第50話 クラマの街

我は青いオーガの肌に左手で直接触れる。オーガの肌は生き物らしく温かい、そしてやはり固い。


「フレイム・サークル」


本来は広範囲を焼き尽くす火魔法を、極狭い範囲にとどめて高熱にする。しかし、青いオーガはこの程度では熱さも感じないのか、特に動きに変化はない。


我は、次に右手で青いオーガのまだ燃えている肌に触れる。


「アイス・サークル」


すると、急激な温度変化に、固い皮膚が耐えられなかったのか、バキッとひび割れる音がして青いオーガの皮膚の一部が砕けた。


「やった! でも、もう再生してる!」


ミレが指摘したとおり、青いオーガの皮膚は即座に自己再生しはじめたので、再生が終わる前に皮下に直接攻撃する。


「ウィンド・ドリル」


左手に風のドリルをまとわせて皮膚の内側にねじ込む。青いオーガの内臓をかき混ぜた感触を受けて手を引き抜くと、ブシャッと赤い血が傷口から溢れる。


「フレイム・ジャベリン」


我は痛みにうずくまり、顔が低くなっていた青いオーガの目に、炎の槍を突き刺す。


「ぐぎゃあああ!」


青いオーガは目を押さえて叫ぶ。


「俺にもやらせろ」


キールは刀に魔力を込めていたのか、圧縮された魔力の気配がする刀を構えていた。


我は無言で自分の首を親指でピッと掻っ切るようにジェスチャーすると、キールにも伝わったようで、青いオーガの首を後ろから斬る。青いオーガは両手で目を押さえていたため、首は無防備になっていたのだ。


キールの鞘を使って速度を上げた刀は、青いオーガの強固な皮膚ですらまるで抵抗が無かったかのように切り裂いて、振りぬかれた。


青いオーガの叫び声が止み、しばらくして首は落ち、首の付け根から血が噴き出した。ここはダンジョンでは無いので、死体は消えないようだ。


「これを討伐の印として、殿様に献上するか。お前たちも来い」


キールは青いオーガの首だけを掴む。胴体は重いので、いまは持って行かないようだ。


我達は別に報酬目当てでは無いが、どうせクラマへは行くからついていくことになった。


谷を抜けてしばらく歩くと、街に着いた。入り口から見える家屋は平屋の長屋が多く、出歩く人々に活気があった。


「ここは、鍛冶職人の腕がいいことでも有名よ」


ミレがそう言うと、ライカが反応した。


「じゃあ、ドラゴンの素材を加工してもらおうっと!」


そう言ってライカは鍛冶屋へ突っ込んでいった。ドラゴンの爪は固すぎて普通の鍛冶屋では歯が立たなかったらしい。


「あー、そこのオヤジは腕は確かだが、値段もバカ高いぞ」


キールはライカの背中にそう声をかけるが、聞こえていなさそうだ。


「先に城に行ってるからな」


聞こえていなくても、目的地は分かっているはずなので先に城へ行くことにした。


城では布を重ねたような独特の服を着た人がいっぱいいた。


「城に居るのはみんな侍だ。刀を差しやすいように着物を着ているんだ」


見ると、侍は大小2本の刀を腰に差している。


侍たちにとっては普段見慣れない者たちが歩いているので、うさんくさい目で見られるが、キールが一緒に居るおかげか、からまれること自体は無かった。それとも、キールが持っているオーガの首に気を取られているのだろうか。


キールは城の門番に青いオーガの討伐報告をする。しばらくすると、偉そうな髭をした大臣が出てきたようだ。


「ご苦労であった。もう下がってよいぞ」


「報酬は?」


キールがそう言うと、チッと舌打ちして皮袋を投げてくる。キールが首を持っていないほうの手で受け取ると、チャリッとお金がこすれる音がした。


「それが報酬だ」


報酬が妥当かどうかは分からないが、もともと我達は気にしない。しかし、キールは違ったようだ。


「これが討伐報酬だと? 少なすぎないか?」


「これでも奮発したのだ。嫌なら城主に直訴してくれ」


「ああ、直接話をしよう」


まさか、本当にそう言われると思わなかった大臣は目を白黒させる。


「待て、分かった、おい」


大臣は横に居た側人に声をかけると、追加で皮袋を渡してきた。


「本当に、これ以上は無いぞ」


大臣はそう言って去っていく。


「あいつ、何も言わなかったらガメてたな」

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