第85話 西の白虎

「それじゃあ、白虎を倒しに西に向かうわよ!」


「いや、倒すんじゃ無くて捕まえるんだろ……」


アクアはさっそくずれたことを言うので突っ込みを入れる。ここは白虎が西に居ることを覚えていたのを褒めるべきだったのか?


「そうね。私も久しぶりにシャバの空気を吸えてうれしいわ」


エリザが牢屋から出されたばかりの犯罪者の様な事を言う。まあ、ダンジョンが牢屋以上かと言われれば、大して変わらぬかもしれぬが。


「あ、ちょっと待って、冒険者の相手をするわ。最初に戦わせるのは、トロルにしましょう」


「おい、無意味に冒険者を殺すのは止めろ!」


「それは言いがかりよ。私は楽しみを優先するから、殺したりはしないわよ。ちょっと逃げ場を塞いでほどほど遊ぶだけよ」


ノロイの突っ込みにエリザが答えるが、答えになっているのか? まあ、冒険者から何かを得る必要は無いが、エリザの暇つぶしには使われるのだろう。


歩きながら、エリザが時々「いけ、そこよ!」とか「あちゃー、そっちは行き止まりなのに」とか言っているが、はたからみれば独り言にしか見えない。


西へは普通に歩けば1週間くらいかかりそうな距離がある。タフネス・ヒールで無理やり行軍速度を上げたとしても、2日程度短くなるくらいか? 飛んでいくには、飛べない奴が多すぎて……と思ったが、我がノロイを、ライカがミレを、エンカがアクアを運べば行けそうか? エリザは自力で飛べるだろう、きっと。飛べなかったら我が一緒に運ぶか。小さいから邪魔にはならぬだろうし……。


「提案があるのだが、飛んでいくのはどうだ? それぞれ、一人が一人を運ぶ感じでどうだ?」


「ほぅ、悪くないな。それくらいなら仮に鳥型の魔物にあっても何とかなりそうだ」


それぞれ対象者を連れて飛行してみる。思った通り、エリザは飛べたので問題ない。ちょっとミレが重いのか、ライカが危ういか? アクアは仮に落っことしても大丈夫だろう。


「ちょっと、揺れて怖いんだけど」


「ごめん、私の飛行じゃこれが限界」


エンカの力を得て、前よりは出力があがったらしいが、それと飛行がうまくなるのとは別だ。念のためきつくロープでライカとミレを結んでおくか。


飛行したとはいえ、1週間かかる道のりが2,3日になるだけだ。移動時間で一番かかるのが、野営の準備と睡眠だからな。途中に村や街があれば野営の必要は無くなるが、結局は食事に時間をとられそうだ……。


そういう訳で、最短距離を飛ぶ。運よく村があれば、そこで食料や調味料を補充する程度だ。食事に関しては、森で手に入れた果実や、きのこ、獣の肉などがあるからそこまで気にする必要は無い。


飛行していることもあり、野盗や障害物、峠などに時間をとられることはなく、白虎の住む場所まで行く事が出来た。


白虎の住む場所は、緑あふれる草原だった。こんな白が目立つ場所に本当に白虎が居るのか?

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