第58話 スライム退治

とりあえず我はシヴァの拘束を解いた。仮にさっきの話が嘘で、暴れたとしてもすぐまた拘束できるだろうしな。


「シヴァ、お主の魔力は全力の何割くらいだ?」


「分からねぇ、ほとんど力が出せないことだけは確かだ」


シヴァは右手に魔力を集めて確かめるが、それがどれくらいなのか測りかねているようだ。


「記述によると、初代の呪い人形は99%の魔力を封印するらしいな」


全力の1%か。それなら同じ1%の我がシヴァに勝てる理由が分かる。


「シヴァの魔力の一部開放はできるのか?」


「俺が作った人形じゃないから封印を壊すか、逆に人形を核として封印するかの2択だ」


「封印だけはやめてくれ! いえ、やめてください!」


シヴァは再度頭を下げてお願いしてきた。


「その額の目ってなーに?」


空気の読めないアクアがシヴァのおでこにある目を指さす。


「これか? これは魔法を無詠唱にできる魔眼だ」


シヴァは自慢げに話す。正確には、本人の代わりに唱えているだけだから即座の魔法発動は無理だったはずだ。


「その目が弱点にもなっている。潰せば弱くなるぞ」


「貴様がそれを言うのか! 貴様のせいで、そうだ、貴様のせいでこんな姿になったのだ!」


「目をつぶされて負けて地上に帰ってどうどうと寝ていたお前が悪い」


「ぐぅっ、だがっ!」


「お前が悪い」


シヴァはがくりと崩れ落ちた。今更誰のせいだと言ったところで過去は変わらん。


「それで、どうするんだ?」


ノロイはキールに聞く。我達だけで勝手に話を進めていたが、封印関係はキールの管轄だ。


「封印は止めてくれ!」


シヴァはがばっと顔をあげると、再度頼み込む。


「危険は無いのか?」


「さっきの実力なら、青いオーガと大して変わらんと思うぞ」


我がそう言うと、青いオーガレベルの強さを危険と取るかどうか迷っているようだ。


「判断に困る。念のため動けないようにしてから殿様の所に連れて行きたいんだが、いいか?」


「50%で死刑?」


アクアが適当なことを言うが、それを聞いてシヴァは逃げ出そうとした。


「アイス・バインド・ダブル」


体と足に氷のツタを絡ませて動きを止める。2度も同じ手を食らうとは……。


「やめろ! 離せ!」


シヴァはじたばたするが、当然その程度で破れるわけが無いのは先ほど証明されている。


「暴れるな。暴れるとひたいの目をつぶすぞ」


我がそう脅しをかけると、観念したのか大人しくなった。


人数的に馬車に乗せられないので、他の魔物と同様に馬車につなぐ「おいっ」とか「こらっ」とか聞こえるが無視だ。


城に着くと、どろだらけになっていたので、クリーンで綺麗にする。さすがに頑丈なだけあって傷はないな。


我が担いで殿様のところまで連れて行った。


「ふむ、これが封印されていた魔物か」


「魔物じゃねぇけど、封印されていたのは俺様だ」


殿様に、いままでのなりゆきをキールが話す。


「で、どうしたらいいか分からないので連れてきました」


「ふむ。それならば最後の封印された魔物を退治してもらうのはどうだ?」


「倒したら解放してくれるのか?」


「倒せたら、な」


「だったらやるぜ!」


「じゃあ、今回俺は留守番でいいか」


ノロイのやる気のない声がした。やる気のあったところなど見たことは無いか。


「シヴァが倒せないかもしれないぞ?」


少なくとも、同等の強さを持つ魔物が封印されているはずだ。それに、キールが言った通りなら魔力量的には上の魔物になるはずだ。


「とりあえず任せる」


どっちにしろ馬車には全員が乗れないので、ノロイが留守番する事になった。


「ここが最後の封印の地か」


まるで湿地の様にどろどろしている場所だ。


「私、馬車に居るわ」


「私も」


ライカとミレは降りた瞬間に泥がつきそうなので下りたくないようだ。


「私は平気よ!」


アクアは汚れを気にしないらしい。キールは嫌々ながら、草履をぬいて裸足になった。我とシヴァは足を魔力でコーティングして泥に沈まないようにしている。


