第67話 虫使いのチック
「君たちは、調査に来た冒険者かい?」
騒ぎを聞きつけたのか、一人の男が近寄ってきた。全身緑色の服で、口に草の茎でも咥えているのが似合いそうな感じの男だ。
「そっちはもしかして先に調査に行ったって言うDランクパーティ?」
ミレが尋ねると男はコクリと頷いた。
「僕はチックって言うんだけど、仲間とはぐれてしまってね。僕はむやみに動き回らずに救助を待っていたんだけど、君たちは救助隊かい?」
「いや、普通に我達も調査しに来たのだが」
「そうか……だったら、一緒に調査しないかい? 僕達が得た情報をあげるから」
「調査していたの? それに、こういう場所の情報って貴重なんじゃないの? そもそも、ここ、屋上からまだ1階下りた場所の階段なんだけど」
ライカはこんな入ったばかりの所で動き回らずにどう情報を得たのかと訝しがる。
「僕には特技があってね、おいで」
チックがそう声を掛けると、小さな虫がチックの手のひらに降りる。
「珍しいな、虫使いか?」
「よく知ってるね? 僕はこれで塔自体の調査は行っていたんだ」
「それで仲間は探せなかったの?」
「残念ながら……もしかしたら、下の階に降りたのかもしれない」
「それこそ、仲間を放って勝手に行くような仲間なの?」
「それが、この塔は時間が経つと中の壁が変化するんだよ。あっ、見てごらん、丁度変わるようだよ」
チックがそう言うと、通路が一旦全て壁になり、その壁が消えると新しい通路ができていた。
「この現象がこの階だけなのかどうか分からないけれど、もしこの階の事だけなら下に降りたほうが正解なのかもしれない。あっ、壁が変化すると同時に宝箱も復活するから食料には困らないよ」
「……この性転換の食料の事か?」
「性転換? 僕はそんなことないけれど……」
ノロイの現象は特異な事だったらしい。レア食材でも引いたのだろうか?
「それで、どうする?」
チックは虫に餌をやりながら尋ねてくる。
「どうせ嫌と言ってもついて来るんだろ? だったら最初からついてこい」
「話が早くて助かるよ。じゃあ、僕が次の階の階段の場所を教えるね」
チックはそう言うと、どこからともなく虫が湧いてきて整列する。
「じゃあ、行っておいで」
チックがそう言うと虫たちは通路ごとに向かっていった。フェロモンでも出しているのか、同じ通路を通る虫は居ないようだ。
ほどなくして次の階への階段が見つかったようで、チックの指に虫が停まる。
ノロイは自分のパペットをそっと回収するとチックに次の階段の場所に連れていくように促す。
「壁が変わる前に急ごうぜ」
「大丈夫だよ、時間にばらつきはあるけど今まで最低1時間は変わったことが無いよ。平均4時間くらいだ」
チックは肩をすくめると次の階段へ案内し始めた。
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