人が会話をしている間、我は白虎の魔力を探る。この感じなら、タマモを封印していた魔物よりもかなり強いな。


「年月を経て人化の術を覚えておるだけじゃ。お主こそ、それが本来の姿ではあるまい?」


白虎はアクアの本来の姿が見えているのか、アクアが人でないことを看破したようだ。


「それで、何をしに来たのじゃ? ワシが言うのもなんじゃが、ここには何も無いぞ? ああ、もう少し先に行けば魔王を名乗る者がおったやもしれんな」


「魔王にも用はあるが、お前にも用がある。封印の礎になってもいたい」


「なんと、ワシに永劫の牢獄へ囚われろと申すのか。ワシも長く生きて生に未練なぞないつもりだが、はい、そうですかと言う訳にも行かぬぞ。そうじゃの、ワシに勝てたら考えてやってもよいぞ」


白虎はそう言うなり、大きな虎の姿になった。ただ、最初に思った通り緑の草原ではものすごく目立つ。


「あんたを倒せばいいのね。私の槍をくらいなさい!」


アクアは先制攻撃とばかりに槍を投げるが、あっさりと避けられる。


「せっかく青々としている草原ではあるが、ワシの力となれ」


白虎が語り掛けるように呪文を唱えると、青々としていた草原の草が、枯れ始める。その生命力が白虎に吸収されたようだ。見える限り、草原は茶色の草と地面だけの寂しい風景になった。


「それがどうしたの? えい!」


アクアが懲りずに槍を突く。しかし、巨体にもかかわらず、やはりアクアの槍は当たらない。


「鬱陶しいのう。ワシは大地を司る神獣じゃぞ、その程度の力でよくワシに勝つつもりであったな?」


白虎は大きな前足でアクアを押さえつける。ただそれだけで地面が陥没し、1mほどアクアの頭が地面に埋まる。平らに潰されていたアクアの頭は、すぐに再生した。


「ふむ、人間では無いとは思っていたが、まさか再生するとはのう」


「ふん、私は人魚よ! 死なないわ!」


「ほほっ、死なぬだけでは強さとは言えぬよ」


白虎は前足で地面を叩きつけると、アクアの四方に2m程の土壁が隆起する。そして、そのまま上も閉じられる。


「ちょっと、出しなさいよ!」


土の壁越しなので、ほとんど声は聞こえない。ただ、何かが潰れる音もしているので内部の空間も土で埋まってきているようだ。


「100年ほどたてば出してやろうかのう? それまで、土の中で過ごすがよい」


アクアは、恐らく死んでは居ないだろうが、自力で出られないようだ。せっかくの槍も、振るえなければ意味が無い。


「さて、これを見てお主たちもやるのかの?」


ミレはそれを見てあとずさり、ライカも怖気づいたようだ。ノロイは戦う気は無さそうで、エリザも手を出すつもりは無いように見える。


「あたいがやる。親父を救うためだ。」


ただでさえ力の落ちているエンカが前に出る。自分の親を救うために、見ているだけではダメだと感じたのだろう。死なない程度に見守るとするか。



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