キールは沼の前にある祠から鏡を取り出すと、さっそく札をはがした。すると、巨大な水色のスライムが現れた。


「たかがスライムか、燃やして終わりだな」


そう言うと、シヴァは無詠唱でフレイム・ピラーを使い、攻撃した。しかし、スライムは沼に逃げて火を消した。


「ちっ、場所が悪いな」


スライムが、体を触手の様に伸ばして体内に取り込もうとしてきたが、キールと我とシヴァはサッと躱し、アクアだけが捕まった。


スライムの体内に捕らわれたアクアは、だんだんと服や皮膚や肉が溶かされていく。あっという間に骨とネックレスとトライデントだけになった。


「おい! 一人やられたぞ! いいのか!」


シヴァはアクアを助けなかった我達に問いかけた。消化しきれないと判断したスライムは、沼のほとりにペッとそれらを吐いた。


「大丈夫だ。見ろ。」


我がそう言うと、骨に神経が絡まり、血管が再生し、筋肉が復元していく。皮膚まで再生すると、元通りになった。


「お前、人魚だったのか」


上半身裸で、下半身が魚のアクアを見てシヴァは呟いた。


「私は不死身よ!」


アクアはトライデントとネックレスを拾うと、ネックレスを首にかけた。


「馬鹿者! 代わりの服は無いぞ」


素っ裸のアクアは、きょろきょろと辺りを見渡し、その辺の葉っぱを拾うと胸と股間にペタリとつけた。


「これでどう?」


「お前がいいならそれでいいが……」


さて、スライムの方はどうするか。スライムは、餌が再生したことを喜んでアクアをもう一度取り込もうとする。


「アイス・コールド」


我はスライムを固めてみることにした。伸ばされた触手がこおり、さらに体も段々と凍っていく。


「俺様が倒す!」


シヴァは巨大な岩を空中に浮かせると、スライムにぶつけて粉々にした。思ったよりあっさり倒せたな。


「これで目標達成だな」


我達は馬車にもどろうとすると、足元にバラバラになったスライムが集まってきた。


我はとっさに「ウィンド・フライ」を使って飛びあがって回避するが、シヴァが捕まった。


「ぐああぁ!」


シヴァの足が溶かされていく。体は人形なので、人間みたいにすぐに溶かされる事は無いが、完全に溶かされたらどうなるのだろうか?


「飛べ! シヴァ!」


シヴァは無詠唱でウィンド・フライを使うと、スライムはブチッと千切れて落ちていく。


「ミドル・ヒール」


我がシヴァを回復させると、きちんと治った。人形の仕様は我とほぼ同じようだ。


「悪いな、油断した」


完全消滅させるには、グラビディ・ボムあたりを使うしかないと思うが、今の我では魔力を溜めるのに時間がかかる。やっぱりノロイを連れてくるべきだったか?


「ちぃ、俺には無理だな」


再生しつつあるスライムを刀で斬っていたキールは、スライムにダメージが無いうえに刀が少し腐食したので離れた。


「シヴァ、アクア、時間を稼いでくれ」


「分かったわ!」


アクアは今度こそ捕まらずにトライデントをスライムに突き刺すと、スライムの体はうず状にちぎれて粉々に飛び散った。


「危ねぇ! こっちに飛ばすな!」


キールは文句を言いつつさらに離れる。シヴァは、細かくなったスライムをアイス・フリーズで固めていく。


うねうね動くスライムを見つけては凍らせて、集める。


「よし、魔力が溜まった。グラビティ・ボム」


集められたスライムは、一か所に超圧縮されると、爆散した。さすがのスライムもここまで細かくなると再生できないようだ。


「そういえば、キールからどうやって封印したのか聞いてないわ!」


「そう言えば言ってなかったな。でも、封印した時も同じように凍らせて封印しただけみたいだぞ。砕いても倒せなかったみたいだからな」


「なーんだ」


相性の問題か、結構楽だったな。とりあえず、帰る途中にアクアの服を買ってから城に戻った。


城の前で、アヤメが出迎えてくれた。


「ごくろうであった。おかげで私の封印が解けたわ!」


そう言うと、アヤメから9つの尻尾が生えてくる。


「お主の正体はキツネだったのか」

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